銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
401 / 526
第15話:カノン・ガルザック撤退戦

#23

しおりを挟む
 
 ヒルザード自身がク・トゥーキ家へ出向くという話を聞いて、ノヴァルナの副官のランは、一秒の間も置かずに眼光を鋭くした。それに続くジークザルトと参謀達だが、理由を知らないヤスークだけが、無表情のままボディガードの役目を保っている。
 その理由とは無論、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガに纏わる、良からぬ印象に根ざすものだ。とある惑星で歴史的価値の高い、重要文化財の遺跡ごと敵兵を焼き殺したり、強引な手法でヤーマト宙域に勢力圏を作り、恩顧であった主家のミョルジ家を裏切ったりといった自己中心的な行動は、味方に付いたはずのウォーダ家でも、危険視している者が多かった。

 そんなヒルザードが自分からク・トゥーキ家へ出向いて、交渉しようというのであるから、ノヴァルナの家臣達が警戒するのは当然と言える。中でもヒルザードと同じフォクシア星人のランは、自分達の種族に抱かれている、“裏切り者”の印象を増幅するようなヒルザードの存在が普段から気に入らず、この話に真っ先に反応したのだった。

 ただこのような視線を浴びせられている、当のヒルザードはどこ吹く風、むしろ愉悦の眼で、ひとわたりの家臣達を見渡して、ノヴァルナに言い放つ。

「どうやら各々方おのおのがたは、わたくしを信用できないようで…ノヴァルナ様は如何ですかな?」

 顔を覗き込むようにして問い掛けて来るヒルザードに、ノヴァルナは腕組みをしながら司令官席の背もたれに寄り掛かった。そして一瞬、思案を巡らす顔をしておいて「ふん…」と鼻を鳴らし、言葉を返す。

「いいだろう、ヒルザード。あんたに任せる」

 この返答を聞いてランや参謀達は一斉に唖然とした。事情を知らぬヤスークだけが無表情の中にも、“みんな、なんでそんなに驚くんだろう?”という眼をする。

「ありがとうございます。必ずやご期待に添いまする」

 周囲の不信感に満ちた空気など読まず、ヒルザードはノヴァルナに向けて、恭しくお辞儀をした。そして半刻後、ヒルザードは自らの側近を一人従えたのみで、恒星間シャトルを借り、ク・トゥーキ星系の首都惑星である第三惑星ハール・ザムに向かう。
 本来ならジークザルトなり、ランなりのノヴァルナの直臣が同行しても、おかしくはない事態なのだが、もしヒルザードが本当に裏切った場合、同行者は殺害される恐れもある。ノヴァルナはそれを考えたのであり、これが今のノヴァルナ自身のヒルザードとの、距離感だと言える。
 
 ヒルザードの乗ったシャトルが、先行してク・トゥーキ家へ向かい始めると、ノヴァルナは分艦隊の航行速度を落とさせた。同時に分艦隊に、いつでも戦闘態勢がとれるように命じる。

「俺と『ホロウシュ』の機体も、出せるように準備しといてくれ」

 ノヴァルナは機動兵器戦参謀にも指示を出した。第1特務艦隊は、当初は量産型BSIユニットの中隊を二個搭載していたのだが、ノヴァルナが乗り込む際に、分艦隊の方は『ホロウシュ』の機体に積み替えられたのである。

 しかしノヴァルナと『ホロウシュ』が出撃しても、ク・トゥーキ家がその気になれば、分艦隊の勝ち目は非常に薄いと言わざるを得ない。なぜならク・トゥーキ家は前述の、『ハブ・ウルム・ク・トゥーキ』を保有している関係上、星大名の基幹艦隊と遜色ない恒星間打撃艦隊を三個も保有し、他の独立管領よりも強力な軍備を保有しているからだ。

 機体を出せるようにしろ…と言いながら、自身は通常の軍装のまま、司令官席で暇そうにホログラムパズルを解き始めるノヴァルナに、傍らに立つジークザルトは何かを言いたそうにする。その様子に気付いたノヴァルナは、パズルを指先で回転させながら問い掛けた。

「なんだ、ジークザルト。言ってみ?」

「やはり、マツァルナルガ様を行かせたのは、間違いではないですか?」

「ヤツが裏切って、ク・トゥーキ家に俺達をぶっ殺し、アザン・グランに取り入るように、唆すかも知れねぇってのか?」

「はい」

「ま。たぶん、大丈夫じゃね?」

 軽く言うノヴァルナに、ジークザルトは眉を顰める。

「失礼ですが…どうして、そうお思いになるのです?」

「んー、そだな。俺はヒルザードとよく似たオッサンを、知ってるから…かな」

 そう言われてジークザルトには、ある人物の名が浮かんで来た。

「ドゥ・ザン=サイドゥ様ですか?」

 無言で頷くノヴァルナ。一筋縄ではいかない癖の強さという点では、確かにヒルザードは“マムシのドゥ・ザン”を彷彿とさせる。“国を盗んだ大悪党”を自称していた、あの舅のものの考え方を知っていれば、ヒルザードの思考も読めるというものだ。

「ヒルザードの奴が、マムシ親父と同じレベルの悪党だってんなら、ここで俺達を売り渡したりは、しねーさ…」

「と…仰せになりながら、即応態勢は御取りになる?」

 幾分批判的なジークザルトに振り向いたノヴァルナは、苦笑いと共にあっけらかんと言い放った。


「たりめーよ。俺は、そんなお人好しじゃねーし!」




▶#24につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...