銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第15話:カノン・ガルザック撤退戦

#24

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 ク・トゥーキ星系首都、第三惑星ハール・ザムに接近したヒルザードのシャトルは、まずは無事に着陸許可を与えられて、衛星軌道上に浮かぶ無数の宇宙艦の間を抜けてゆく。ヒルザードはその光景をキャビンの窓から眺め、指先で顎を撫でながら「ふーむ…」と声を漏らした。反対側で同じように窓の外を眺める側近が、真面目な口調で言う。

「三個艦隊は居ますな…どうやら、全てが出航準備を整えている最中のようで」

「うむ。この物々しさからして、ノヴァルナ公にとっては、あまり良い動きではなさそうであるな」

 三個艦隊と言えば、ク・トゥーキ家の恒星間打撃艦隊の全戦力である。ノヴァルナ分艦隊を友好的に出迎えるのなら、それほどの戦力を出す必要はないはずだ。

 ク・トゥーキ家は中立勢力だが、周囲の勢力に対して何も干渉しないというわけではない。彼等には彼等なりの生き残り戦略があり、現状を考える上で、ここでノヴァルナを捕らえるなり討ち取るなりすれば、アザン・グラン家やアーザイル家、そしてウォーダ家に敗北し、オウ・ルミル宙域の一部に追いやられているロッガ家に対し、非常に大きな恩を売る事が出来る。それはつまり、今後の生存戦略にも有利に働くという期待も出来るという事だ。

「どうしますかな?」

 切迫しつつある状況であるが、動じる素振りも見せず、側近はヒルザードに問い掛けた。同行しているこの側近は、マツァルナルガ家に古くから仕えている武将の一人で、主君の考え方をよく理解しているらしい。ヒルザードは船窓の外を眺めたまま、「さてな」と口元を歪めた…。



 それからおよそ一時間後、ヒルザードの姿はク・トゥーキ城の、謁見の間にあった。玉座に座るク・トゥーキ家の当主はモーテス・ヴォクス=ク・トゥーキ。まだ十五歳の少年である。そしてその玉座の左隣にはもう一つの席があり、後見人の祖父ネッツァートが座していた。

 侍従がヒルザードの到着を告げ、謁見の間の扉が開くと、側近を従えたヒルザードが大股で悠然と入って来る。わざとらしい笑顔を張り付けて。

「これはこれは、モーテス殿。このヒルザードとの会見をお認め頂き、感謝に絶えませんぞ」

 当主モーテスの前まで来たヒルザードは、右手を自分の胸に添え、芝居じみた動きで軽く会釈した。「ようこそお出で下さった」と応じる、モーテスの表情は対照的に硬い。一方ヒルザードは後見人のネッツァートに顔を向け、こちらにも親しげに声を掛けた。

「ネッツァート殿もご壮健で何より。一年ぶりでありましょうかな?」
 
 ヒルザードの呼び掛けに齢七十八歳のネッツァートは、長い白髪の間から苦笑いを覗かせ、しわがれた声で応じる。

「相変わらずの口上ぶり。久しいですな、ダーン・ジョウ殿」

 ヒルザードは、ミョルジ家が皇都惑星キヨウを支配していた頃から、ク・トゥーキ家と面識があった。前星帥皇テルーザが“ミョルジ三人衆”殺害され、弟のジョシュアをヤーマト宙域から、アザン・グラン家が支配するエテューゼ宙域へ逃がす際も、この人脈が役立ったのである。

「ジョシュア陛下の件では、モーテス殿とネッツァート殿に、大変お世話になり申した。改めてこのヒルザードからも、御礼申し上げますぞ」

 そう言って再び頭を下げるヒルザードに、ネッツァートは「カッカッカッ…」と乾いた笑い声を発した。そして探るような眼で視線を向けて言う。

「これはご丁寧に痛み入る…しかしダーン・ジョウ殿、わざわざその時の礼を述べられるために、この惑星に立ち寄られたのではあるまいて」

 どうやらこの場は、当主のモーテスではなく後見人のネッツァートが、ヒルザードとの会見の相手になるつもりらしい。弱冠十五歳のモーテスでは老獪なヒルザードの相手は、荷が勝ちすぎるであろうから無理からぬ事だ。

「さよう。此度はノヴァルナ・ダン=ウォーダ殿下の、使者として参りました」

「ほほう。ノヴァルナ様の…そうですか」

 鋭くなるネッツァートの眼光を、素知らぬ顔で受け流したヒルザードは、ずけずけと告げた。

「あまり早まった真似は、御家のためになりませぬ事を、進言に参った次第」

「これはまた、なんとも脅迫めいた言葉ですな」

「脅迫など滅相もない。このヒルザード、御家を案じての言葉にございます」

 作り笑顔で穏やかに言うヒルザード。対するネッツァートもずばりと返す。

「当家のためと申されるが、アザン・グラン家に敗れたノヴァルナ様のお命、もはや風前の灯火と見受けまする。それが如何ほどの脅威でありましょうや」

 ネッツァートの言いようからヒルザードは、ク・トゥーキ家がノヴァルナ打倒に動こうとしているのを感じ取った。しかもネッツァートは、ヒルザードにも懐柔の言葉をかけて来る。

「どうであろう、ヒルザード殿。ここは我等にくみするが、貴殿にとっても得策ではあるまいか?」

「ふむ。得策…と、申されるはどのように?」

 損得話を持ち掛けられて、興味深げな眼になるヒルザードに、ネッツァートはニタリと口元を歪めて答えた。

「なに簡単な話であるよ。貴殿がノヴァルナ様に、我等が味方に付いたと報告し、警戒体制を解いた状態でここへおびき寄せ、これを我等が討ち取る…。貴殿にも相応の報酬を約束しましょうぞ」




▶#25につづく
 
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