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第15話:カノン・ガルザック撤退戦
#23
しおりを挟むヒルザード自身がク・トゥーキ家へ出向くという話を聞いて、ノヴァルナの副官のランは、一秒の間も置かずに眼光を鋭くした。それに続くジークザルトと参謀達だが、理由を知らないヤスークだけが、無表情のままボディガードの役目を保っている。
その理由とは無論、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガに纏わる、良からぬ印象に根ざすものだ。とある惑星で歴史的価値の高い、重要文化財の遺跡ごと敵兵を焼き殺したり、強引な手法でヤーマト宙域に勢力圏を作り、恩顧であった主家のミョルジ家を裏切ったりといった自己中心的な行動は、味方に付いたはずのウォーダ家でも、危険視している者が多かった。
そんなヒルザードが自分からク・トゥーキ家へ出向いて、交渉しようというのであるから、ノヴァルナの家臣達が警戒するのは当然と言える。中でもヒルザードと同じフォクシア星人のランは、自分達の種族に抱かれている、“裏切り者”の印象を増幅するようなヒルザードの存在が普段から気に入らず、この話に真っ先に反応したのだった。
ただこのような視線を浴びせられている、当のヒルザードはどこ吹く風、むしろ愉悦の眼で、ひとわたりの家臣達を見渡して、ノヴァルナに言い放つ。
「どうやら各々方は、わたくしを信用できないようで…ノヴァルナ様は如何ですかな?」
顔を覗き込むようにして問い掛けて来るヒルザードに、ノヴァルナは腕組みをしながら司令官席の背もたれに寄り掛かった。そして一瞬、思案を巡らす顔をしておいて「ふん…」と鼻を鳴らし、言葉を返す。
「いいだろう、ヒルザード。あんたに任せる」
この返答を聞いてランや参謀達は一斉に唖然とした。事情を知らぬヤスークだけが無表情の中にも、“みんな、なんでそんなに驚くんだろう?”という眼をする。
「ありがとうございます。必ずやご期待に添いまする」
周囲の不信感に満ちた空気など読まず、ヒルザードはノヴァルナに向けて、恭しくお辞儀をした。そして半刻後、ヒルザードは自らの側近を一人従えたのみで、恒星間シャトルを借り、ク・トゥーキ星系の首都惑星である第三惑星ハール・ザムに向かう。
本来ならジークザルトなり、ランなりのノヴァルナの直臣が同行しても、おかしくはない事態なのだが、もしヒルザードが本当に裏切った場合、同行者は殺害される恐れもある。ノヴァルナはそれを考えたのであり、これが今のノヴァルナ自身のヒルザードとの、距離感だと言える。
ヒルザードの乗ったシャトルが、先行してク・トゥーキ家へ向かい始めると、ノヴァルナは分艦隊の航行速度を落とさせた。同時に分艦隊に、いつでも戦闘態勢がとれるように命じる。
「俺と『ホロウシュ』の機体も、出せるように準備しといてくれ」
ノヴァルナは機動兵器戦参謀にも指示を出した。第1特務艦隊は、当初は量産型BSIユニットの中隊を二個搭載していたのだが、ノヴァルナが乗り込む際に、分艦隊の方は『ホロウシュ』の機体に積み替えられたのである。
しかしノヴァルナと『ホロウシュ』が出撃しても、ク・トゥーキ家がその気になれば、分艦隊の勝ち目は非常に薄いと言わざるを得ない。なぜならク・トゥーキ家は前述の、『ハブ・ウルム・ク・トゥーキ』を保有している関係上、星大名の基幹艦隊と遜色ない恒星間打撃艦隊を三個も保有し、他の独立管領よりも強力な軍備を保有しているからだ。
機体を出せるようにしろ…と言いながら、自身は通常の軍装のまま、司令官席で暇そうにホログラムパズルを解き始めるノヴァルナに、傍らに立つジークザルトは何かを言いたそうにする。その様子に気付いたノヴァルナは、パズルを指先で回転させながら問い掛けた。
「なんだ、ジークザルト。言ってみ?」
「やはり、マツァルナルガ様を行かせたのは、間違いではないですか?」
「ヤツが裏切って、ク・トゥーキ家に俺達をぶっ殺し、アザン・グランに取り入るように、唆すかも知れねぇってのか?」
「はい」
「ま。たぶん、大丈夫じゃね?」
軽く言うノヴァルナに、ジークザルトは眉を顰める。
「失礼ですが…どうして、そうお思いになるのです?」
「んー、そだな。俺はヒルザードとよく似たオッサンを、知ってるから…かな」
そう言われてジークザルトには、ある人物の名が浮かんで来た。
「ドゥ・ザン=サイドゥ様ですか?」
無言で頷くノヴァルナ。一筋縄ではいかない癖の強さという点では、確かにヒルザードは“マムシのドゥ・ザン”を彷彿とさせる。“国を盗んだ大悪党”を自称していた、あの舅のものの考え方を知っていれば、ヒルザードの思考も読めるというものだ。
「ヒルザードの奴が、マムシ親父と同じレベルの悪党だってんなら、ここで俺達を売り渡したりは、しねーさ…」
「と…仰せになりながら、即応態勢は御取りになる?」
幾分批判的なジークザルトに振り向いたノヴァルナは、苦笑いと共にあっけらかんと言い放った。
「たりめーよ。俺は、そんなお人好しじゃねーし!」
▶#24につづく
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