銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第15話:カノン・ガルザック撤退戦

#27

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 ク・トゥーキ家がノヴァルナ側について二日後、旗艦『クォルガルード』以下、ノヴァルナ分艦隊はク・トゥーキ家の恒星間打撃艦隊に護られて無事、ヤヴァルト宙域へ到達した。
 程なくしてヤヴァルト宙域に駐屯している、フジッガ・ユーサ=ホルソミカと、マスクート・コロック=ハートスティンガーの艦隊も駆けつけて来て、万全の態勢をとる。オウ・ルミル宙域から出る間際になって、ノヴァルナ分艦隊の存在に気付いたアーザイル家の警備艦隊が接近して来たが、圧倒的な戦力差に手を出せないまま引き上げて行った………


しかしウォーダ軍の試練はまだ終わってはいない―――


「六番哨戒駆逐艦より、“敵艦見ユ。我ヨリノ方位252プラス15、距離およそ5万6千”!」

 殿軍を務めている第36艦隊旗艦『ヴェルセイド』の艦橋に、オペレーターの緊張した声が響く。しかも報告はその一つではない。

「十一番哨戒駆逐艦より敵艦隊発見の報あり! 方位051マイナス08、距離約7万2千、艦数6」

 新たな哨戒情報が戦術状況ホログラムに書き込まれ、敵艦のマーカーが、自軍の左右にそれぞれ追加表示された。間違いなく、追って来たアザン・グラン軍の主力部隊だ。司令官席に座るキノッサは大きなため息をつき、左手に抱えていたカップヌードン赤ミーソ味の、スープの残りを飲み干す。

「やっぱり、捕捉されちまったッスね…」

 仕方ない…といった表情で話し掛けるキノッサに、傍らに立つ参謀長のハーヴェンは、苦笑いを浮かべて冗談を返す。

「夕食をカップヌードンで済まされて、正解でしたね。良きご判断でした」

 「てへへ…」と笑い声を発したキノッサは、艦隊参謀に問い掛ける。

「全艦の重力子チャージ完了まで、どれぐらいッスか?」

「駆動系にダメージを受けた一部の損傷艦に、チャージの遅れが出ています。全艦の完了を待つのであれば、まだ四時間はかかります」

 艦隊参謀の言葉はつまり、その一部の損傷艦を見捨てるなら、残りの艦はもっと早くDFドライヴを行って、このエリアから離脱できるという事を示している。ただこれはあくまでも艦隊参謀という立場からの、艦隊司令官への判断材料の提示であった。そしてキノッサには、損傷艦を見捨てる選択肢は無い。

「ここで損傷艦を見捨てて転移しても、次の転移先で捕捉されたら同じ事ッス」

 そう応じたキノッサは席を立ち、ダストシュートまで歩いて、行儀よく自分の手でカップヌードンの空容器を捨てながら命令を発した。

「全艦戦闘態勢ッス!」
 
 キノッサの艦隊とそれに従うミディルツ艦隊。さらに、独立管領イ・クーダ家の二個艦隊が戦闘態勢を整える間にも、出現するアザン・グラン軍の主力部隊は、その数がどんどん増えていく。『カノン・ガルザック』宇宙城攻防戦から始まって、これが四度目の戦いとなる。
 四つの自軍艦隊がそれぞれに、防御主体の球形陣を組み始めるのを、艦隊情報ホログラムで確認しながら、キノッサはどこかのんびりとした口調で、ハーヴェンに問い掛けた。

「さて、軍師どの。次はどんな手をお考えッスか?」

 これに対して、ハーヴェンは苦笑いを浮かべて応じる。

「困りましたな。何らかの手を打つにも、戦力が足りそうにありません」

 一戦目は宇宙城の自爆。二戦目は第1特務艦隊が残した補給部隊の活用による、潤沢な兵装での効果的迎撃。そして三戦目は一転、小部隊に分散しての執拗な囮戦術によって、アザン・グラン軍の足止めに成功していたキノッサ軍だったが、それでも圧倒的な戦力差を前に損耗は増え続け、ボディブローの如くダメージは蓄積して来ていた。天才的なハーヴェンの頭脳をもってしても、戦術を実行するだけの戦力と補給がなければどうしようもない。

「どの艦隊も、現状戦力は…六割強ってとこッスかねぇ」

 キノッサは自分の艦隊情報をNNLで呼び出し、戦力状況を口にする。六割もの損害が出ているなら、兵科の常道として、普通の戦場であれば撤退すべき数値だ。しかし彼等が戦っているのは殿軍戦であり、撤退するにも自分達の勢力圏までは、自力で逃げ切らなければならない。

「オウ・ルミル宙域方面軍も動いてくれておりますゆえ、どうにか次のDFドライヴまで持ち応える事が出来れば、何とかなるでしょうが…」

 ノヴァルナ分艦隊とは違い、キノッサの殿軍はその存在を隠す必要はなく、むしろ敵を引き付けるべく目立つ方がいい。そのため殿軍は三戦目を終えた直後から、ウォーダ家オウ・ルミル宙域方面軍に向けて、救援要請を続けていた。
 そして現在、これに応じて方面軍司令官ナルガヒルデ=ニーワスが、自ら複数の艦隊を率いて救援に動き出していたのだ。

 双方はおそらく次のDFドライヴで合流できると思われ、そうなればアザン・グラン軍も追撃を諦める可能性が高い。つまりこの戦いが、キノッサの殿軍の命運を懸けた戦いになるはずである。

「我が軍の右舷方向に、恒星系の外縁小惑星帯があります。まずはここで防御戦闘を行いましょう」

 落ち着いた口調で提案するハーヴェン。彼が見る宇宙地図には、HKー8730912という名の恒星系が表示されていた。




▶#28につづく
 
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