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第16話:アネス・カンヴァーの戦い
#02
しおりを挟むアーザイル家の本拠地、ナッグ・ハンマ星系第三惑星グバング。地表のオルダニカ城から、軌道エレベーターで繋がる宇宙城『キールゴーク=クールマ』。その周囲にはアーザイル家所属を示す、“三盛亀甲銀河”の家紋が描かれた無数の艨艟が、舳先を並べている。
彼等もウォーダ家が遠征軍を進発させたのは気付いており、全力で迎撃に向かおうとしているのである。それは無論、この本拠地ナッグ・ハンマ星系まで、ウォーダ軍を呼び込むようなものではない。オウ・ルミル宙域の中心部に存在する、超巨大暗黒星雲『ビティ・ワン・コー』から、細長く伸び出た枝のような形状星雲、通称“アネス・カンヴァー”星雲を戦場に想定。連合軍を組むアザン・グラン軍も、そちらに向けて行動を開始したという連絡を得ていた。また情報部は、今回もトクルガル家が援軍としてウォーダ家に合流するため、艦隊を出動させたという情報を入手しており、アーザイル/アザン・グラン側でもこの戦いが、戦国有数の大会戦となるのを認識している。
宇宙城の将官用シャトルの発着場では、戦隊司令官、艦隊司令官がそれぞれに、見送りの家族と言葉を交わしていた。
そこからやや高く離れた位置にある専用ポートでは、自分の旗艦へ向かおうとするナギ・マーサス=アーザイルと、それを見送る妻のフェアンの姿がある。白いエンパイア・ドレスを来たフェアンの腕には、三つ子姉妹の長女ディーチェスが抱かれており、フェアンの両脇に立つ二人の侍女の腕には、二女のハーティア、三女のオルーガが抱かれている。
「いってらっしゃい。無事の帰還を待ってる」
微笑みと共に、見送りの言葉を投げかけるフェアン。ただその微笑は、どこか哀しげであった。
「うん。必ず帰って来る」
そう言うナギの表情も、どこかしら硬い。無理もなかった。戦う相手は、妻が今でも大好きな兄であり、ナギ自身も尊敬してやまないノヴァルナの軍勢だからだ。そうであるなら、「勝って来る」や「戦果を挙げて来る」「頑張って」などと、言えるはずもない。
そして…そのような心情でもナギが出撃するのは、妻と三つ子姉妹の、身の安全のためであった。父クェルマス=アーザイルの意志に従い、ウォーダ家と戦う事によってのみ、妻のフェアンと三人の娘はアーザイル家内での自由が、保証されていたからである。と言っても当然ながら、惑星グバングを離れてウォーダ家へ戻る事までは、許されていなかったが。
「それじゃあ」と告げてシャトルへ向かう、夫を見送るフェアンの腕の中では、長女のディーチェスが、無垢な寝顔を見せていた。
皇国暦1565年2月17日。遠征に出たウォーダ軍は最初の戦果を挙げる。ただこれは、戦闘によるものではない。キノッサの軍師デュバル・ハーヴェン=ティカナックによる、凋落工作である。
キノッサの第36艦隊の出航に先んじて、ハーヴェンが数名のスタッフと共に向かったのは、アーザイル/アザン・グラン連合軍によって占領された、ミノネリラ宙域のナービ植民星系だった。
連合軍に占領されたのち、現在はアーザイル家に従属する独立管領のフィデル=ホリスが、ウォーダ家の建造した宇宙要塞に入ってこれを修復。防衛にあたっていたのだが、ハーヴェンはエテューゼ宙域に居を構えていた一時期、このホリス家と友好関係にあった。その時の誼を通じて、ウォーダ家に与する利を説き、寝返らせる事に成功したのだ。
このホリス家の凋落成功の意義は、ウォーダ軍にとって非常に大きかった。進路上の障害となっていたナービ星系奪還に、戦力を投入する必要がなくなったばかりか、駐留していたホリス家の艦隊を、味方に加える事が出来たからである。
フィデル=ホリスは寝返ったウォーダ家への忠誠を示すため、すぐさま艦隊をオウ・ルミル宙域へ進出させると、ヒヴァリスという名の植民星系にあった、アーザイル軍補給基地に対して艦砲射撃を加える。
この補給基地は決戦場に想定している“アネス・カンヴァー星雲”に近く、決戦が長引いた場合の、重要な補給拠点の一つとなったであろうもので、ナギ・マーサス=アーザイルの父で、アーザイル軍を指揮するクェルマスはこれに激怒したが、接近中のウォーダ軍との決戦を控えており、今は放置するしかなかった。
ウォーダ軍がオウ・ルミル宙域ノーザ恒星群へ入って、二日後の2月21日。ノヴァルナは、オルダニカ城のある首都星系ナッグ・ハンマから、約三百光年離れたトラン・ゴーゼス星系を無欠占領。
さらに2月24日、ウォーダ軍はナッグ・ハンマ星系と“アネス・カンヴァー星雲”を挟んで隔てられた、サクータ星系最外縁部のルガンヴァナ小惑星帯へ移動した。この星系には第五惑星ホルーヴェに、アーザイル家の重要拠点であるヤクマック城があり、これを包囲する事でアーザイル軍迎撃部隊を引き付け、戦場を限定する戦略である。すると翌25日、ルガンヴァナ小惑星群に駐留するウォーダ軍本陣に、ミ・ガーワ宙域から出発したトクルガル軍が合流を果たした。
一方のアーザイル軍にも、アザン・グラン軍増援部隊が到着。両軍の戦雲はいよいよ高まっていく。
▶#03につづく
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