銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第16話:アネス・カンヴァーの戦い

#07

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 トクルガル軍もマガランの強さは充分知っており、普段のBSI同士の機動戦では、勝てないと踏んだのであろう。比較的機動性の高い駆逐艦の砲力と、最新鋭親衛隊仕様機の組み合わせで、マガランを屠ろうとしているらしい。

 駆逐艦の艦長が四機の『リュウビ』親衛隊仕様機に通信を入れる。艦長は豹のような頭のパンタル星人だ。

「“ハンターカルテット”は手筈通り、敵のBSHOを主砲の射線上に、おびき寄せてくれ。いいな」

「了解だ、『シグマード』。三人とも、かかれ!」

 駆逐艦の名は『シグマード』、四機のBSIユニットチームは、“ハンターカルテット”と名付けられており、BSHOや親衛隊仕様機に乗った、敵のエリートパイロットを“狩る”ために編制された小部隊だった。これまでは主に、イマーガラ家との戦いに投入されていたが、今回の戦いはBSI戦も激しいものになると予想されたため、遠征軍に帯同して来たのである。

「相手はマガランだぞ。油断するな」

「わかってる!」

 四機は加速を掛け、マガランの『キョウマ』を取り囲んで回り始める。ただ、これに対するマガランは、落ち着いたものであった。コクピットのコントロールパネルを指で操作し、幾つかのセンサーを解析モードに切り替える。トクルガル軍の最新鋭BSIユニット『リュウビ』の親衛隊仕様機と戦うのは、おそらくアザン・グラン軍では自分が初めてのはずであり、今後の事も考えて、データ収集を進めておこうと考えたのだ。その間に四機の『リュウビ』親衛隊仕様機は、『キョウマ』の包囲体制を完了する。

「さて。始めようではないか!」

 愉悦の表情で言い放つマガラン。爬虫類を思わせる皮膚の、モルンゴール星人の口元が大きく歪む。それを合図としたかのように四機の『リュウビ』親衛隊仕様機が、ポジトロンランスを手に、四方向から一斉に吶喊を仕掛けた。パイク(鉾)ではなくランス(鑓)を使うのは、腕に自信のある手練れである証だ。

 四方向から突き出される鑓の穂先に、マガランは豪刀『タイロン』の幅広の刀身を盾代わりにして、機体を急速回転させる。ひとまとめに弾かれる四機のポジトロンランス。しかし四機とも、それは織り込み済みであった。鑓を弾かれた事に動揺もなく、続いて腰に装備したクァンタムブレードを起動し、刺突を繰り出す。鑓の一撃は超大型ブレード『タイロン』の、間合いの内側にまで踏み込むための、布石だったのだ。親衛隊仕様機のパイロットが言い放つ。

「油断したな!」
 
 四本のブレードが『キョウマ』の巨体を貫く、そう思われた次の瞬間、思いがけない事が起こった。刺突箇所に黄色い光のリングが出現し、ブレードが四本とも、機体表面紙一重のところで弾かれたのである。

「なにっ!!」

 微動だにせず豪刀『タイロン』の刀身を輝かせる、マガランの『キョウマ』。身の危険を感じた“ハンターカルテット”の四人は、素早く回避行動に移行して距離を置く。

「どういう事だ? シールドか?」

「いや。クァンタムブレードの量子分解フィールドなら、エネルギーシールドは中和されて無効なはず」

 『キョウマ』の周囲を飛びまわり、再攻撃の間合いを計る四機のパイロットが、困惑の表情で通信を交わす。

「いや待て、聞いたことがあるぞ」

「何をだ?」

「“トランサー”を使える者は、これを極めればエネルギーシールドではなく、機体を包む重力子フィールドを、ピンポイントで反転集中展開して、物理攻撃を防ぐ事が出来るようになると」

「なに!? あれは単なる噂…都市伝説みたいなものでは、なかったのか?」

 するとここでマガラン自身が、全周波数帯通信で四人に語り掛けて来た。

「さよう、都市伝説にあらず。これぞ“トランサー”を極めたる者のみが、体得できる防御術…」

「むっ。マガラン殿!」

 マガランは笑い声を交えてさらに続ける。

「ふはははははは。貴殿らの今のような子供だましの技では、我が『キョウマ』の機体には、傷一つ付けられぬと知れ。我を倒すには、もっとしっかりと間合いに踏み込んで参られい!」

 マガランが見せたこの防御術は以前、ノヴァルナが初めて“トランサー”能力を覚醒させた際に、敵BSHOの斬撃を弾いたのと同じものだ。NNLのサイバーリンクを通して、機体の航法制御用の反転重力子フィールドを任意の箇所に集中、斬撃や刺突から機体を保護する事が出来る。ただし、超電磁ライフルの亜光速弾や、間合いに深く踏み込んでの強い斬撃や刺突までは、防ぐ事は出来ない。

「マガラン殿。なぜそれを我等に教えられる!?」

 牽制の超電磁ライフルを撃ち掛けながら、“ハンターカルテット”のリーダーが問い質す。その銃弾を右へ左へ回避しながら、陽気に応じるマガラン。

「いやなに、せっかくの余興。我がこの防御術を使える事を知らず、これが原因で貴殿らが死なば、お互いに口惜しゅう思うであろうからな」

「余興と申されるか!」

 “ハンターカルテット”の一人が腹立たしく言い放った直後、駆逐艦『シグマード』が主砲を連射しながら、矢のように突っ込んで来た。艦長のパンタル星人が叫ぶように言う。

「我等が誘いに乗ったな、マガラン殿!!」
 
 駆逐艦『シグマード』の八基ある連装ブラストキャノンが、急接近しながら猛烈にビームを放って来る。それを『キョウマ』は、細かい機動を重ねて行い、悉くを回避する。機体を操るマガランはむしろ愉悦の表情だ。

「ふはははは。それそれ、それよ! BSI同士の戦いに、駆逐艦を持ち込む事こそ、余興以外のなにものでも無かろうよ!」

 そこへ飛んで来る、『シグマード』からの回避不能の主砲ビーム。連射性に優れた駆逐艦の主砲は威力は低いが、それでもBSHOなら一撃で撃破する事が可能である。だがマガランは幅広の豪刀『タイロン』を縦向きにかざして、動じる事無く弾き飛ばした。
 すると『キョウマ』の横をそのまま航過した駆逐艦『シグマード』は、まるでBSIユニットのように、自動車で言うドリフト走行・・・・・・を掛け、急速ターンと共に主砲塔を旋回。反対側から『キョウマ』に主砲を連射する。

「うむ。見事ではある!」

 駆逐艦と“ハンターカルテット”の連携の良さは、マガランも認めるところだった。BSIユニットのような駆逐艦の動きは、マガランも初めて見るものであり、この駆逐艦と四機の親衛隊仕様機が、訓練に訓練を重ねたのは、否定のしようがないところだ。
 しかも巧妙なのは、駆逐艦『シグマード』の主砲連射を、『キョウマ』が回避した先々に、親衛隊仕様機が待ち構えている事である。そしてこれを回避した先に待っているのが、再度の駆逐艦の主砲射撃だ。

 ところがこれでも、マガランの闘志を削ぐ事は出来ない。親衛隊仕様機が繰り出すポジトロンランスを、『キョウマ』は豪刀『タイロン』を軽々と振り回し、事も無げに弾き防ぐ。そして忘れてはならないのは、マガラン自身はまだ、本格的に攻勢に出ていない事である。その答えは…ただ、『リュウビ』親衛隊仕様機のデータ収集のためであったのだ。

 解析データを映し出すモニターを眺めるマガランは、機体操縦を怠る事無く、落ち着いた口調で独り言ちる。

「ふむ。先日収集したウォーダ軍の『シデン・カイXS』よりも、最高速度では劣るが旋回半径は小さい…か。重力子出力は縦方向の方が、反応が良さそうだな。超電磁ライフルの発射速度も、現行のものより優れている…なるほど」

 確認を済ませたマガランは、表情を引き締めて強い口調て告げる。

「さて。余興は終わりにしようか!」

 次の瞬間、今までとは次元の違う動きを見せて、『キョウマ』は猛然と四機の親衛隊仕様機の真中へ、飛び込んでいった。



▶#08につづく
 
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