銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第16話:アネス・カンヴァーの戦い

#13

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「FTFが撤退しただと!?」

 豪刀『タイロン』を大きく一振りしたBSHO『キョウマ』に乗る、アザン・グラン軍の猛将マガランは、味方同士の交信から、戦局に変化が起こり始めた事に即座に勘付いた。その背後には今しがたまでBSIチーム“ハンターカルテット”とのコンボで戦っていた、トクルガル軍駆逐艦『シグマード』が三つに輪切りされ、機能を停止して宇宙空間を漂っている。

“敵の突出部を叩くか…”

 マガランとその配下のBSI部隊の攻撃力であれば、敵の主力基幹艦隊であっても打ち破る事が可能であった。
 幸いトクルガル軍も前進を開始したとはいえ、まだ隊列を整えられてはいない。今ならば、FTF部隊が討ち漏らしたイェルサス直卒の、敵第1艦隊を強襲する事も可能に思える。マガランは機体を加速させると同時に、通信回線を開いて配下の機体に呼び掛けた。

「“インヴィンシブル中隊”、俺のマーカーを追って全機集合しろ」

 マガランが率いる“インヴィンシブル中隊”は、親衛隊仕様BSIユニット『ハヤテGC』二十二機で構成されており、各パイロットの技量からすれば、FTF部隊を凌いでいる。
 その“インヴィンシブル中隊”各機は、マガランが“ハンターカルテット”と単機で戦っている間も、別行動をとって戦線を支えていたのだ。指揮官機であるマガランの護衛に中隊機がつかないのは、軍隊として常識的ではないが、これはマガラン自身が単騎駆けを基本としているからであった。

 マガランがコースを取ったのは無論の事、イェルサスの第1艦隊だ。そこへすぐに、“インヴィンシブル中隊”の配下が集まって来る。

「“18”と“21”はどうした?」

 周辺センサーを確認したマガランは、まだ反応がない18番機と21番機について、問い質した。事実上の中隊指揮を執っている、“インヴィンシブル02”がこれに答える。

「両機とも敵とまだ交戦中。すぐに追いつくと思います」

 これに頷いたマガランが次に通信を入れたのは、周辺にいる味方の、他のBSIユニットやASGULに宇宙攻撃艇だった。

「この通信を聞き、我に従える者はついて来い。これよりトクルガル軍総旗艦に、第二次攻撃を仕掛ける!」

 この呼び掛けに奮い立ったアザン・グラン軍のパイロット達は、マガランの操縦する『キョウマ』のマーカーに向かって、機体針路を向けて加速し始める。
 ただトクルガル軍第1艦隊も、直掩のBSI部隊が護衛態勢を立て直し、さらに補給を終えたティガカーツ=ホーンダートの、『カヅノーVC』と彼が所属する“ファイアフライ中隊”も待ち構えており、さらなる暴風雨の到来を予感させた。
 
 マガランとティガカーツの邂逅はある意味、両軍の思惑が合致した結果だった。適度な時間差を置いた第二次攻撃が、効果的である事は軍事的セオリーであり、トクルガル軍総旗艦艦隊に対するこれを思い立った、マガランの判断は正しい。周辺に散らばった戦力を糾合する手も、間違ってはいない。

 一方のトクルガル側も同じ理由から、アザン・グランからの第二次攻撃に対し、警戒態勢のレベルを高めていた。こちらも戦争のプロであり、アザン・グラン軍FTF部隊を退けた今のタイミングこそ、要注意であるのは認識できている。そうであるから艦隊直掩のBSI部隊を立て直し、ティガカーツのいる“ファイアフライ中隊”も、護衛につけていたのである。



 前進を始めたトクルガル軍の中で、前衛に出た第3、第5、第6艦隊は、相対したアザン・グラン軍との、激闘の度合いを高めているが、イェルサスの第1艦隊周辺は現在、予想外に落ち着いた状況だった。赤みのグラデーションで色合いが変化している紫色の星間ガスが、幾重にも重なった薄いベールのようになって、広がるのみである。

静かであった―――

 だが新兵や戦闘経験の浅い兵を除き、トクルガル軍第1艦隊の誰しもが、この静けさが嵐の予兆である事を感じている。

 そんな中、ティガカーツ=ホーンダートは、『カヅノーVC』のコクピットに座り、背中を預けたシートを倒して、ミ・ガーワ宙域で流行りのアイドルグループのアルバムを聴いていた。機体は第1艦隊の誘導ネットワークとリンクした自動操縦に任せ、組んだ両腕は操縦桿を握ってすらいない。ヘルメットを被った頭が小刻みに揺れているのは、スピーカーから流れる曲のリズムに合わせているのだろう。

 変人ぶりを全開にして、あくまでもマイペースなティガカーツ。しかしそれは、天才ゆえの非常識的行動とも言える。そこに告げられる、緊急警報音に続く戦いの時の到来。ティガカーツのヘルメットのスピーカーも、軽快な曲を中断し、司令部からの敵発見の報を伝え始める。

「敵反応あり! 方位―――」

 その時にはもう、ティガカーツはシートを定位置に跳ね上げ、攻撃管制システムを起動。操縦桿を前方へ倒した。敵の位置情報が続けられた時には、すでに一気に降下に入っている、ティガカーツのBSHO『カヅノーVC』。この若者の突拍子の無さを知る、“ファイアフライ中隊”指揮官は即座に命令を発した。

「中隊全機、『カヅノーVC』に続け!」



▶#14につづく
  
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