銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第16話:アネス・カンヴァーの戦い

#14

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「―――敵集団の方位、221マイナス62」

 司令部からの通信が伝え終えられる前に、ティガカーツが向かっていた敵部隊。それがまさに、マガランの直卒する“インヴィンシブル中隊”であった。
 マガランの方も、いち早く自分達の接近に気付いた、ティガカーツと“ファイアフライ中隊”を強敵と認識する。

「ほう…この反応、BSHOだな。特務隊を単機で退けたのは、こいつか」

 距離を詰めて来る“ファイアフライ中隊”の解析情報を、モニター画面で確認したマガランの双眸が光った。ここへ来るまでの情報で、FTF部隊を撤退に追い込んだのは、救援に現れた敵のBSHOの、単騎駆けであった事は掴んでいる。そのBSHOというのが、おそらくこれであろう。詳細はまだ不明だが、相当な使い手であるのは間違いない。

 ぶん!…と、『キョウマ』が手にした豪刀『タイロン』を、ひと振りさせたマガランは「どぉれ―――」と、品定めするような表情を浮かべた。敵のBSHOを討ち取れば、敵全体に精神的ダメージを与える事が出来るのは勿論だが、それ以上に武辺に生きる者としての本能が、一騎打ちを求めている。

「敵のBSHOは、我が引き受ける。“インヴィンシブル中隊”と各味方機は、トクルガル軍の総旗艦を狙え!」

 味方の攻撃隊にそう命じたマガランは、一直線に向かって来るトクルガル軍のBSHO―――『カヅノーVC』に向け、『キョウマ』を加速させた。

 そしてこの『キョウマ』の動きは当然、『カヅノーVC』を操るティガカーツも把握している。このアザン・グラン家との戦いが開戦された時から、モルンゴール星人武将ネオターク・ジュロス=マガランと、そのBSHO『キョウマ』こそ、手合わせを望んでいた相手であったからだ。

「あれが…マガラン殿の『キョウマ』!」

 群を抜いた加速性能でこちらに接近して来る、『キョウマ』の解析情報を見て、ティガカーツは操縦桿を握る両手が、僅かに震えているのを自覚した。だが断じて怯懦によるものではない。

“ふぅん。これが…武者震いっていうものかぁ”

 自分自身の体の反応を冷めた感覚で捉えたティガカーツだったが、それでも一方で湧き上がって来る、熱感は否定のしようがない。『カヅノーVC』が握る大型ポジトロンランス、『ドラゴンスレイヤー』が二度三度と回されて、大きく弧を描いた穂先が、“アネス・カンヴァー星雲”の星間ガスを切り裂く。

「僕の名はティガカーツ=ホーンダート。ネオターク・ジュロス=マガラン殿に手合わせ所望!」
 
 すれ違いざまに打ち合わされた、『ドラゴンスレイヤー』と『タイロン』が、激しく火花を散らす。機体を旋回させながら口元を歪めるマガラン。

「ほほぅ。貴殿がいま売り出し中の、ホーンダートの新当主であるか!」

「ども」

 素っ気なく応じるティガカーツだったが、今の得物同士の一合で、相手の機体が桁違いのパワーを持つ事を感じ取った。モルンゴール帝国製のBSHOと戦うのは初めてだが、やはり皇国製のBSHOとは別物の感じがする。

 加速をかけた『カヅノーVC』と『キョウマ』が、間合いを詰めるのは一瞬の事だ。再び振られる双方の長鑓と豪刀。ガツン!…とぶつかり合った双方の刃が、青白いスパークを爆ぜさせる。

「ぬうん!!」

 合わさった『ドラゴンスレイヤー』の穂先を強引に跳ね上げ、さらに斬り込んで来るマガランの『キョウマ』。瞬時にティガカーツが後退させた『カヅノーVC』の胸板を、豪刀『タイロン』の切っ先が間一髪で通過した。
 そこからさらに追撃の袈裟懸け、突き、小手斬りを放つ『キョウマ』だったが、そのどれもを、『カヅノーVC』は正確に見切って回避する。ごく僅かな差で刃が届かないのは、それだけ『カヅノーVC』に、無駄な動きがない事を示している。これを見てマガランは、感嘆の呟きを漏らした。

「なんと恐ろしくバランス能力の高い機体だ。そしてその機体性能を、余すところなく引き出しているパイロット。これは凄い…」

 対するティガカーツは操縦桿を握り締めて、まともに武器を打ち合う事に危惧を覚える。『キョウマ』のパワーと豪刀『タイロン』の破壊力で、『ドラゴンスレイヤー』がへし折られる可能性を感じたのだ。そして事実、『キョウマ』と戦ったBSIユニットは、持っていた近接用武装ごと、機体を斬り裂かれて撃破されたものも多い。

「こりゃあ…思ってたより、たいへんかも」

 緊張感のない口調で言うティガカーツだが、相手との間合いを計るその眼に輝く光は、厳しさを増していた。思考が一致した二人は、同時に“トランサー”を発動させる。意識の中に驟雨の如く流れ込んで来る、ダイレクトな電子情報。肉眼では見えなくても、頭の中で視覚が敵BSHOの位置を描く。その上で再び間合いを詰めて来る、二人の天才パイロット。
 一瞬早く、下段から鑓を振り上げる『カヅノーVC』。機体を流れるように回転させ、鑓の穂先を回避しながら豪刀『タイロン』を振り抜く『キョウマ』。その分厚い刀身が、機体を横スクロールさせた『カヅノーVC』の、左側頭部スレスレを過ぎ去る。



▶#15につづく
 
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