銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第16話:アネス・カンヴァーの戦い

#15

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「速いなぁ。怖いなぁ」

 そう言いながらも一分の隙も無く機体を操るティガカーツは、猛然とポジトロンランスの『ドラゴンスレイヤー』を突き出した。残像を生むような連続突きではなく、『キョウマ』の斬撃コンボの、一瞬の間をただ一点で突いたのだ。常人では見極められない、刹那の空隙であった。

「むぅっ!!」

 マガランは機体を即座に捻らせる。『キョウマ』の右脇腹を抉り取る『カヅノーVC』の鑓。だが外殻装甲を削られただけで致命傷ではない。むしろマガランが、ティガカーツを呼び込んだ形だ。危険を察知し、反射的に機体をダイブさせるティガカーツ。一瞬後、『カヅノーVC』のいた位置を、豪刀『タイロン』が神速で薙ぎ払った。

「チィ! これを躱すか!!」

 マガランからすれば、“肉を切らせて骨を切る”一手だったのだが、ティガカーツには通用しなかったようだ。逆に間合いを置いた『カヅノーVC』が、素早く超電磁ライフルを構えて、至近距離でトリガーを引く。

「!!!!」

 咄嗟に機体をのけぞらせるマガラン。突き出された『キョウマ』の顎を掠めて、銃弾が飛び去る。そこから『キョウマ』は体勢を立て直して急加速。かざした『タイロン』の刀身で、『カヅノーVC』が放ったライフルの次弾を弾き飛ばし、突き出される『ドラゴンスレイヤー』の穂先を紙一重で回避。斬撃距離まで一気に飛び込んだ。ここぞとばかりに上段から豪刀を振り下ろす。

「今度こそ取ったぞ!!」

 さらに踏み込んだ一撃、これは躱せまいと確信するマガラン。ところが豪刀『タイロン』が振り下ろしきれない。『カヅノーVC』が瞬時に半回転させた『ドラゴンスレイヤー』の柄で、『タイロン』の刀身ではなく、これを握る『キョウマ』の手首を押し留めていたのである。

「く! いつの間に!!」

 歯噛みをしたマガランだが、すかさず『キョウマ』で前蹴りを放ち、『カヅノーVC』を引き剥がしにかかった。距離が開きかける瞬間に、さらなる斬撃を狙う。だがこれは、ティガカーツの間合いでもあった。大型ポジトロンランス『ドラゴンスレイヤー』の握りを緩めて、大きく旋回させる。『キョウマ』のコクピットに座るマガランに、ガン!…という振動が伝わり、被弾警報がヘルメットのスピーカーから聞こえたのは、その直後であった。

「一撃喰らっただと!?」

 先程のわざと受けた一撃ではなく、想定外のダメージだ。握りを緩めて振り回した事で、持ち位置からの長さが伸びた『ドラゴンスレイヤー』の穂先が、マガランの機体の左肩を下から切り裂いたのだった。
 
 ティガカーツの放った雑な一撃だった。しかし雑であるからこそ、玄人には読みづらさがある。そしてこのような雑でありながら的確な斬撃を、感性で繰り出して来れるのが、ティガカーツの天才たる所以なのだ。

“くそっ…この俺が、見切れなかっただと!”

 苦虫を嚙み潰したような表情でサイバーリンクを使い、素早く機体の損害状況を確認するマガラン。左肩関節部が鑓の穂先に裂かれたようだ。下から振り上げた一撃だったため、ショルダーアーマーでは防げなかったのだ。確認の結果、左腕を動かすための、金属繊維筋肉制御装置にダメージを受け、肩の付け根部分で一部が断裂しているらしい。今はまだ戦闘に大した影響はないが、時間が経てば断裂箇所が拡大して、『キョウマ』は左腕が動かなくなる恐れがある。

 その間にもティガカーツの『カヅノーVC』は、容赦なく鑓を繰り出して来る。だがこれを全て豪刀『タイロン』で弾き返す『キョウマ』。一撃を与えたものの、好転しない状況に、ティガカーツもつい苛立ちそうになる。


だけど―――


 焦らない、焦らない…と、ティガカーツは自分に言い聞かせた。“焦りは禁物”は、九年前にウォーダ家との戦いで討ち死にした、実父のダグ=ホーンダートが自分に、繰り返し教えてくれていた言葉であった。

 まだ十一歳だったあの日、出陣を控えた父は屋敷を出る際に、自分の頭に右手を置いて、「よいか。何事も焦りは禁物だぞ」と、穏やかな笑顔で告げて去って行った。そしてそれが、自分が最後に聞いた父の言葉だったのである。
 温厚な性格であった父のダグは、ウォーダ軍を引き付けるため、自身のBSHOで単身出撃する際も、同僚や家臣達に穏やかな笑顔を見せていたという。

 それを聞いた時から自分は何事にも、自分なりのマイペースで当たろうと、ティガカーツは決めたのであった。だから天才パイロットと騒がれても、孤高の変人だと思われても、自分を変えるつもりは無い。その上でティガカーツは、このマガランとの戦いは、技を重ねた者が勝つ“足し算の戦い”ではなく、ミスをした方が敗北する“引き算の戦い”なのだと確信した。

“いいよ、マガラン殿。付き合うよ”

 胸の内で呟いたティガカーツは、スロットルを全開にして、『カヅノーVC』を急加速させる。コンマ数秒の勢いで突き出される『ドラゴンスレイヤー』。対するマガランも「おう!」と叫ぶと、宇宙の闇を切り裂かんばかりに豪刀『タイロン』を、猛然と一閃させる。両雄の戦いは、まだ決着がつきそうになかった………



▶#16につづく
 
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