425 / 526
第16話:アネス・カンヴァーの戦い
#16
しおりを挟む“アネス・カンヴァー星雲会戦”が佳境に差し掛かったその頃、皇都キヨウでは上級貴族達の暗躍が、ますます活性化していた。
中央行政府『ゴーショ・ウルム』の星帥皇謁見の間に集まった、上級貴族達と彼等に賛同する一般貴族、それに上級貴族の呼びかけに応じて参集した、各星大名の使者に加え、玉座に座る星帥皇ジョシュア・キーラレイ=アスルーガの姿もある。
これまで上級貴族は、彼等だけの集まりで秘密裡に策謀を巡らせていた。そして彼等にとっては、“その甲斐あって”いよいよ実行への準備が整い、ついに星帥皇ジョシュアを、策謀の渦中に巻き込もうとしているのだ。
「―――ヅカーザ卿、今の話は本当であるのか?」
ジョシュアは玉座から僅かに身を乗り出して、上級貴族筆頭バルガット・ヅカーザ=セッツァーに問い掛けた。
セッツァーは些か芝居じみた身のこなしで、ジョシュアに深く頭を下げ、「恐れながら…」と肯定すると言葉を続ける。
「超空間ゲートの運営権譲渡を手始めに、陛下と我等貴族院の権限を次第に縮小、最終的にNNLシステムの制御を自動化し、すべて掌握する…これが、ノヴァルナ殿の真の目的にございます」
「本当に…本当に、それがノヴァルナ殿の、真意なのか?」
セッツァーのジョシュアに対する言い分はこうであった。
ノヴァルナ・ダン=ウォーダは四年前に、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち取って、銀河にその名を馳せて以来…いやそれ以前から、密かに皇国中央への進出を考えていた。ジョシュアの兄で、当時の星帥皇であったテルーザ・シスラウェラ=アスルーガと誼を通じたのも、そのための布石だったのだ。
しかしながらテルーザは、ミョルジ家の襲撃を受けて討ち死に。一方のノヴァルナは、イースキー家を滅ぼしてミノネリラ宙域を手に入れていた。これにより中央進出の野心を益々高めていたノヴァルナにとって、ミョルジ家から逃れてアザン・グラン家に匿われていた、星帥皇継承権保有者ジョシュアからの上洛支援要請は、まさに“渡りに船”だった。
ジョシュアからの上洛支援要請を受けたノヴァルナは、己の野心を隠し、従順な素振りでジョシュアを奉じて、オウ・ルミル宙域の一部をも支配下に置き、皇都キヨウに到達。自身の抱く野心の一部を成就させる。
ここで次にノヴァルナが企図したのが、まず星帥皇室の威光をもって、銀河に号令。ウォーダ家の“銀河布武”を広める事であった。
「さよう…この“銀河布武”こそ、ノヴァルナ殿の真なる野心」
セッツァーは事も無げに断言する。この男の言い分では、ノヴァルナが言う“銀河布武”とは、ウォーダ家が星帥皇室を傀儡としてNNLシステムを掌握。このシグシーマ銀河系全体を支配するという意味であった。
無論、ノヴァルナの真意は別であった。“銀河布武”とはむしろ星帥皇室が“銀河に秩序を取り戻すためには武力をもって”、その威を示す事であり、ウォーダ家はその尖兵となる覚悟を、表すためのスローガンだったのである。だがノヴァルナの真意は、ジョシュアには伝わらなかったようだ。
いや…ジョシュアには結局、それだけの器量が無かったのだ―――
「ううむ。そ…そうなのか…」
セッツァーの返答に、こうべを垂れて下を向くジョシュア。ただ、これまで大した波風も立たない人生を送って来た、温室育ちのためであるのか、ジョシュアにこれ以上深く考えを進める術は無かった。
「余も…ノヴァルナ殿に、騙されていたのか?…」
一度狂わされた歯車は、元には戻れない。疑念ばかりが広がるジョシュアに、さらにセッツーが足場を固める。
「残念ながら、仰せの通りにございます。我等上級貴族も、ノヴァルナ殿の隠された野心を見抜けず、皇都にまで招き入れたる事、まこと斬鬼に耐えませぬ。ですがまだ!…まだ我等には、打てる手が残されておりまする」
「そっ!…それは何か、ヅカーザ卿!?」
急かせるように問い質すジョシュアに、セッツァーは落ち着き払って応じた。
「ノヴァルナ殿の“銀河布武”を認められぬ方々による、“ノヴァルナ包囲網”にございます」
“ノヴァルナ包囲網”―――
その凶悪な言葉の響きに、各星大名から送られた使者の口元に、一様に笑みが浮かぶ。その中には現在、ノヴァルナのウォーダ家と同盟関係にある、シーゲン・ハローヴ=タ・クェルダが統治する、戦国最強軍団タ・クェルダ家からの使者の姿があり、さらにはそのタ・クェルダ家とは、宿敵関係であるはずのウェルズーギ家、ホゥ・ジェン家からの使者もいた。
そして注目すべきは、僅かひと月前の“カノン・ガルザック撤退戦”で、ノヴァルナのために独立管領ク・トゥーキ家を説得し、大功を挙げたはずのヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガからの、使者もいる事だ。
彼等を見渡したセッツァーは愉悦の表情で付け加える。
「無論、ノヴァルナ公が現在戦っている、アザン・グラン家とアーザイル家の連合軍に敗れて、討ち死にでもすれば、これに勝るものはありませんが…」
▶#17につづく
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる