銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第16話:アネス・カンヴァーの戦い

#16

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 “アネス・カンヴァー星雲会戦”が佳境に差し掛かったその頃、皇都キヨウでは上級貴族達の暗躍が、ますます活性化していた。

 中央行政府『ゴーショ・ウルム』の星帥皇謁見の間に集まった、上級貴族達と彼等に賛同する一般貴族、それに上級貴族の呼びかけに応じて参集した、各星大名の使者に加え、玉座に座る星帥皇ジョシュア・キーラレイ=アスルーガの姿もある。

 これまで上級貴族は、彼等だけの集まりで秘密裡に策謀を巡らせていた。そして彼等にとっては、“その甲斐あって”いよいよ実行への準備が整い、ついに星帥皇ジョシュアを、策謀の渦中に巻き込もうとしているのだ。

「―――ヅカーザ卿、今の話は本当であるのか?」

 ジョシュアは玉座から僅かに身を乗り出して、上級貴族筆頭バルガット・ヅカーザ=セッツァーに問い掛けた。
 セッツァーは些か芝居じみた身のこなしで、ジョシュアに深く頭を下げ、「恐れながら…」と肯定すると言葉を続ける。

「超空間ゲートの運営権譲渡を手始めに、陛下と我等貴族院の権限を次第に縮小、最終的にNNLシステムの制御を自動化し、すべて掌握する…これが、ノヴァルナ殿の真の目的にございます」

「本当に…本当に、それがノヴァルナ殿の、真意なのか?」

 セッツァーのジョシュアに対する言い分はこうであった。

 ノヴァルナ・ダン=ウォーダは四年前に、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち取って、銀河にその名を馳せて以来…いやそれ以前から、密かに皇国中央への進出を考えていた。ジョシュアの兄で、当時の星帥皇であったテルーザ・シスラウェラ=アスルーガとよしみを通じたのも、そのための布石だったのだ。

 しかしながらテルーザは、ミョルジ家の襲撃を受けて討ち死に。一方のノヴァルナは、イースキー家を滅ぼしてミノネリラ宙域を手に入れていた。これにより中央進出の野心を益々高めていたノヴァルナにとって、ミョルジ家から逃れてアザン・グラン家に匿われていた、星帥皇継承権保有者ジョシュアからの上洛支援要請は、まさに“渡りに船”だった。

 ジョシュアからの上洛支援要請を受けたノヴァルナは、己の野心を隠し、従順な素振りでジョシュアを奉じて、オウ・ルミル宙域の一部をも支配下に置き、皇都キヨウに到達。自身の抱く野心の一部を成就させる。
 ここで次にノヴァルナが企図したのが、まず星帥皇室の威光をもって、銀河に号令。ウォーダ家の“銀河布武”を広める事であった。
 
「さよう…この“銀河布武”こそ、ノヴァルナ殿の真なる野心」

 セッツァーは事も無げに断言する。この男の言い分では、ノヴァルナが言う“銀河布武”とは、ウォーダ家が星帥皇室を傀儡としてNNLシステムを掌握。このシグシーマ銀河系全体を支配するという意味であった。

 無論、ノヴァルナの真意は別であった。“銀河布武”とはむしろ星帥皇室が“銀河に秩序を取り戻すためには武力をもって”、その威を示す事であり、ウォーダ家はその尖兵となる覚悟を、表すためのスローガンだったのである。だがノヴァルナの真意は、ジョシュアには伝わらなかったようだ。


いや…ジョシュアには結局、それだけの器量が無かったのだ―――


「ううむ。そ…そうなのか…」

 セッツァーの返答に、こうべを垂れて下を向くジョシュア。ただ、これまで大した波風も立たない人生を送って来た、温室育ちのためであるのか、ジョシュアにこれ以上深く考えを進めるすべは無かった。


「余も…ノヴァルナ殿に、だまされていたのか?…」


 一度狂わされた歯車は、元には戻れない。疑念ばかりが広がるジョシュアに、さらにセッツーが足場を固める。

「残念ながら、仰せの通りにございます。我等上級貴族も、ノヴァルナ殿の隠された野心を見抜けず、皇都にまで招き入れたる事、まこと斬鬼に耐えませぬ。ですがまだ!…まだ我等には、打てる手が残されておりまする」

「そっ!…それは何か、ヅカーザ卿!?」

 急かせるように問い質すジョシュアに、セッツァーは落ち着き払って応じた。

「ノヴァルナ殿の“銀河布武”を認められぬ方々による、“ノヴァルナ包囲網”にございます」



“ノヴァルナ包囲網”―――



 その凶悪な言葉の響きに、各星大名から送られた使者の口元に、一様に笑みが浮かぶ。その中には現在、ノヴァルナのウォーダ家と同盟関係にある、シーゲン・ハローヴ=タ・クェルダが統治する、戦国最強軍団タ・クェルダ家からの使者の姿があり、さらにはそのタ・クェルダ家とは、宿敵関係であるはずのウェルズーギ家、ホゥ・ジェン家からの使者もいた。
 そして注目すべきは、僅かひと月前の“カノン・ガルザック撤退戦”で、ノヴァルナのために独立管領ク・トゥーキ家を説得し、大功を挙げたはずのヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガからの、使者もいる事だ。

 彼等を見渡したセッツァーは愉悦の表情で付け加える。

「無論、ノヴァルナ公が現在戦っている、アザン・グラン家とアーザイル家の連合軍に敗れて、討ち死にでもすれば、これに勝るものはありませんが…」
 



▶#17につづく
 
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