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第16話:アネス・カンヴァーの戦い
#18
しおりを挟む“アネス・カンヴァー星雲の戦い”は、トクルガル軍の先鋒部隊が、アザン・グラン軍の陣形を突き崩しに成功した事で、戦局が大きくウォーダ・トクルガル同盟軍へと傾き始めていた。
アザン・グランの艦列を引き裂いてなだれ込んで来た、トクルガル艦隊が主砲を連続発射。総旗艦『サイオウ』のいる本陣部隊を目指す。アザン・グラン家艦隊がトクルガル艦隊に対し、同航戦から反航戦へ切り替えようとして、艦列が乱れた一瞬を見逃さなかったのだ。トクルガル家の家風は粘りと忍耐、アザン・グラン軍に押され続けていたのを耐え忍んでの、好機到来である。
今回のアザン・グラン軍の総司令官は、前回の“カノン・ガルザック追撃戦”の時の、筆頭家老ヴァゼリエ=エヴァーキンではなく、アザン・グラン一族のカーグタック=アザン・グランとなっている。
今回の戦いで出色であった、特務部隊FTFによるイェルサスの総旗艦襲撃も、カーグタックが考案したものであり、その戦術指揮手腕は低くない。事実、FTF部隊はイェルサスをあと一歩まで追い詰めた。
しかしこれを覆したのがティガカーツ=ホーンダートと、彼が操るBSHO『カヅノーVC』である。これの八面六臂の活躍が、FTF部隊を撤退に追い込み、現在の形勢逆転に繋がったのだ。
そしてそのティガカーツと『カヅノーVC』は、今度は敵将ネオターク・ジュロス=マガランの『キョウマ』と、いまだに死闘を演じ続けていた。
「ぬぅうううん!!」
一気に急加速をかけて、豪刀『タイロン』を一閃する『キョウマ』。アネス・カンヴァー星雲の赤紫色をした星間ガスが流れる中、機体を瞬時に半回転させた『カヅノーVC』のバックパックを、分厚い刀身がスレスレに掠めていく。
「ふう」
一つ息を吐いたティガカーツはカウンターで、大型ポジトロンランスの『ドラゴンスレイヤー』を、穂先が渦を巻くように小さく回しながら素早く突き出す。鑓の小回転は付加動作だったが、効果はあった。長大な鑓はしなりによって、先端にいくほど渦は大きくなる。するとその穂先が、『キョウマ』の右脇腹を抉った。だがこれでも浅い。口元を引き締めるティガカーツ。コクピットのモニターの一部が赤く点滅しているのは、エネルギー残量の警告表示だ。二機の長引く戦いに、エネルギー源の濃縮液化反水素が尽きようとしている。
「付き合うとは言ったけど…次で決めないと」
照準センサーの中の『キョウマ』を見詰めながら、小さく自分に言い聞かせるティガカーツ。
一方の『キョウマ』も、機体の状況は良くない。『カヅノーVC』の鑓の斬撃を喰らった、左肩関節部のダメージが、段々と大きくなって来ていたのだ。機体のエネルギー残量自体は『カヅノーVC』より多いのだが、左腕全体の金属筋肉組織への圧力が、掛け難く―――つまり戦い続けるほど、力が入らなくなっているという事だ。
となると理由は違っても、次で決めるというマガランの気持ちは、ティガカーツと同様であった。『カヅノーVC』が、大型ポジトロンランスの『ドラゴンスレイヤー』を下段に、『キョウマ』が豪刀『タイロン』を正眼に構えて対峙する。両機の距離はおよそ五十万キロ、相手の姿形は肉眼では微塵も見えないが、宇宙空間の戦闘であれば、指呼の距離だ。そして次の瞬間―――
「行くよ!」とティガカーツ。
「参るぞ!」とマガラン。
二人のパイロットは同時に言い放ち、同時にスロットルを全開にした。約五十万キロの距離を僅か数秒で詰めて、決戦の間合いまで踏み込む、『カヅノーVC』と『キョウマ』。互いに最高レベルまで集中力を高める中、先に仕掛けたのはティガカーツである。下段からすくい上げられた『ドラゴンスレイヤー』の、輝く穂先がマガランの『キョウマ』に襲い掛かった。
これをマガランは、豪刀に似つかわしくない軽い動きで、『タイロン』の切先によって打ち払う。
「!!」
マガランの性格であれば、豪快に打ち払うであろうと予想していたティガカーツは、その動きのあとに来る、姿勢の立て直しで発生するはずの、ごく僅かな空白の時間を、鑓の連撃を仕掛ける時間として狙っていたのが、裏目に出た形だ。
さらに『キョウマ』は、ここまで一度も使って来なかった、豪刀『タイロン』による刺突攻撃を放って来る。
だが意表を突かれても、ティガカーツは恐れを知らない変人でもあった。『カヅノーVC』を咄嗟にスクロールさせて刺突を回避。短く握り直した『ドラゴンスレイヤー』によって、マガランの攻撃を悉く撥ね返した。
ただそれでもマガランの戦意は失われない。敵BSHOパイロットの持つ、異常なまでの技量の高さは、もはや織り込み済みだ。『カヅノーVC』の繰り出す槍術を悉く回避し、豪刀を握った『キョウマ』を、機体ごと相手にぶつけていく。必殺の間合いを作るためだ。
しかし相手はティガカーツ=ホーンダート。稀代の天才パイロットである。反射的に機体を翻し、豪刀『タイロン』の分厚い切っ先を、ギリギリで回避した。その間隔は1メートルも無い。
▶#19につづく
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