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第16話:アネス・カンヴァーの戦い
#19
しおりを挟む「ええい、これでも当たらぬか!!」
驚くべきは、これほどの死闘を演じ続けていながら、ティガカーツの機体には、掠り傷一つついていない事である。互いに“トランサー”で、機体とのサイバーリンクを最大限まで高め合い、ミスをした方が負けという状況下でティガカーツは、完璧に機体を操っているのだ。
その直後、マガランが座る『キョウマ』のコクピットのモニターで、赤い警告表示が点滅を大きくし始める。機体左肩関節部の損傷個所が、いよいよ限界に達して来たのだった。
そしてティガカーツの方も、『カヅノーVC』のメインのエネルギーパックが空になり、機体に組み込まれている非常用陽電子バッテリーに切り替わった。これは撤収・脱出用のものであって、十五分程度しかもたない。
しかし双方とも、今は後退は不可能だ。機体を操り、得物を振るう事以外の動作は、それが刹那の間合いであっても、全てが命取りになる状況なのである。
ティガカーツに回避された豪刀を、返す刀で再び斬りかかるマガラン。正確無比な斬撃だ。ただ正確無比ゆえに、『キョウマ』ともサイバーリンクしているティガカーツには、刀身の動きが見切り易い。『ドラゴンスレイヤー』を最短距離、最小半径で振るい、豪刀『タイロン』を穂先で強く弾くと、僅かに体勢を崩した『キョウマ』に生じた隙、左横腹めがけて鑓の太い柄による打撃を放った。これをまともに喰らう『キョウマ』。
「よし」
相手の機体の内部機構にまでダメージを与えたはずの手応えに、ティガカーツはさらに刺突を放とうとする。ところが次の瞬間『キョウマ』は左腕で、脇腹に打撃を喰らわせた『ドラゴンスレイヤー』の柄を挟み込み、手指で鷲掴みにした。同時に『キョウマ』は、左肩関節部から眩いスパークを放つ。関節部が完全に破損してしまったのだ。
「!!」
その時にはすでに、ティガカーツは身の危険を察知していた。『ドラゴンスレイヤー』を左腕で掴み取った『キョウマ』が、右腕一本で豪刀『タイロン』を、自分に振り下ろそうとしているからだ。スピーカーからマガランの声がする。
「貴殿の才には驚かされる。だがまだ経験が足りぬ!」
振り下ろされる豪刀。迫る白刃。だがそれでもティガカーツは天才であった。自分の乗る『カヅノーVC』の握力を瞬時に緩め、『ドラゴンスレイヤー』の太い柄を、器械体操の鉄棒よろしく支点にして機体を回転。切っ先を間一髪で躱すと、鑓を手放してさらに跳躍。間断なく繰り出された第二の斬撃も回避した。
外部装甲という肉を切らせるどころか、機体の内部機構という骨まで切らせて、仕留めようとした必殺の一撃を躱され、マガランは歯噛みと同時に、戦闘種族のモルンゴール星人らしく、痛快な感覚を覚えずにはいられない。彼等の種族にとり、戦う相手は強ければ強いほど、気分を高揚させるものだ。
「ムフフ…面白い。久々に血が滾ったわ!」
マガランの言葉は一騎打ちの終了を示唆していた。『キョウマ』のセンサーが、自分達に向かって接近して来る、トクルガル軍のBSI部隊の反応を捉えたからである。おそらくティガカーツの援護に来たのだろう。
「今日のところはこれまでだ。勝負は預ける」
そう言葉を続けたマガランは、『キョウマ』が掴み取っていた『ドラゴンスレイヤー』を、持ち主の『カヅノーVC』へ投げ返した。そして機体を翻し、飛び去って行く。
鑓を手に取った『カヅノーVC』の周囲に、入れ替わりに到着する、“ファイアフライ中隊”の『リュウビZR』。
「無事か、ホーンダート?」
“ファイアフライ中隊”の指揮官がティガカーツに問い掛ける一方、同じ中隊の僚機に乗るパイロット達が、『カヅノーVC』の周りを一周機体状況を見て、驚きの言葉を交わす。
「おい。見ろ、『カヅノー』の外殻」
「おお、なんて事だ。ホーンダートの機体には、掠り傷一つないぞ…」
「相手はマガランだろ…凄いな」
ティガカーツがマガランと、長時間の激しい戦闘を続けていたのは、中隊の僚機も当然に知るところである。ティガカーツがマガランを、一騎打ちによって拘束する事で、“ファイアフライ中隊”以下直掩隊は、“インヴィンシブル中隊”をはじめとするアザン・グラン軍の攻撃から、総旗艦『ショウカク』を守り切ったのだ。
ただ、『カヅノーVC』が無傷である事を称賛する、先輩兵士達の交信を聞いている、当のティガカーツの表情は冴えなかった。
「どうした、ホーンダート。負傷でもしているのか?」
応答がない事を不審に思った指揮官が、再び問い掛ける。ぶっきらぼうに「いいえ。元気ですよ」と応じるティガカーツ。その若者の眼は、全周囲モニターに映し出されている『カヅノーVC』の右手と、握っている大型ポジトロンランス『ドラゴンスレイヤー』を、じっと見詰めている。そして珍しく「くそっ…」と、小声で毒づいた。
“こんなんじゃ、僕の…負けだ―――”
内心で呟き、奥歯をキリリ…と噛み締める。
ティガカーツがマガランとの戦いを、自分の負けだと思った理由…それは最後のギリギリの場面で、危機回避のため、『ドラゴンスレイヤー』を手放してしまったからである。
大型ポジトロンランス『ドラゴンスレイヤー』は、ティガカーツ=ホーンダートにとって、特別な意味を持つ武器であった。
父のダグ=ホーンダートの形見であり、代々ホーンダート家と共にあった『ドラゴンスレイヤー』は、ティガカーツにすれば身体の、魂の一部とも言える存在だったはずなのだ。
常に茫洋として掴みどころのないティガカーツの事であり、天才と呼ばれるならば理論を優先して、手持ちの武器への執着は無いように思われる。事実、タイプは違うがノヴァルナは、『センクウ・カイFX』の武装にほとんど執着しておらず、最近になって超空間狙撃砲のD-ストライカーに、『サモンジ』という名を与えた程度だ。
しかし忘れてならないのが、ティガカーツにも秘めた武将の心と、譲れない矜持があるという事だった。茫洋とした態度というベールが、この若者の本質を隠しているのである。
“あの一瞬…マガラン殿の機体が見せた、左脇腹の隙…そこを突いた時点で、僕は負けていた…”
ティガカーツは“トランサー”による相手機体とのサイバーリンクで、『キョウマ』の左肩関節部が、大きく損傷している事に気付いていた。そんな状態であるから、左脇腹に発見した隙に、『ドラゴンスレイヤー』の打撃を加えても、防御は出来ないはずだと瞬時に判断して攻撃したのだ。
ところがマガランは、機体の内部機構と左腕が機能不全に陥るのを承知で、『ドラゴンスレイヤー』を奪い取り、斬撃を放って来た。マガランが口にした、「経験が足らない」というのがこれだ。
“トランサー”で相手の機体の損傷具合は測れても、それを逆手に取ろうという意図などは測れない。それを測れるのは、経験に根差した戦術眼のみである。『ドラゴンスレイヤー』を手放して離脱した事自体は、客観的に見れば正しい判断であるのは間違いない。だがティガカーツからすれば、納得できないものの方が、遥かに大きかった。
「ともかくホーンダート。一度母艦に帰投しろ。もうすぐエネルギーが、完全に尽きる」
中隊指揮官の言葉に、ティガカーツは「わかりました」と、憮然とした口調で返答する。その垣間見せる若輩さに、僚機のパイロットが冗談交じりで、慰撫の言葉を掛けて来た。
「そうそう。予備エネルギーまで空にしたら、再調整が大変だろがって、整備の連中が怒り出すからな」
その言葉に効果があったかは分からないが、ティガカーツは一つため息をつき、独り言ちた。
「次は勝たなきゃな…」
▶#20につづく
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