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第16話:アネス・カンヴァーの戦い
#23
しおりを挟むウォーダ軍の豹変したような攻勢に、アーザイル軍総旗艦『ソウリュウ』に乗る主君、ナギ・マーサス=アーザイルは警戒心を露わにする。敵として袂を分かつ以前、これまで何度もノヴァルナと共闘して来ただけに、ノヴァルナの指揮で勢いづいた時の、ウォーダ軍の凄まじさは知っている。
「セーザル様の艦隊、被害甚大です!」
オペレーターの報告にナギは唇を噛む。眼前に浮かぶ戦術状況ホログラムでも、セーザル=アーザイルの艦隊が、ウォーダ軍の中央突破部隊によって、艦列をズタズタにされていく様子が表示されていた。ナギは努めて冷静な口調で指示を出す。
「セーザル艦隊は一時後退。然るのち全艦隊漏斗陣形、敵本隊の圧迫を受け流しながら戦力を削ぐ。至急行動せよ」
ナギの意図は、全艦隊で巨大な漏斗状の陣形を作り出し、その中心部へウォーダ軍を誘引。突撃を受け流しながら、取り囲んだ艦隊からの攻撃で、戦力を漸減する戦法だった。そしてウォーダ軍をやり過ごしたあと、陣形を裏返して、後方から半包囲するつもりである。高度な艦隊運動が必要となるが、アーザイル軍の長期にわたって、ロッガ家と戦い続けて来たため精鋭揃いだ。
迅速に行動を開始したアーザイル軍各艦隊の動きは、やはり見事であった。すぐさま全艦隊の各宇宙艦が、攻撃を行いながら所定の位置に移動していく。
ただここで効果を見せたのがノヴァルナが意図した、左舷方向からの抉り込みであった。トクルガル軍による、アザン・グラン軍への突撃で生じた空隙を利用し、“ミノネリラ三連星”の三個艦隊が、漏斗状陣形の外側から攻撃を仕掛けたのだ。
漏斗状陣形の強みは、中央に捉えた敵を周囲から、袋叩きに出来る点である。しかしそれほどまでに巨大な陣形を組もうとするなら、陣形のそのものの厚みは薄くなるため、ピンポイントの接近戦には弱かった。“ミノネリラ三連星”の攻撃は、その弱点を突いたものだ。
ウォーダ軍第10艦隊を率いる三連星の一人、リーンテーツ=イナルヴァがあとの二人に呼び掛ける。
「行くぞアンドア、ウージェル。コース028、敵陣を切り裂く!」
「おう」
「了解だ」
これに応じたモリナール=アンドアの第11艦隊、ナモド・ボクゼ=ウージェルの第12艦隊は、縦列陣を三枚刃の銛の様に組み並べ、回転しながらアーザイル軍の漏斗陣形を切り裂き始める。旧サイドゥ家時代からの手慣れた三武将の連携に、アーザイル軍の宇宙艦が、次々と撃破されてゆく。
ただ前述の通りアーザイル軍も精強で、“ミノネリラ三連星”部隊との戦いは、激しいものとなる。主砲を立て続けに放つ三連星の戦艦、対艦誘導弾を一斉に大量発射するアーザイル軍の重巡航艦、宇宙魚雷を撃ち合う両軍の軽巡航艦と駆逐艦。
幾つもの宇宙艦が眩い閃光に包まれる。耐久力があるものは、エネルギーシールドが弾き返した閃光であり、耐えきれなかったものは、艦体が引き裂かれる閃光となる。
ここで巧妙であったのは、指揮を代行するナルガヒルデが、ノヴァルナからの戦術指示をアレンジして、二つの部隊にアーザイル軍後方へ回り込む動きを、させた事である。
これらの部隊は、三連星とは反対側の右舷方向へ戦場を大きく迂回し、後方へ向かう事によりアーザイル軍に、自分達の退路が断たれるように思わせた。するとこの動きを見たアーザイル軍の一部が反応し、阻止しようと動く。
だがこの後方への誘導部隊は、単なる牽制を目的とした小艦隊などではなく、複数の基幹艦隊からなり強力な戦闘力を有していた。
阻止行動に出た部隊は蹴散らされ、その綻びからアーザイル軍の漏斗状陣形は、次第に瓦解し始める。そうなると攻撃密度が下がり、かえってアーザイル側の損害を増やす結果となった。
「く!…しくじったか」
戦術状況ホログラムを見詰め、苦々しげに呟くナギ。自軍の強さを信じていたナギだが、それでもウォーダ軍の電光石火の動きには、ついて来れなかったのか…と思う。
いいや、待て―――
そこでナギは自軍の動きに疑問を感じた。本来ならもっと動きはいいはずだ。特に、後方へ回り込もうとしていたウォーダ軍別動隊への対処が、戦力の逐次投入という下策になっているのは疑問であった。
「あの位置には、シージョンの第4艦隊と、ミアベルの第8艦隊が居るはず。この動きの鈍さはどういう事だ?」
ナギに問い質された艦隊参謀は、オペレーター席に駆け寄って、状況の詳細を調査する。その間にナギは全部隊を天頂方向へ移動し、立て直すように命じた。少しの間を置いて戻って来た艦隊参謀が、二つの艦隊の動きが鈍い原因を報告する。それを聞き、あっ!…という顔をするナギ。
「両艦隊の旗艦が狙撃を受けて、指揮系統が麻痺…そうか!」
艦隊旗艦への狙撃。この戦場でそれが可能なのものは、かつての同盟者であったナギなら知っている。ノヴァルナ専用のBSHO『センクウ・カイFX』の超空間狙撃砲、『サモンジ』に他ならない。
▶#24につづく
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