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第16話:アネス・カンヴァーの戦い
#31
しおりを挟むたとえ殴りつけただけでも、巨大なナタのような『タイロン』の刀身は、シキーヴの操縦する『トリュウCB』の頭部を叩き潰した。しかし『タイロン』が機体の対消滅反応炉から、エネルギーを得ていたという事は、『キョウマ』自体もエネルギー残量がゼロになった事を示している。
動かなくなった『キョウマ』を、ガシャン!…という激しい揺れが包んで、コクピットの全周囲モニターを突き破って来る、次兄ジェスマークのポジトロンランスの、鋭く尖った穂先。
それは笑みを浮かべたマガランの左脇腹から、胴体を半分ほども抉り切った。穂先を覆う青白い光の陽電子フィールドが、切断部から広がってマガランの巨躯を、光の粒子に変えてゆく…
だがマガランは笑みを絶やさなかった。戦闘種族たるモルンゴール星人の戦士にとって、これほど本望な事はあろうか。戦場に身を置き、強き敵、あるいは無数の敵と、己が全ての燃え尽きるまで戦う―――ティガカーツ=ホーンダートという、稀代の天才と刃を交え、トクルガル軍のBSIや艦隊を思う存分に切り伏せ、機体のエネルギーが尽きると共に命も尽きる…これ以上、何を望もうや。
「天晴なり、三兄弟! このマガランを討ち取りし事、末代までの誇りとせよ!」
凛と発した言葉と共に、アザン・グラン軍の豪将ネオターク・ジュロス=マガランは、光となって消滅していった………
マガランが自分の命と引き換えに行った足止めは功を奏し、撤退を開始したアザン・グラン軍の主力部隊は、トクルガル軍の追撃を振り切る事に成功した。
一方のアーザイル軍も、主君のナギ・マーサス=アーザイルを逃がすため、忠臣トゥケーズ=エイン・ドゥが配下の第2艦隊で、ウォーダ軍に果敢な闘いを挑んでいる。
こちらは第2艦隊の艦載機全てを、戦場に『センクウ・カイFX』で出ているノヴァルナに差し向けてこれを討ち取り、むしろ一発逆転を狙うつもりであった。
しかしノヴァルナも追い詰められたアーザイル軍が、自分を狙って来るであろう事は予想しており、自らの『センクウ・カイFX』の周囲を固める親衛隊の『ホロウシュ』の外側に、カーナル・サンザー=フォレスタの第6艦隊艦載機部隊を、配置していた。両軍のBSIユニット、ASGUL、宇宙攻撃艇がそう広くない空間で、激しくドッグファイトを繰り返す。
そしてエイン・ドゥもこのドッグファイトの場にいた。ただしこの男が乗る機体は、アーザイル軍のBSIユニット『イカヅチ』ではなく、ウォーダ軍のBSIユニット『シデン・カイ』の親衛隊仕様機である。
エイン・ドゥが操縦する親衛隊仕様『シデン・カイXS』は、約一カ月前の“カノン・ガルザック撤退戦”の際、アーザイル軍が何機か鹵獲したものの中の一機である。エイン・ドゥはこれを譲り受けて修理し、自分の操縦特性と合うようにサイバーリンクを再調整し、整備していた。万が一の場合、これを切り札として敵陣に潜り込み、破壊活動を行うためである。
そして今がその、“万が一の場合”であった。
ウォーダ軍の機体を操縦し、両軍BSI部隊が混戦状態にある中、エイン・ドゥはノヴァルナの『センクウ・カイFX』がいる、ウォーダ軍本陣を目指している。その目的は無論、味方を装って『センクウ・カイFX』に近づき、これを討ち果たす事だ。
戦場はエイン・ドゥにとって上手い具合に、アーザイル軍BSI部隊の奮戦で、広範囲にわたって敵味方が入り組んでいる状況だ。鹵獲した『シデン・カイXS』の操縦桿を握るエイン・ドゥは、ドッグファイト中の敵味方機の脇を、何度か擦り抜けて奥へと進む。
すると機体の近接警戒センサーが、こちらに接近して来る、アーザイル軍の量産型『イカヅチ』の反応を、三つ示した。『シデン・カイXS』に乗っている、今のエイン・ドゥにとっては敵だ。向こうも当然、敵のつもりで仕掛けて来ている。エイン・ドゥは迷わずコンソールに手を伸ばし、超電磁ライフルを起動させた。
“悪く思うなよ―――”
胸の内で呟くエイン・ドゥ。彼が乗る機体は通信回線も含めて、ウォーダ軍の戦術統合システムとリアルタイムリンクさせてあり、自分がアーザイル軍のトゥケーズ=エイン・ドゥで、ノヴァルナを討つためにウォーダ軍の機体に乗っている事など、告げられるはずがなかったからだ。それに親衛隊仕様機となると、機体の動きそのものも、モニターされているはずで、敵を前におかしな動きは出来ない。となればここは、戦うしかない。
エイン・ドゥもパイロットとしては剛の者だったが、アザン・グラン家のマガランのように武に生き、武に死すタイプではない。どこまでも主君ナギ・マーサス=アーザイルに忠義を尽くし、目的を達するためには、卑怯者と罵倒されても甘んじて受ける覚悟があった。
散開するアーザイル軍の『イカヅチ』。エイン・ドゥは三機の中で、一番動きにキレがあった機体に超電磁ライフルを放ち、動きを抑えておいて自分からも加速をかけた。三機も一斉に超電磁ライフルを放つが、ワンテンポ遅かったようで、エイン・ドゥには当たらない。
“上手く当たれよ”
三機の『イカヅチ』を相手取り、エイン・ドゥは複雑な機動を行いながら、超電磁ライフルを放つ。一機は右腕を根元から引き裂かれ、一機は頭部を爆砕され、残る一機は横からバックパックを撃ち抜かれて、対消滅反応炉が緊急停止した。三機とも戦闘力を失い、対消滅反応炉が停止して動けなくなった一機を、あとの二機が両脇から抱えて撤退し始める。
この光景を見て、エイン・ドゥは胸を撫で下ろした。自分が内心で呟いた“上手く当たれ”とは、パイロットを殺さずに機体の戦闘力を奪ってくれ、という意味であったからだ。
もっとも、撤退中に他のウォーダ軍のBSI部隊に遭遇して、撃破されてしまう可能性は否めないが、流石に今のエイン・ドゥでは、そこまでの責任は取れない。
その一方、ウォーダ軍の戦術統合システムのAI判定では、今の三機は撃破判定とされていた。これはエイン・ドゥには有難い話である。この先、ウォーダ軍の何かしらの機体解析があった場合、アーザイル軍のBSIユニットを、三機撃破しているという記録が提示されるためだ。
ちなみにエイン・ドゥの乗る、『シデン・カイXS』の本来の持ち主は、ウォーダ軍第7艦隊所属の、ビルドール=イルニーという人物であった。“カノン・ガルザック撤退戦”時にこの機体が鹵獲された際、イルニーはコクピット内ですでに死亡していたのだが、ウォーダ軍の記録では行方不明となっていた。ミノネリラ宙域まで撤退する過程で失われた機体に関しては、生死が確認されないままのパイロットも多く、イルニーもそういった中の一人だと、戦術統合システムは判断していたのだ。
そのウォーダ軍第7艦隊は、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータの指揮のもと、この“アネス・カンヴァーの戦い”にも参加しており、ノヴァルナの『センクウ・カイFX』のいる、本陣近くに紛れ込んでいても、混戦状態の結果だという判定が出される好条件にあった。
しかしすぐに、好条件だと喜んでいられる状況ではなくなる。今の戦いをモニタリングしていたのか、アーザイル軍のBSIユニットが急接近。エイン・ドゥに一騎打ちを挑んで来たからだ。しかも量産型ではない。親衛隊仕様機の『イカヅチRR』である。エイン・ドゥの『シデン・カイXS』の行く手を塞ぎ、全周波数帯通信で呼び掛けて来る。
「その機体、ノヴァルナ殿の親衛隊衆か! 我が名はザエルマン=ミットラム。ノヴァルナ殿のもとへは行かせぬぞ!」
▶#32につづく
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