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第17話:銀河に脈打つ謎
#16
しおりを挟む「ストランクル型の違法改造船!? それって宇宙海賊じゃ…」
セランはカートライトの言葉に、表情を強張らせる。ストランクル型武装貨物船は、カートライト達が雇われているイーマイア造船ではなく、ス・ヴォル宙域に本社を置く、ナルヴィス重工が建造・販売している高速貨物船だ。武装もしており、連装ブラストキャノン砲塔を三基も搭載している。
襲って来た三隻を、セランが宇宙海賊ではないかと考えたのは、ストランクル型高速貨物船を改造したものを、このアーワーガ宙域からアン・キー宙域、セッツー宙域辺りでは、宇宙海賊が利用する事が多いからであった。
そしてその宇宙海賊とは―――
「“メラガーム独立軍”だろ、たぶんな!」
“メラガーム独立軍”はアン・キー宙域に根城を置く、大規模な宇宙海賊集団の名である。前述のナルヴィス重工が貨物船にしては重武装の、ストランクル型高速貨物船を開発したのも、“メラガーム独立軍”に海賊船として使わせるためだと、言われている。
セランが言った通り“メラガーム独立軍”は主に、防衛力の低い植民星系や民間貨物船などを襲撃、工業製品や食料、時には人間達を略奪する、宇宙海賊を生業としていた。
しかしその一方で、彼等はアン・キー宙域星大名モーリー家に従属しており、長年の敵対勢力である、ブンゴッサ宙域星大名のオルトモス家に対して、通商破壊戦や、艦隊戦が行われる場合の補給艦隊への襲撃を、行ったりもしている。ただアーワーガ宙域の外れの、このような恒星系にまで出現しているのは、想定外の出来事であった。
「でもなんで“メラガーム”の連中が、ここにいるんだよ!?」
揺れる操縦室の中でマニスが問い質す。『ジュエルダガー』号の背後には、迫って来る三隻のストランクル型高速貨物船。ここで追跡者達から通信が入る。それを告げるマニス。
「やっぱり“メラガーム独立軍”だ。停船しないと、宇宙魚雷を使うって言ってるよ!!」
「魚雷だと!? クルーザー相手に、随分と景気のいい話じゃないか」
絶体絶命の状況。しかし三人組のリーダー、ジョナサン=カートライトには、焦る様子も無かった。グスリと鼻を鳴らし、マニスとセランに指示を出す。
「マニスは連中に、“停船命令に従う”と返信しろ。セランは…わかってるな?」
カートライトの指示に頷く二人。マニスは言われた通り、“メラガーム独立軍”に命令承諾の連絡を入れる。そしてセランはある操作を開始した―――
『ジュエルダガー』号が停船命令に従ってエンジンを停止、慣性消去装置を作動させて速度を落とし始めると、三隻のストランクル型高速貨物船も、速度を緩めながら、後方から追いついて来る。
すると三隻が『ジュエルダガー』に並んだその時であった。カートライトの「今だ!」という言葉と共に、セランは右手に握った船のスロットルレバーを、一気に全開まで押し上げ、同時にレバーの左横にあったボタンを、親指で押し込んだ。
次の瞬間、『ジュエルダガー』号は猛然とダッシュ。瞬く間にトップスピードにまで加速して、三隻の武装貨物船の視界から消え去って行く。慌てて後を追い始める三隻だったが、到底追いつきそうにない。『ジュエルダガー』号だけが持つ特殊機能、スーパーターボであった。
三分…五分…十分と加速を続けた『ジュエルダガー』号は、十五分が経ったところで、巡航速度に戻した。緊急加速をこれ以上続けると、重力子ジェネレーターがもたないからだ。
「長距離センサーに反応は?」
マニスを振り返って、カートライトが問う。
「無し。どうやら振り切ったみたいよ」
マニスの返答にカートライトは小さく息をついた。その隣に座るセランも安堵の表情を浮かべるが、愚痴も零す。
「やれやれ。スーパーターボを使うと、あとの整備が大変なんだよね。あちこちに負荷が掛かって来るからさ」
「それよりもさ―――」
とマニスは、同乗しているノア達の事を口にした。
「キャビンに居るお客さん達、急加速に驚いて騒ぎ出すと思ってたけど、何も言って来ないね」
「みんな気絶してるんじゃない?」
冗談とも本気ともつかない言葉で応じるセラン。カートライトは席を立つと、そんなセランの肩に軽く手を置いて告げる。
「ちょっと行って、状況を説明して来る。こっちは頼んだぞ」
ある程度カートライトも予想していた事だが、キャビンに居るノア達一行は、気を失っているのでも、パニックになっているのでもなかった。
最初に『ジュエルダガー』号が大きく揺れた時点で、超空間転移直後に何か不測の事態が、起きたに違いないと即断。下手に騒ぎ立てる事無く、カートライト達の方からの状況報告が入るまで、各々の出来る範囲で身の安全を、確保していたのである。キャビンに入ったカートライトは、落ち着き払った様子で、自分に視線を集めて来るノア達の胆力に圧倒され、これはやはりただの“大企業のお嬢さま”と、その取り巻きではないと確信した。
「やぁ、お客さん達。どちらさんも、ケガはなかったかい?」
カートライトの些か軽い問いかけに、ノアは背筋を伸ばした姿勢で、動じるふうもなく応じる。
「おかげさまで。どうやら状況が、落ち着いたようですね」
カートライトが操縦室を離れて、報告にやって来た事から、ノアはひとまずは事態が、終息したのだろうと考えた。ノアだけでなくキャビンに居る全員が、何事も無かったかのように、行儀良く椅子に座っている。そこでノアに次いでP1-0号が、カートライトに自らがとった行動を述べる。
「失礼と思いましたが、緊急回避行動に移った直後、私はこの船のコンピューターに、ライザ様の許可を得た上でアクセスさせて頂きました。どうやら三隻の不審船が現れて、こちらに対し襲撃行動をとったようですね」
なるほど…と思うカートライト。特注品と聞くこの奇妙なアンドロイドが、船にアクセスして、乗客達に状況を知らせていたらしい。だがそれでも、慌てる事無くキャビンを飛び出しても来なかったのは、大したものである。
「P1-0号が、勝手に船のシステムにアクセスした事は、お詫び致します。ですが回避運動中のあなた方に状況を訊いても、足手まといになると判断し、私がアクセスを許可しました」
この言葉を聞いたカートライトは、少々大袈裟に肩をすくめた。
「いいさ。あんたの判断は的確だ。しかしまぁ…大企業のご令嬢と聞いた割には、随分と場慣れした感じがするよなぁ、あんた」
「そうでしょうか?」
夫のノヴァルナが得意な、すっとぼけで応じるノア。二十代後半と思われる美女だが、その表情には風格すら感じられた。自分専用のBSHOまで所有して、時には戦場の真っ只中で、夫と共闘する彼女であるから、この程度の事で狼狽するはずもない。
流石にここまで来ると、カートライトもノア達が武家階級の、『ム・シャー』に属する人間達だと理解する。そしてそれを承知の上で、このような美女を初めて見るカートライトは、つい言わずにはいられなかった。
「そうさ。それにしてもあんた、ライザ嬢だったか? いいオンナだな。今度一杯奢りたいもんだ」
これを聞いてサッ!…と、視線を鋭くするカレンガミノ姉妹をよそに、ライザ・メージェル=ウェーバーを名乗るノアは、微笑みながら事も無げに、さらりと言い放つ。
「あら、ありがとうございます。だけどわたくし、人妻ですので」
▶#17につづく
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