460 / 526
第17話:銀河に脈打つ謎
#15
しおりを挟むノア達が目指した旧モルンゴール帝国領は、セッツー宙域と一部隣接している、アーワーガ宙域内にあった。
アーワーガ宙域と言えば、ウォーダ家と散々争って来た、ミョルジ家が支配する宙域である。しかしながらその勢力圏は、全域に及んでいるわけではなく、三分の一ほどは、モルンゴール帝国の息が掛かった半自治星系となっていた。
シグルス・レフ=ファンクードの種族、イルーク星人の母星イルクルス星系も、そういった半自治星系の一つであり、銀河皇国のNNLシステムによる統治下にはあるものの、納税と主要政策への従属以外は、イルーク星人の自治行政府が独自の政治を敷いている。
セッツー中央大学のあった惑星サーエスを出発すること八日、ノア達を乗せた恒星間クルーザー『ジュエルダガー』は、イルクルス星系最外縁部へ到着した。
DFドライヴ用に展開したワームホールの中から、まず先行偵察用の有線プローブが出現。転移先の状況に異常が無いかを調査する。そしてその三分後、異常のない事を確認した『ジュエルダガー』が、超空間転移して来る。その名の通りにメタリックグリーンの外殻が、鋭角的な印象を与える船体だった。
「転移完了。船に異常なしだよ」
副操縦士席のセランが、コントロールパネルに指を滑らせながら告げ、電探士席のマニスが、モニターディスプレイに視線を落として続く。
「長距離センサー作動再開、情報を収集中」
二人に「了解」と応じたカートライトは、インターコムのスイッチを入れ、キャビンに居るノア達に連絡を入れた。
「カートライトだ。イルクルス星系に到着、船に異常なしだ」
すぐにノアが、「ありがとうございます。船長」と返答して来る。回線を切ったカートライトは半ば独り言のように言う。
「品のいいお客さんは、楽ってもんだぜ」
それにセランとマニスが反応する。
「まったくだね。この間の客なんて、僕達まで盗掘騒ぎに巻き込まれたもの」
「…にしたって、あんたは信じてるのかい? イーマイアさんの話」
「大事な取引先の娘ってヤツかぁ? ま、一般市民じゃ無さそうではあるがな…、取り巻きの連中が奇妙過ぎる」
彼等の疑念はもっともであった。ライザと名乗る“お嬢さま”はそれっぽいが、いつも傍らに居る双子姉妹は、召使いというよりSPのようであるし、同行している女性四人組も、立ち居振る舞いは単なる“お嬢さま”の、研究の助手では無さそうに見える。
そして特注品ではあるのだろうが、行動や反応が人間臭すぎるアンドロイドに、おかしなヘルメットとホログラムスクリーンで顔を隠した、黒づくめの男はその最たるものであった。ただ―――
「折角のカネのなる木を逃がしかねないからな、深堀りは禁物ってもんだろ」
カートライトは苦笑いを浮かべて、そう言い放った。
対するノアもカートライトからの、星系外縁部到着の報告を聞き終えると、キャビンに集まっている同行者達を見渡して、悪戯っぽい笑みと共に言う。
「やはりあの三人…どう見ても、鑑定士とは思えませんね」
イーマイア造船の代表ソークンから、ジョナサン=カートライト、アフェーシ=セラン、マニス=エイパーの三人は、自分のお抱えの美術品鑑定士だと、聞かされていた。しかしその話は最初の、ザーカ・イー星系からセッツー中央大学へ向かう間で、すぐに認識が変わった。彼等の本当の職業は分からないが、美術品鑑定も出来る…何か、としか言いようがない。
「ご命令頂ければ」とメイア。
「締め上げて、素性を喋らせますが」とマイア。
冗談なのか本心なのか分からない、カレンガミノ姉妹の言いように、ノアは困惑気味に「その必要はありません」と告げた。ただここまでの彼等を見る限り、こちらに敵意を向けるようなものは感じられない。
とその直後、突然キャビンが大きく傾いた。乗っている『ジュエルダガー』が、舵を大きく切ったのだ。座席に座るノア達も体勢を大きく崩すが、重力子ダンパーが作動して、床に投げ出される事は無い。
「大丈夫ですか!?」
投げ出されはしなかったが、急な衝撃の緩和は逆に、関節などを痛める可能性があるため、メイアとマイアが揃って、ノアに手を差し伸べた。ノアは「ええ。ありがとう」と応じるが、今度は逆向きに船が大きく傾く。
「これは!?」
ランの声に反応したのはP1-0号だった。
「これは…回避運動だと思われます」
事実、『ジュエルダガー』は超空間転移を終えた直後、どこからともなく現れた三隻の不審船から、襲撃を受けていた。マニスが長距離センサーの稼働を再開させて、ほどなく反応が現れたのである。何も告げずに現れた三隻の、急速な接近の仕方から、カートライトはこれが拿捕目的の敵対行動だと見抜き、すぐに回避と逃走に移ったのだった。
「くそっ! いきなりなんなんだ、コイツらは!!」
三隻目の不審船との接触コースを避けるため、操縦桿を大きく倒して『ジュエルダガー』を七十度降下させながら、カートライトは叩きつけるように言う。それに応じたのは、電探士席のマニスだ。
「正体は分からないけど、三隻とも銀河皇国のストランクル型武装貨物船だよ。だけどカタログデータより、かなり速度が出てる!」
これを聞いてカートライトは、チッ!…と舌打ちして言い放つ。
「違法改造船かよ」
▶#16につづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる