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第18話:閉じられし罠
#02
しおりを挟むオウ・ルミル宙域の中心部には、超巨大暗黒星雲ビティ・ワン・コーがあって、キノッサ達がいるサクータ星系と、カーナル・サンザー=フォレスタの領地ウーサルマ星系は、対岸の関係にあった。このためサンザーへの警告は超空間電信による直接連絡が出来ず、ウォーダ軍のオウ・ルミル宙域方面軍司令部がある、アデューティス星系への経由が必要となる。そのためキノッサからの意見具申が届くには、発信から二日ほど掛かる事になる。
ただ当のサンザーも、ノヴァルナ軍がセッツー宙域へ向かった時から、アーザイル家の動きには警戒していた。しかしサンザーの予想は、アーザイル家が動くのであれば、“アネス・カンヴァーの戦い”で失った領地を奪還するもの、つまりキノッサが領地としたサクータ星系方面への、侵攻となるだろうというものである。
これはハーヴェンが見せた戦略思考からすれば、些か近視眼的にも思える。だがこれはそれぞれのいる場所から、アーザイル家のナッグ・ハンマ星系を見た際の、視野に入るものの違いが大きい。
ハーヴェンのいるサクータ星系からナッグ・ハンマ星系を見れば、その向こうにはヤヴァルト宙域があり、さらにその向こうにノヴァルナの率いる部隊が展開しているセッツー宙域がある。
一方、サンザーのいるウーサルマ星系からナッグ・ハンマ星系を見ると、その向こうにあるのは、アーザイル家が奪われたサクータ星系であり、さらにその先にはウォーダ家の、ミノネリラ宙域が望めるのだ。
前を向くと後ろは見えない。
ナッグ・ハンマ星系を見据えるサンザーの思考が、キノッサのサクータ星系に向くのは仕方ない事であり、戦国武将なら奪われた領地を取り返したいはず、と考えるのも至極当然な事なのだ。双方をフラットに推察するハーヴェンのこの辺りが、キノッサ自慢の軍師たる所以だった。
そんなサンザーも想定に相違はあるものの、自らが取る行動に間違いはない。キノッサからの意見具申が届くより早く、第6艦隊を率いてウーサルマ星系を出動。約八十光年ナッグ・ハンマ星系方向に進んだ位置にある、セークモートン星系へ向かったのだ。
サンザーに同行するのは、同じオウ・ルミル宙域軍に属する、スーゲット=アーチの第33艦隊とヴェルージ=ウォーダの第35艦隊。サンザーの目的はアーザイル家がサクータ星系奪還に動いた場合、逆方向からナッグ・ハンマ星系に攻撃を仕掛ける素振りを見せ、侵攻の妨害をしようという、理に適ったものだった。
そしてこのサンザーの行動が、ウォーダ家とサンザー自身にとって、いずれ大きな意味を持つ事になるのである。
キノッサやサンザーを中心にしたオウ・ルミル宙域軍も、ノヴァルナのセッツー宙域遠征に独自に対応しようとしていたが、この宙域に迫る危機は、さしものハーヴェンにも読み切れないものであった。
オウ・ルミル宙域コーガ恒星群―――
歯痛でもあるのかと思わせる、口の端を僅かに開けシーシーと息を吸う、スキンヘッドの男、旧オウ・ルミル宙域星大名ロッガ家当主ジョーディー=ロッガだ。残存ロッガ軍二個艦隊と、“コーガ恒星群”二個艦隊を率いて、ウォーダ家の支配域へ向かっているところである。
二年前の星帥皇ジョシュアのキヨウ上洛戦を妨害しようとしたものの、ノヴァルナ率いるウォーダ軍の前にあえなく敗退。本拠地クァル・ノージー城を逐われ、親衛隊とも言うべき特殊部隊集団“コーガ五十三家”が統治する、コーガ恒星群へと逃げ込んでいた。
それ以後、“ミョルジ三人衆”が皇都惑星キヨウとウォーダ家に、攻勢を仕掛ける度に、残存艦隊を動かしてウォーダ軍の後方を攪乱しようとしている。ただこれまでは、“攪乱しようとしている”という状況どまりだったため、実害は出ていなかった。ウォーダ家の宙域軍が艦隊を差し向けると、すぐにコーガ恒星群へ引っ込んでいたからである。そのためウォーダ家オウ・ルミル宙域軍の兵の間でも、近頃ではジョーディーのロッガ家残党軍を、侮る風潮が起き始めていた。
そんなウォーダ兵の侮蔑の言葉が、幻聴となって聞こえでもしたのであろうか、ジョーディーは司令官席の肘掛けにを掴む両手の指先に力を込め、「今回はそうはいかんぞ…」と小さく呟く。
星帥皇室側に付いていたり、これに敵対したミョルジ家と手を組んだり、これまで優柔不断な態度を取り続けて、そのしっぺ返しを受けていたロッガ家だったが、ジョシュアの新たな星帥皇室が、憎いノヴァルナの排除を決めた以上、本腰を入れて星帥皇室との関係を修復し、これに協力する時が来たのだ。
星帥皇室の仲介により、ウォーダ家を排除したあとのオウ・ルミル宙域は、アーザイル家との均等分割統治となり、昔より領地は減る事になるが、コーガ恒星群に押し込められている今よりは全然いい。
「見ておれよ、ウォーダの者共め。一泡も二泡も吹かせてくれようぞ」
ニタリ…と、ほくそ笑むジョーディー=ロッガ。しかもこの男が率いる艦隊の、遥か後方に位置するイーセ宙域でも、蠢き始めた勢力があった。イーゴン教徒が支配する自治星系、ナナージーマである………
▶#03につづく
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