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第18話:閉じられし罠
#03
しおりを挟むナナージーマ星系はイーセ宙域にあって、オ・ワーリ宙域との領域境界近くに位置しており、セッツー宙域はオ・ザーカ星系の第四惑星ガルシナに、総本山の『イシャー・ホーガン』を置く新興宗教、イーゴン教徒によって統治される自治星系であった。
イーセ宙域は二年前にキルバルター家がノヴァルナに降り、ウォーダ家が間接統治する状況となっている。しかしその中でもナナージーマ星系は、自衛のためと称して強力な宇宙艦隊を五個も有し、独立状態を維持していた。財政負担を考えると一つの星系に五個の宇宙艦隊は、明らかに過剰で異常な数だが、周辺宙域の教徒から得られる献納金の総額からすれば、可能な艦隊数だった。
オ・ワーリ宙域ティタ恒星群はそのナナージーマ星系から、およそ二百五十光年離れた位置にあり、十一の恒星系で成り立っている。その中で居住可能な惑星を持つ星系は三つ。これを治めるのが独立管領のサージ家である。そしてこのサージ家の次期当主バルボアの妻が、ノヴァルナの妹マリーナだ。
三つの植民星系を所有するサージ家は、準星大名とも呼べる存在であるが故に、昔から独立志向も強く、かつては領主ウォーダ家にも、完全に従属していたわけではなかった。
それが二年前の1563年、ミノネリラ宙域の征服に成功したウォーダ家の、さらなる発展を臨んだマリーナは、イーセ宙域方面の守備を安定させるために、サージ家の取り込みを考え、自らの申し出によってバルボア=サージとの政略結婚を、兄ノヴァルナに具申したのであった。
その後、キヨウまで進出したノヴァルナが、キルバルター家を支配下に置いたため、現在のサージ家の役目は、この無視できない戦力を持った、ナナージーマ星系の監視へと移行している。
サージ家の本拠地星系エトラムの第三惑星カニア。夕日に彩られた丘陵地にそびえる、オーニス城のシャトルポートに、衛星軌道上の恒星間打撃艦隊旗艦から降下して来たばかりの、連絡用シャトルがあった。
ハッチが開き、二人の衛兵に続いて、純朴そうな青年が姿を現す。次期当主のバルボアである。それを出迎えるマリーナ。ウォーダ家時代とほとんど変わらぬ、別の世界で言う“ゴスロリ”衣装だが、派手さは控えめとなっていた。
「おかえりなさい。あなた」
微笑んで軽く頭を下げるマリーナは二十五歳。二人の男児の母となった彼女は、ウォーダ家にいた頃より、艶やかさを増している。「うん。ただいま」と穏やかに応じるバルボアに、問い掛けるマリーナ。
「それで、いかがでした?…ナナージーマの動き」
バルボア=サージはこの数日間、艦隊を率いてナナージーマ星系方面へ進出。情報収集を行っていたのである。このところ、ナナージーマ星系艦隊の動きが活性化しており、これを側聞したマリーナが夫に、艦隊を出して動きを見張るよう、意見具申したのだった。
「うん。やはりどこかおかしいみたいだ。詳しい話は中でするよ」
バルボアの返答に「ええ」と応じたマリーナは、連れだって城の中へ向かう。
「話が終わったら、子供達とも一緒に食事をしよう」
「あら。お食べになってないんですの? 艦隊の時差は、四時間ほどなのに」
「うん。到着時間が、こっちの夕飯前だと聞いて、我慢してた」
「まぁ…」
戦国武将というより子煩悩で家庭的な、出張帰りのサラリーマンを思わせる夫の言動に、マリーナは苦笑いを浮かべた。艦隊出動の意見具申など、軍師的な役割すら感じさせるマリーナとは、対照的なイメージのバルボアである。
ただ苦笑いを浮かべてはいても、マリーナが纏う空気は幸せそうだった。夫は兄のノヴァルナのような派手さはないが、善き人であり、嫁いだサージ家は自分がいた頃のウォーダ家のような、内部抗争の火種もない。ナナージーマ星系を警戒するという戦略的理由さえなければ、平和な日々ばかりであろう。
しかし現実は甘くはない。
バルボアがマリーナに語ったところによると、ナナージーマ星系を広く囲むように、宇宙艦を配置して監視を行ったのだが、ナナージーマの艦隊の他にも、超空間ゲートを使用していない大型貨物船の大船団が、頻繁に発見されたという。それは特にイーセ宙域に隣接したイガスター宙域や、ヤーマト宙域との間の航路に多く見られたらしい。ナナージーマ艦隊はどうやらこの船団のために、哨戒行動を行っていたと思われる。
船のDFドライヴを使い、超空間ゲートを使用しない恒星間航行は、運用効率が悪く商用向きではない。そしてそういった船が積載しているのは、非公式の軍事物資…例えば、誘導弾や宇宙魚雷、さらにはBSIユニットなどの可能性が高い。銀河皇国規約で軍艦や軍用品を積載した貨物船、武装商船は超空間ゲートの使用が禁止されており、強攻策をとったとしても、ゲートは起動しない仕組みとなっていたからだ。
バルボアの話を聴いたマリーナは、落ち着いた口調で「お疲れ様でした」と告げて、さらりと続けた。
「夕食を終えたらキオ・スー城へ、一報を入れておくとしましょうか…」
▶#04につづく
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