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第18話:閉じられし罠
#09
しおりを挟む高々度ステルス艦―――潜宙艦といえど、艦内に搭載していた艦載機を発艦させるとなると、流石にステルス機能はほとんど失われる。“サイガン衆”潜宙空母艦隊の存在は、たちどころにウォーダ軍主力部隊の最後尾を守る、後詰艦隊の知るところとなった。
「センサーに感あり。方位014プラス03、距離およそ6万、反応数24。突然反応が現れました。味方識別表示無しです」
電探科の女性オペレーターが、眼前のホログラムスクリーンにいきなり現れた、正体不明の反応に戸惑いながら、彼女が乗る駆逐艦『ガートフ12』の艦長に報告する。ベテランだと思われる白髪の艦長は、即座に幾つかの指示を出す。
「通信士、すぐに旗艦へ連絡。しかるのちに近くにいる僚艦二隻に、状況説明と協力要請。航宙士、反応のあった場所へ針路変更最大速度。砲術士、戦闘準備。総員第一種警戒体制!」
艦長と駆逐艦の乗員は、自分達の役割を果たそうとしていた。だが彼等の所属する部隊には問題があった。後詰艦隊を指揮しているのはヤーマト宙域星大名、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガであるが、この男、星帥皇室と星大名やその使者が『ゴーショ・ウルム』に秘密裡に集まった、あのノヴァルナ排除の秘密集会に参加していた武将の一人だった。
マツァルナルガ艦隊旗艦『ヴェロンナ』に座乗するヒルザードは、駆逐艦『ガートフ12』からの、“敵らしきもの発見”の報告を受け、傍らに立つ参謀長に鷹揚な口調で問い掛ける。
「どうだ参謀長。我が艦隊の哨戒駆逐艦は皆、優秀ではないか」
「さようですな」
ヒルザードと同じフォクシア星人の参謀長は、同じように緊張感のない口調で、のんびりと応じる。そこに届く『ガートフ12』からの続報。反応は大小があり、大きい方はまたすぐに反応が消失した事から、潜宙艦の可能性が高く、小さい方はどうやら艦載機だという事だ。そしてこの艦載機らしきものは、ノヴァルナの第1艦隊の方角へ向かっているという。
「今回に限り…あまり優秀なのも、考えものかも知れませんな」
意味深な事を言う参謀長に、ヒルザードはニタリ…と粘着質の笑みを見せる。
「ノヴァルナ公への報告は、十分後ぐらいでよかろう。それ以上遅らせると我等の裏切りが、見抜かれるおそれもあるからな」
今は星帥皇室側への寝返りを、知られていい局面ではない。そして罠に落ちたノヴァルナがなおも生き延びて潰走を始めた時は、その首を頂戴する…そう思うヒルザードの粘着質の笑みは、自然と大きくなった。
潜宙空母艦隊から発進した“サイガン衆”BSHO隊の情報が、ノヴァルナのもとへ伝わったのは、マツァルナルガが意図的に遅延させた十分の時間に、伝達のタイムラグを加えて十五分二十二秒後だった。
その警告を真っ先に受信したのは、『ホロウシュ』の機体の中でも一番通信機能が高い、ショウ=イクマの『シデン・カイXS-ES』である。電子戦特化型機体の通信能力は、BSHO以上の部分もあり、また第1艦隊に一番近い位置にいたという事もある。
「BSI部隊が後方からだと?」
眉をひそめたノヴァルナは、イクマに再確認する。冷静に応じるイクマ。
「はい。機数は十八。こちらに真っ直ぐ向かって来ているとのこと。第1艦隊からBSI二個中隊を出して確認に向かわせており、間もなく我々の探知圏内にも入るはずです」
現在のノヴァルナ達の状況は、ASGULの試験中隊によるD-ストライカー三段射撃実験の準備を、完了したばかりであった。“ミョルジ三人衆”の総旗艦『シンヨウ』を含む、敵第1艦隊の戦艦群に三段射撃を行おうとした寸前であり、所属不明のBSI部隊出現の緊急連絡に、ノヴァルナが待機を命じたところだ。
“この試験中隊に勘付いたか?…いや、違うな。となると狙いは俺か。そうであるなら、数が少ない気もするが―――”
敵と思われるBSI部隊の目的に考えを巡らせるノヴァルナだが、いずれにせよ可能性として、ASGULの三段射撃試験中隊を見られるのはマズい。
「ウイザード01よりカクタス01。カクタス試験中隊は射撃実験を中止、すぐに母艦へ帰投せよ」
試験中隊にそう命じたノヴァルナは、『ホロウシュ』達を従えて接近中のBSI部隊へと向かった。試験中隊の撤収を援護するためである。
すると正体不明のBSI部隊に向かって、三分ほど過ぎたところであろうか、驚くべき報告が『センクウ・カイFX』に飛び込んで来る。第1艦隊が確認のために出した、BSI二個中隊が壊滅的損害を受けて、突破されたというのだ。正体不明のBSI部隊が敵であるのはもはや疑いないが、こちらは倍以上の数を出していたのを、易々と突破したのだから只事ではない。警告を発するノヴァルナ。
「全機、警戒しろ!」
その直後、『センクウ・カイFX』のセンサーが、敵反応を捉える。どの解析情報も放射エネルギーが、通常のBSIユニットのものどころか、BSHOよりも大きい数値である表示が為されていた。
「なにっ。こいつは…全部が、モルンゴールのBSHOだってのか?」
▶#10につづく
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