銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第18話:閉じられし罠

#20

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 セークモートン星系に出現した敵の連合部隊は、アーザイル軍が三個艦隊、アザン・グラン軍が四個艦隊と、ウォーダ軍の倍以上の戦力であった。

 アーザイル軍は当主ナギ・マーサス=アーザイルの第1艦隊、ナギの弟のモートン・ゲバル=アーザイルの第2艦隊、アーザイル家傍流のノリス・トゥシス=アーザイルの第4艦隊。
 アザン・グラン軍は当主ウィンゲート=アザン・グランが第1艦隊を直卒。これに“カノン・ガルザック追撃戦”の時の総司令官で、筆頭家老であるヴァゼリエ=エヴァーキンが第2艦隊司令官として従い、カーグアキュラ=アザン・グランの第3艦隊、キーグナス=アザン・グランの第7艦隊が加わっている。

 “アネス・カンヴァーの戦い”が終わって、まだ半年も経っていない現段階で、アーザイル、アザン・グラン両家とも艦隊を再編し、いま出せる恒星間戦力を絞り出した形であった。それだけ彼等がノヴァルナを討てる可能性のあるこの機会に、賭けているという事であろう。


 アザン・グラン軍総旗艦『サイオウ』に乗る当主ウィンゲートは、戦術状況ホログラムに表示されているウォーダ軍の状況に、僅かに顔をしかめた。司令官席の肘掛けに置いた右手の指先が、神経質そうに肘掛けを何度も叩く。

「敵は三個艦隊…。数的には我々の半分だが」

 ウィンゲートがぼそりと言うと、傍らに立っていた、筆頭家老のエヴァーキンの等身大ホログラムが、当主の言いたい事を察して同意する。

「さようです。我等の真の目的は、ヤヴァルト宙域へ進入して、ノヴァルナ殿を討つ事にて。ここでむやみに損害を出している場合ではありません」

「ううむ…」

 唸り声を漏らしたウィンゲートは、再び艦橋中央の戦術状況ホログラムを振り向いて、思考を巡らせた。そして思いついた事を、エヴァーキンに問い掛ける。

「それではまず、前方のウォーダ軍を説得して、我々に味方するよう、試みてはどうだろう?」

 これを聞いてエヴァーキンは困惑顔になった。

「情報によれば、前方にいるのはサンザー殿の部隊。かの御仁ごじんは、裏切りや寝返りに、強い嫌悪感を感じるお方のようです。そんな御仁に説得は難しいでしょう」

「では、どうすればよいのだ?」

「ここは、戦うしかないでしょうな」

 再び「ううむ…」と声を漏らすウィンゲート。正直このような性格の当主であるから、“カノン・ガルザック追撃戦”でも“アネス・カンヴァーの戦い”でも、陣頭指揮を執りはしなかったのである。
 
 事実、優柔不断な性格のウィンゲートは以前、前星帥皇テルーザが“ミョルジ三人衆”に殺害された際、ジョシュアを保護はしたものの、上洛軍を出すのは渋った過去があり、また普段は戦時でも軍事作戦は、エヴァーキンやカーグアキュラに指揮を丸投げし、内政に専念している事が多い。
 もっともアザン・グラン家はこれまでの長い年月、周辺宙域との争いが絶えず、一族内でも諸流の主導権奪取を、競い合っていた経緯があり、生来の慎重な性格に用心深さが加わったのが、今のウィンゲートを作り上げたとも言える。

 そのようなウィンゲートが今回、珍しく前線に出て来て陣頭指揮を執っているのは、それでも一応アザン・グラン家の当主として、“アネス・カンヴァーの戦い”で戦死した名将、ネオターク・ジュロス=マガランの弔い合戦という意味合いも、含んでいたからだ。

 またアーザイル家の方でも、主君ナギの弟で“アネス・カンヴァーの戦い”において戦死した、三男のマースト=アーザイル。そして土壇場での逆転としてノヴァルナ殺害を図り、敵中で討ち死にした重臣トゥケーズ=エイン・ドゥの仇討ちを、全将兵が誓っている。
 そして事ここに至って指揮を執るナギも弟マーストや、最大の支持者であったエイン・ドゥの命を奪われ、妻のフェアンと三人の娘を守るため以上に、ノヴァルナとウォーダ軍に対して、復讐心を抱くようになっていた。

 “アネス・カンヴァーの戦い”で総旗艦『ソウリュウ』を失ったナギは、父クェルマスから譲り受けた前総旗艦『コウリュウ』から、アザン・グラン軍総旗艦『サイオウ』に乗るウィンゲートへ連絡を入れる。

「ウィンゲート様。ここはまず我等アーザイルの軍が、仕掛けさせて頂きます」

 ナギもウィンゲートの優柔不断さを知っており、自分達が先陣を切るという言葉には、有無を言わせぬ響きがあった。

「わ、わかった、ナギ殿。宜しく頼む」

 ウィンゲートの賛意を聞くと、ナギは即座にアーザイル家の三個艦隊へ、前進命令を下す。その様子を戦術状況ホログラムで眺めながら、アザン・グラン家のカーグアキュラは、エヴァーキンに通信で呼び掛けた。ウィンゲートの従弟にあたり、戦術指揮能力はこちらの方が高い。

「相手は“鬼のサンザー”殿だ。上手くいくといいが…。切り札は準備してあるであろうな? エヴァーキン殿」

 エヴァーキンはこれに眼光鋭く応じた。

「連絡すればいつでも。しかしまだ、使わずに済ませたいところですが…」




▶#21につづく
 
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