銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第18話:閉じられし罠

#19

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 皇国暦1565年4月7日。キノッサ艦隊がサクータ星系から出陣、ロッガ家残党の排除に向かっていたその頃、ウォーダ軍第6艦隊司令官カーナル・サンザー=フォレスタは、第33艦隊と第35艦隊と共に、セークモートン星系第八惑星を背後に置く形で、扇状の陣形を展開していた。

 セークモートン星系はサンザーの領地ウーサルマ星系から、約八十光年離れた位置にあり、周辺には金融自治星系エイザン、有力独立管領星系ク・トゥーキ。そしてかつて、キヨウ訪問途中のノヴァルナによって討伐された私兵集団、『ヴァンドルデン・フォース』の根拠地星系リガントや、キノッサの妻ネイミアの故郷ザーランダ星系などが存在している。

 サンザー達がこのセークモートン星系で艦隊を展開した理由は、当初はキノッサの領地へ向かうのではないかと思われた、アーザイル/アザン・グラン連合軍に対して、アーザイル家本拠地ナッグ・ハンマ星系侵攻の素振りを見せて、動きを牽制するためであった。
 しかしその後、キノッサの軍師ハーヴェンからの意見具申で、連合軍の目的は、セッツー宙域で戦闘中のノヴァルナの遠征軍を、後背から襲撃する可能性の方が高い事を知らされ、そのままここで迎撃準備を整えていたのである。

 アーザイル/アザン・グラン連合軍が、このセークモートン星系付近を通るであろう理由は、いま述べた金融自治星系エイザンと、有力独立管領星系ク・トゥーキの間にあるからだった。エイザン、ク・トゥーキの双方とも、強力な艦隊戦力を有しており、連合軍もあまり接近して刺激はしたくないはずで、また大きく迂回していては、本来の目標であるノヴァルナの遠征軍を、捕捉出来なくなる恐れも出て来る事を考えれば、妥当な判断だと思われる。

 クリーム色にオークブラウンの縞模様が美しい、セークモートン星系第八惑星を背景にして、この時のサンザーは新たな第6艦隊旗艦、宇宙空母『バンガーヴェルダ』の執務室で、遅めの夕食中である。そしてそこには等身大ホログラムだが、第33艦隊司令官スーゲット=アーチと、第35艦隊司令官ヴェルージ=ウォーダの食事中の姿もあった。変則的な夕食会というわけだ。それは無論、いつアーザイル/アザン・グラン連合軍が、現れるか分からないからであった。
 ただし、緊張があってもおかしくはない状況で、交わされる三人の会話は、和やかなものとなっている。

「ハッハッハッ。それは自慢の甥御ですなぁ、アーチ殿」

「いやまぁ、そのぶん何しろ変わり者でして。ノヴァルナ様もよく、あれをお気に入り下されたものと…」

 スーゲット=アーチはノヴァルナの補佐官、ジークザルト・トルティア=ガモフの叔父にあたる人物で、サンザーの誉め言葉に眼を細めてはにかんでいる。
 
「ノヴァルナ様も、充分に変わり者ですからな。波長が合ったのでしょうなぁ」

 そう応じてサンザーは再び「ハッハッハッ…」と笑い声を漏らす。戦場では“鬼のサンザー”の異名で、敵味方双方から恐れられるサンザーだが、普段は陽気で豪気なフォクシア星人だった。

 するとこれにヴェルージ=ウォーダも加わる。

「私などは、ノヴァルナ様の義弟の立場を頂いて、恐縮の極みですよ」

 苦笑いでそう告げる二十一歳のこの若者は、九年前にノヴァルナに滅ぼされた、旧キオ・スー家当主ディトモス・キオ=ウォーダの実子である。
 滅亡の際、当主ディトモスには妻のリスティーナと三人の男児がいた。長男カルネード、次男ヴェルージ、三男ヴァージルだ。
 かつてのウォーダ一族宗家の妻でありながら、恥を忍んで三人の助命を請うリスティーナに対し、当初からディトモスの妻子にまで、危害を加えるつもりはなかったノヴァルナは、これを受け入れた上でさらに、三人をウォーダ家主筋のままに留め置いた…つまり、新たな宗家となったノヴァルナの、弟の地位が与えられたのである。助命されただけでなく、破格の扱いと言っていい。

「ノヴァルナ様はいい意味で、そういった事に無頓着であるからなぁ」

 ヴェルージの言葉に、サンザーは笑顔で何度も頷いた。

「そういえばサンザー様は、ノヴァルナ様のBSIパイロットの教官で、あらせられたのでしょう?」

 アーチに尋ねられて、サンザーは「うむ…」と応じる。そして天井を見上げ、視線を遠くする。

「殿下の初陣前まででしたので、もう十年以上も前の事になりますか…。“大うつけ”だのなんだのと、領民達からも呆れられるほどの奇行三昧でしたが、パイロットの訓練だけは、真面目にしておられましたな」

 そう言いながらもサンザーは心の中で、“いや…違うな”と呟いた。真面目だったのは、パイロットの訓練だけではない。内訌の絶えなかった当時のウォーダ家の中で、敵対者の眼を欺くために、真面目に“大うつけを演じていた”のだ。

“その甲斐あってノヴァルナ様は、今やオ・ワーリ、ミノネリラ、そしてオウ・ルミル宙域の大半を支配。思えば遠くまで来られたものよ”

 感慨に浸るサンザー。するとそこでインターコムが鳴り、艦橋から連絡が入る。哨戒駆逐艦が、接近中のアーザイル/アザン・グラン連合軍部隊を発見したのだ。サンザーは慌てる様子も無く、アーチとヴェルージのホログラムに語りかけた。


「どうやら、戦争の時間のようですな。では方々、これにて…」




▶#20につづく
 
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