2 / 10
第2話:辺境の町での苦難と小さな出会い
しおりを挟む
粗末な幌馬車に揺られること、幾日だったろうか。
降り続いた雨はいつしか止んでいたけれど、私の心は未だ晴れぬまま、重く沈んでいた。
王都を出てから五日目の夕刻、ようやく私は目的地の町、リューゲンへと辿り着いた。
そこは、隣国オルデンブルクとの国境に位置する、寂れた関所町。
石畳の道はところどころ剥がれ、建ち並ぶ家々は古びて煤けており、活気というものがあまり感じられない。
道行く人々の服装も質素で、その表情はどこか険しく、よそ者である私に向ける視線は冷ややかだった。
(ここが…私がこれから生きていく場所なのね…)
胸に去来するのは、不安と、ほんの少しの諦観。
けれど、感傷に浸っている暇はない。
まずは今夜の宿を見つけ、そして、明日からの糧を得るための仕事を探さなければ。
父が持たせてくれた革袋の中の金貨は、決して多くはない。
いつまでもつか分からない心細さを抱えながら、私は町で一番安上がりだという小さな宿屋に部屋を取った。
部屋は狭く、薄暗く、お世辞にも清潔とは言えなかったけれど、雨風を凌げるだけましだと思わなければ。
翌日から、私の仕事探しが始まった。
しかし、現実は想像以上に厳しかった。
「女一人にできる仕事だと? ふん、料理や洗濯くらいならあるかもしれんが、お嬢ちゃんのような綺麗な手をした子に務まるかね?」
肉屋の主人に、鼻で笑われる。
「うちは力仕事だからなあ。男でも音を上げるくらいだ。あんたには無理だろう」
材木置き場の親方には、けんもほろろに断られる。
どこへ行っても、門前払いされるか、あるいは好奇の目で見られるか。
私の言葉遣いや、無意識に出てしまう貴族育ちの所作が、どうやらこの町では浮いてしまうらしい。
「エレオノーラ」とだけ名乗ってはいるものの、どこか訳ありの女だと思われているのかもしれない。
数日が過ぎ、手持ちの金は少しずつ減っていく。
焦りと不安が、じわじわと心を蝕んでいくのを感じた。
そんなある日の夕暮れ時。
少しでも食費を切り詰めるため、安いパンを一つだけ買い、宿屋へ戻ろうと薄暗い裏路地を歩いていた時だった。
「よう、お嬢ちゃん。一人かい? 俺たちと一杯どうだ?」
壁にもたれて酒を飲んでいた、二人組の薄汚れた男たちに声をかけられた。
その目は濁り、下卑た笑みが浮かんでいる。
「…ご遠慮させていただきますわ」
私は足早に通り過ぎようとした。
しかし、男の一人が私の腕を乱暴に掴んだ。
「つれないこと言うなよ。見たところ、金に困ってるんだろう? いい稼ぎ口を紹介してやるぜ?」
酒と汗の臭いが、ぷんと鼻をつく。
「離してください!」
私は必死に抵抗する。
恐怖で心臓が早鐘を打ち、背筋に冷たい汗が流れた。
これが、追放された者の現実。
これが、力のない女の末路。
かつての私なら、こんな狼藉、決して許さなかっただろう。
けれど、今の私には、何の力もない。
(誰か…!)
心の中で叫んだ、その時だった。
「おい、お前たち。そのお嬢さんから手を離しな」
低く、しかしよく通る声が響いた。
見ると、路地の入り口に、恰幅のいい中年の女性が腕を組んで立っていた。
年の頃は五十代くらいだろうか。目つきは鋭いが、どこか面倒見の良さそうな雰囲気を漂わせている。
男たちは、一瞬怯んだように私から手を離した。
「なんだよ、マーサのばあさん。こいつはあんたの知り合いかい?」
「知り合いだろうがなかろうが、女の子に無理強いするんじゃないよ。さっさと行った行った!」
マーサと呼ばれた女性は、まるで大きな犬でも追い払うかのように、手を振る。
男たちは、舌打ちしながらも、すごすごとその場を立ち去っていった。
「…あ、ありがとうございます。助けていただいて…」
私は、まだ震える声で礼を言った。
「ふん。あんなチンピラ、この町には掃いて捨てるほどいるからね。気をつけなよ、お嬢さん」
マーサさんは、ぶっきらぼうにそう言うと、私をじろじろと品定めするように見た。
「あんた、見かけない顔だね。どこから来たんだい?」
「…えっと、少し遠いところから、仕事を探しに…」
「仕事ねえ。こんな寂れた町で、女一人で仕事を探すのは大変だろうよ」
彼女の言葉は率直だったが、そこには先ほどの男たちのような下卑た響きはなかった。
「もしよかったら、うちの店、見ていかないかい? ちょうど人手が足りなくてね」
「お店…ですか?」
「ああ、薬師さ。まあ、しがない田舎の薬屋だけどね」
マーサさんはそう言って、路地の角を曲がった先にある、小さな店を指差した。
古びてはいたが、きちんと手入れされていることが分かる、こぢんまりとした店構えだった。
看板には「マーサの薬草店」と書かれている。
薬師…!
私は、わずかな希望の光を見た気がした。
かつて、王宮の侍女から薬草の知識を少しだけ教わったことがある。
もしかしたら、それが役に立つかもしれない。
「ぜひ、お願いします!」
私は、思わず大きな声で答えていた。
マーサさんは、少し驚いたような顔をしたが、すぐにいつものぶっきらぼうな表情に戻った。
「まあ、ついてきな」
店の中は、様々な薬草の独特な香りで満ちていた。
壁一面の棚には、乾燥させた薬草や、調合された薬が入った小瓶が整然と並べられている。
決して広くはないが、清潔で、落ち着いた空間だった。
「見ての通り、小さな店さ。お客もそんなに多くはないけどね。それでも、この町の人たちにとっては、なくてはならない店だと思ってやってるよ」
マーサさんは、少しだけ誇らしげに言った。
「それで、あんたは何かできるのかい? 薬草の知識はあるのかね?」
「はい、少しだけですが…以前、薬草の種類や効能について学んだことがあります。簡単な調合なら…」
「ほう。そりゃあ、ちょうどいい」
マーサさんは、棚から数種類の乾燥した薬草を取り出し、私に見せた。
「これはカモミール、鎮静作用がある。こっちはペパーミント、消化を助ける。じゃあ、これは何だか分かるかい?」
彼女が指差したのは、小さな白い花をつけた薬草だった。
「それは…エルダーフラワーですね。発汗作用や利尿作用があって、風邪のひきはじめやデトックスに良いと聞いています」
「へえ、よく知ってるじゃないか。口先だけじゃなさそうだね」
マーサさんの目つきが、少しだけ和らいだように見えた。
「よし、試しに数日間、ここで働いてみな。日当はほんの僅かしか出せないけど、三食昼寝付き、ってわけにはいかないけど、食事くらいは面倒見てやるよ」
「本当ですか!?」
「ああ。ただし、仕事ができなきゃすぐにクビだからね。覚悟しときな」
相変わらず口調はぶっきらぼうだったけれど、その言葉の端々に、どこか温かさを感じた。
私は、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます、マーサさん! 精一杯、頑張ります!」
こうして、私はマーサさんの薬草店で働くことになった。
仕事は、薬草の仕分けや乾燥、調合の手伝い、店の掃除、そして時には薬の配達も。
貴族令嬢だった頃には考えられないような雑用ばかりだったけれど、私にとってはどれも新鮮で、そして何よりも、自分の力で生きているという実感を与えてくれた。
初めのうちは、慣れない仕事に戸惑うことも多かった。
薬草の名前を間違えたり、調合の分量を間違えそうになったり。
そのたびに、マーサさんからは厳しい叱責が飛んだ。
「エレオノーラ! あんた、またカレンデュラとアルニカを間違えたのかい! 見た目は似てるけど、効能が全然違うんだよ! 患者さんの命に関わることなんだから、もっとしっかりおやり!」
「も、申し訳ありません…!」
それでも、私は決して諦めなかった。
マーサさんの教えを一つ一つ真剣に受け止め、必死に知識と技術を吸収しようと努めた。
夜、宿屋に戻ってからも、昼間教わったことを復習し、薬草の本を借りて読みふけった。
そんな私の努力を、マーサさんは黙って見ていてくれた。
ぶっきらぼうな態度は変わらなかったけれど、時折、彼女の口から褒め言葉が漏れることもあった。
「エレオノーラ、あんた、なかなか筋がいいじゃないか。飲み込みも早いし、何より真面目だ。見た目によらず、根性もあるしね」
「ありがとうございます、マーサさん…!」
初めてマーサさんに褒められた時、私は嬉しくて涙が出そうになった。
この町で、ようやく自分の居場所を見つけられたのかもしれない。
ほんの少しだけれど、未来に希望の光が差してきたような気がした。
薬師の仕事は、思った以上に奥が深く、やりがいのあるものだった。
自分の知識や技術が、誰かの役に立つ。
それは、私にとって大きな喜びだった。
(この町でなら、生きていけるかもしれない…)
そんなささやかな希望を胸に抱き始めた、ある日のこと。
マーサさんから、少し離れた村まで薬を届けるように頼まれた。
いつもより少し遠出になるけれど、一人で行ってこい、と。
「大丈夫かい? 心配なら、わしが…」
「いえ、大丈夫です、マーサさん! もう何度も配達は経験していますから!」
私は、笑顔でそう答えた。
マーサさんからの信頼が、嬉しかったのだ。
そして、この小さな成功体験が、私にほんの少しの自信を与えてくれていた。
しかし、この時の私はまだ知らなかった。
この何気ないお使いが、私の運命を再び大きく揺り動かすことになるなどとは、夢にも思っていなかったのだ。
降り続いた雨はいつしか止んでいたけれど、私の心は未だ晴れぬまま、重く沈んでいた。
王都を出てから五日目の夕刻、ようやく私は目的地の町、リューゲンへと辿り着いた。
そこは、隣国オルデンブルクとの国境に位置する、寂れた関所町。
石畳の道はところどころ剥がれ、建ち並ぶ家々は古びて煤けており、活気というものがあまり感じられない。
道行く人々の服装も質素で、その表情はどこか険しく、よそ者である私に向ける視線は冷ややかだった。
(ここが…私がこれから生きていく場所なのね…)
胸に去来するのは、不安と、ほんの少しの諦観。
けれど、感傷に浸っている暇はない。
まずは今夜の宿を見つけ、そして、明日からの糧を得るための仕事を探さなければ。
父が持たせてくれた革袋の中の金貨は、決して多くはない。
いつまでもつか分からない心細さを抱えながら、私は町で一番安上がりだという小さな宿屋に部屋を取った。
部屋は狭く、薄暗く、お世辞にも清潔とは言えなかったけれど、雨風を凌げるだけましだと思わなければ。
翌日から、私の仕事探しが始まった。
しかし、現実は想像以上に厳しかった。
「女一人にできる仕事だと? ふん、料理や洗濯くらいならあるかもしれんが、お嬢ちゃんのような綺麗な手をした子に務まるかね?」
肉屋の主人に、鼻で笑われる。
「うちは力仕事だからなあ。男でも音を上げるくらいだ。あんたには無理だろう」
材木置き場の親方には、けんもほろろに断られる。
どこへ行っても、門前払いされるか、あるいは好奇の目で見られるか。
私の言葉遣いや、無意識に出てしまう貴族育ちの所作が、どうやらこの町では浮いてしまうらしい。
「エレオノーラ」とだけ名乗ってはいるものの、どこか訳ありの女だと思われているのかもしれない。
数日が過ぎ、手持ちの金は少しずつ減っていく。
焦りと不安が、じわじわと心を蝕んでいくのを感じた。
そんなある日の夕暮れ時。
少しでも食費を切り詰めるため、安いパンを一つだけ買い、宿屋へ戻ろうと薄暗い裏路地を歩いていた時だった。
「よう、お嬢ちゃん。一人かい? 俺たちと一杯どうだ?」
壁にもたれて酒を飲んでいた、二人組の薄汚れた男たちに声をかけられた。
その目は濁り、下卑た笑みが浮かんでいる。
「…ご遠慮させていただきますわ」
私は足早に通り過ぎようとした。
しかし、男の一人が私の腕を乱暴に掴んだ。
「つれないこと言うなよ。見たところ、金に困ってるんだろう? いい稼ぎ口を紹介してやるぜ?」
酒と汗の臭いが、ぷんと鼻をつく。
「離してください!」
私は必死に抵抗する。
恐怖で心臓が早鐘を打ち、背筋に冷たい汗が流れた。
これが、追放された者の現実。
これが、力のない女の末路。
かつての私なら、こんな狼藉、決して許さなかっただろう。
けれど、今の私には、何の力もない。
(誰か…!)
心の中で叫んだ、その時だった。
「おい、お前たち。そのお嬢さんから手を離しな」
低く、しかしよく通る声が響いた。
見ると、路地の入り口に、恰幅のいい中年の女性が腕を組んで立っていた。
年の頃は五十代くらいだろうか。目つきは鋭いが、どこか面倒見の良さそうな雰囲気を漂わせている。
男たちは、一瞬怯んだように私から手を離した。
「なんだよ、マーサのばあさん。こいつはあんたの知り合いかい?」
「知り合いだろうがなかろうが、女の子に無理強いするんじゃないよ。さっさと行った行った!」
マーサと呼ばれた女性は、まるで大きな犬でも追い払うかのように、手を振る。
男たちは、舌打ちしながらも、すごすごとその場を立ち去っていった。
「…あ、ありがとうございます。助けていただいて…」
私は、まだ震える声で礼を言った。
「ふん。あんなチンピラ、この町には掃いて捨てるほどいるからね。気をつけなよ、お嬢さん」
マーサさんは、ぶっきらぼうにそう言うと、私をじろじろと品定めするように見た。
「あんた、見かけない顔だね。どこから来たんだい?」
「…えっと、少し遠いところから、仕事を探しに…」
「仕事ねえ。こんな寂れた町で、女一人で仕事を探すのは大変だろうよ」
彼女の言葉は率直だったが、そこには先ほどの男たちのような下卑た響きはなかった。
「もしよかったら、うちの店、見ていかないかい? ちょうど人手が足りなくてね」
「お店…ですか?」
「ああ、薬師さ。まあ、しがない田舎の薬屋だけどね」
マーサさんはそう言って、路地の角を曲がった先にある、小さな店を指差した。
古びてはいたが、きちんと手入れされていることが分かる、こぢんまりとした店構えだった。
看板には「マーサの薬草店」と書かれている。
薬師…!
私は、わずかな希望の光を見た気がした。
かつて、王宮の侍女から薬草の知識を少しだけ教わったことがある。
もしかしたら、それが役に立つかもしれない。
「ぜひ、お願いします!」
私は、思わず大きな声で答えていた。
マーサさんは、少し驚いたような顔をしたが、すぐにいつものぶっきらぼうな表情に戻った。
「まあ、ついてきな」
店の中は、様々な薬草の独特な香りで満ちていた。
壁一面の棚には、乾燥させた薬草や、調合された薬が入った小瓶が整然と並べられている。
決して広くはないが、清潔で、落ち着いた空間だった。
「見ての通り、小さな店さ。お客もそんなに多くはないけどね。それでも、この町の人たちにとっては、なくてはならない店だと思ってやってるよ」
マーサさんは、少しだけ誇らしげに言った。
「それで、あんたは何かできるのかい? 薬草の知識はあるのかね?」
「はい、少しだけですが…以前、薬草の種類や効能について学んだことがあります。簡単な調合なら…」
「ほう。そりゃあ、ちょうどいい」
マーサさんは、棚から数種類の乾燥した薬草を取り出し、私に見せた。
「これはカモミール、鎮静作用がある。こっちはペパーミント、消化を助ける。じゃあ、これは何だか分かるかい?」
彼女が指差したのは、小さな白い花をつけた薬草だった。
「それは…エルダーフラワーですね。発汗作用や利尿作用があって、風邪のひきはじめやデトックスに良いと聞いています」
「へえ、よく知ってるじゃないか。口先だけじゃなさそうだね」
マーサさんの目つきが、少しだけ和らいだように見えた。
「よし、試しに数日間、ここで働いてみな。日当はほんの僅かしか出せないけど、三食昼寝付き、ってわけにはいかないけど、食事くらいは面倒見てやるよ」
「本当ですか!?」
「ああ。ただし、仕事ができなきゃすぐにクビだからね。覚悟しときな」
相変わらず口調はぶっきらぼうだったけれど、その言葉の端々に、どこか温かさを感じた。
私は、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます、マーサさん! 精一杯、頑張ります!」
こうして、私はマーサさんの薬草店で働くことになった。
仕事は、薬草の仕分けや乾燥、調合の手伝い、店の掃除、そして時には薬の配達も。
貴族令嬢だった頃には考えられないような雑用ばかりだったけれど、私にとってはどれも新鮮で、そして何よりも、自分の力で生きているという実感を与えてくれた。
初めのうちは、慣れない仕事に戸惑うことも多かった。
薬草の名前を間違えたり、調合の分量を間違えそうになったり。
そのたびに、マーサさんからは厳しい叱責が飛んだ。
「エレオノーラ! あんた、またカレンデュラとアルニカを間違えたのかい! 見た目は似てるけど、効能が全然違うんだよ! 患者さんの命に関わることなんだから、もっとしっかりおやり!」
「も、申し訳ありません…!」
それでも、私は決して諦めなかった。
マーサさんの教えを一つ一つ真剣に受け止め、必死に知識と技術を吸収しようと努めた。
夜、宿屋に戻ってからも、昼間教わったことを復習し、薬草の本を借りて読みふけった。
そんな私の努力を、マーサさんは黙って見ていてくれた。
ぶっきらぼうな態度は変わらなかったけれど、時折、彼女の口から褒め言葉が漏れることもあった。
「エレオノーラ、あんた、なかなか筋がいいじゃないか。飲み込みも早いし、何より真面目だ。見た目によらず、根性もあるしね」
「ありがとうございます、マーサさん…!」
初めてマーサさんに褒められた時、私は嬉しくて涙が出そうになった。
この町で、ようやく自分の居場所を見つけられたのかもしれない。
ほんの少しだけれど、未来に希望の光が差してきたような気がした。
薬師の仕事は、思った以上に奥が深く、やりがいのあるものだった。
自分の知識や技術が、誰かの役に立つ。
それは、私にとって大きな喜びだった。
(この町でなら、生きていけるかもしれない…)
そんなささやかな希望を胸に抱き始めた、ある日のこと。
マーサさんから、少し離れた村まで薬を届けるように頼まれた。
いつもより少し遠出になるけれど、一人で行ってこい、と。
「大丈夫かい? 心配なら、わしが…」
「いえ、大丈夫です、マーサさん! もう何度も配達は経験していますから!」
私は、笑顔でそう答えた。
マーサさんからの信頼が、嬉しかったのだ。
そして、この小さな成功体験が、私にほんの少しの自信を与えてくれていた。
しかし、この時の私はまだ知らなかった。
この何気ないお使いが、私の運命を再び大きく揺り動かすことになるなどとは、夢にも思っていなかったのだ。
82
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
婚約破棄?結構ですわ。公爵令嬢は今日も優雅に生きております
鍛高譚
恋愛
婚約破棄された直後、階段から転げ落ちて前世の記憶が蘇った公爵令嬢レイラ・フォン・アーデルハイド。
彼女の前世は、ブラック企業で心身をすり減らして働いていたOLだった。――けれど、今は違う!
「復讐? 見返す? そんな面倒くさいこと、やってられませんわ」
「婚約破棄? そんなの大したことじゃありません。むしろ、自由になって最高ですわ!」
貴族の婚姻は家同士の結びつき――つまりビジネス。恋愛感情など二の次なのだから、破談になったところで何のダメージもなし。
それよりも、レイラにはやりたいことがたくさんある。ぶどう園の品種改良、ワインの販路拡大、新商品の開発、そして優雅なティータイム!
そう、彼女はただ「貴族令嬢としての特権をフル活用して、人生を楽しむ」ことを決めたのだ。
ところが、彼女の自由気ままな行動が、なぜか周囲をざわつかせていく。
婚約破棄した王太子はなぜか複雑な顔をし、貴族たちは彼女の事業に注目し始める。
そして、彼女が手がけた最高級ワインはプレミア化し、ついには王室から直々に取引の申し出が……!?
「はぁ……復讐しないのに、勝手に“ざまぁ”になってしまいましたわ」
復讐も愛憎劇も不要!
ただひたすらに自分の幸せを追求するだけの公爵令嬢が、気づけば最強の貴族になっていた!?
優雅で自由気ままな貴族ライフ、ここに開幕!
お金がありすぎて困っておりますの(悪役令嬢ver.) ~悪役令嬢は噂も相場も支配しますわ~
ふわふわ
恋愛
「お金がありすぎて、困っておりますの」
ヴァレンティス侯爵家当主・シグネアは、若くして膨大な資産と権限を手にした“悪役令嬢”。 しかし彼女は、金にも噂にも振り回されない。
──ならば、支配すればよろしいのですわ。
社交界を飛び交う根拠のない噂。 無能な貴族の見栄と保身。 相場を理解しない者が引き起こす経済混乱。 そして「善意」や「情」に見せかけた、都合のいい救済要求。
シグネアは怒鳴らない。 泣き落としにも応じない。 復讐も、慈善も、選ばない。
彼女がするのはただ一つ。 事実と数字と構造で、価値を測ること。
噂を操り、相場を読まず、裁かず、助けず、 それでもすべてを終わらせる“悪役令嬢”の統治劇。
「助けなかったのではありませんわ」 「助ける必要がなかっただけです」
一撃で終わる教育的指導。 噂も相場も、そして人の価値さえも―― 悪役令嬢は、今日も静かに支配する。
悪役令嬢の私、計画通り追放されました ~無能な婚約者と傾国の未来を捨てて、隣国で大商人になります~
希羽
恋愛
「ええ、喜んで国を去りましょう。――全て、私の計算通りですわ」
才色兼備と謳われた公爵令嬢セラフィーナは、卒業パーティーの場で、婚約者である王子から婚約破棄を突きつけられる。聖女を虐げた「悪役令嬢」として、満座の中で断罪される彼女。
しかし、その顔に悲壮感はない。むしろ、彼女は内心でほくそ笑んでいた――『計画通り』と。
無能な婚約者と、沈みゆく国の未来をとうに見限っていた彼女にとって、自ら悪役の汚名を着て国を追われることこそが、完璧なシナリオだったのだ。
莫大な手切れ金を手に、自由都市で商人『セーラ』として第二の人生を歩み始めた彼女。その類まれなる才覚は、やがて大陸の経済を揺るがすほどの渦を巻き起こしていく。
一方、有能な彼女を失った祖国は坂道を転がるように没落。愚かな元婚約者たちが、彼女の真価に気づき後悔した時、物語は最高のカタルシスを迎える――。
本物聖女の力は無力でした ――見世物レベルの聖女のおかげで婚約破棄されました――**
鷹 綾
恋愛
魔法が存在しないと信じられていた世界に、
突如として現れた「本物の聖女」。
空中浮遊、瞬間移動、念動力――
奇跡を披露した平民の少女は、たちまち市民の熱狂を集め、
王太子はその力に目を奪われる。
その結果、
王太子の婚約者だった公爵令嬢アストリアは、
一方的に婚約を破棄されてしまった。
だが、聖女の力は――
・空中浮遊は、地上三十センチ
・瞬間移動は、秒速一メートル
・念動力は、手で持てる重さまで
派手ではあるが、実用性は乏しい。
聖女の力は、見世物レベル。
少なくとも、誰もがそう判断していた。
それでも人々は喝采し、
権威は少女を縛り、
「聖女」という立場だけが一人歩きしていく。
そんな中、婚約破棄された公爵令嬢アストリアは、
ある違和感に気づき始める。
――奇跡よりも、奪われているものがあることに。
派手な復讐はない。
怒鳴り返しもしない。
けれど静かに、確実に、
“正しさ”は明らかになっていく。
見世物にされた奇跡と、
尊厳を取り戻す少女たちの物語。
---
悪役令嬢、心理学無双で氷の騎士様の心を溶してみせます
希羽
恋愛
公爵令嬢セラフィナは、ある日、自分が前世でハマっていた乙女ゲームの「悪役令嬢」に転生したことを思い出す。目の前に迫るは、皇太子からの婚約破棄と、その先にある破滅の運命。
しかし、彼女は絶望しなかった。むしろ、歓喜に打ち震える。
なぜなら、婚約破棄は、ゲームで最推しだった「氷の騎士団長ケイン」に自由にアプローチできる最高のチャンスだから!
元・心理科学者だった彼女は、その知識を総動員し、推しの心を科学的に攻略するという、前代未聞の壮大な「実験」を開始する。
「単純接触効果」でストーカーと誤解され、「類似性の法則」で付け焼き刃がバレ、「吊り橋効果」は不発に終わる…。数々の実験は空回りするばかり。しかし、その奇妙で予測不能な行動は、鉄壁だったはずの氷の騎士の心を、少しずつ、そして確実に揺さぶり始めていた。
これは、最強の頭脳を持つ悪役令嬢が、恋という名の最大の謎に挑み、自らの手で最高のハッピーエンドを証明する、痛快な逆転ラブコメディ。
悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~
糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」
「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」
第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。
皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する!
規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)
【完結】魔力の見えない公爵令嬢は、王国最強の魔術師でした
er
恋愛
「魔力がない」と婚約破棄された公爵令嬢リーナ。だが真実は逆だった――純粋魔力を持つ規格外の天才魔術師! 王立試験で元婚約者を圧倒し首席合格、宮廷魔術師団長すら降参させる。王宮を救う活躍で副団長に昇進、イケメン公爵様からの求愛も!? 一方、元婚約者は没落し後悔の日々……。見る目のなかった男たちへの完全勝利と、新たな恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる