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第7話:反撃の狼煙と危険な任務
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「――以上が、作戦の骨子だ」
アレクシス様の低い声が、書斎の重厚な空気に響き渡った。
彼の口から語られた計画は、まさに大胆不敵、そして水も漏らさぬほどに緻密なものだった。
それは、単に父を救出するだけに留まらず、リリアナ・ブルームの悪逆非道な陰謀を白日の下に晒し、アーレンスマルク王国の腐敗した現状を根底から覆すことまでを視野に入れた、壮大な計略。
聞いているだけで、私の背筋には緊張が走った。
そして、その計画の中で私に与えられた役割は、彼の言葉通り、非常に重要で、そして…危険を伴うものだった。
アレクシス様の計画は、大きく三段階に分かれていた。
第一段階は、彼が最も信頼する配下数名、そして状況によっては彼自身も、秘密裏にアーレンスマルク王国の王都へと潜入すること。
そこで、ヴァイスハルト侯爵が監禁されている王宮地下牢からの救出ルートを確保し、同時に、王国内にまだ残っているであろう良識派の貴族たちと接触し、内応の約束を取り付ける。
第二段階は、私がアーレンスマルク王国の王都、あるいはその近郊に姿を現し、何らかの形でリリアナ嬢の注意を引きつけること。
彼女の警戒を私自身に向けさせ、その隙に父の救出作戦を実行に移す。
いわば、私は「囮」となるのだ。
そして最終段階。
無事に救出された父と共に、王宮の公式な場、あるいはそれに準ずる場所で、リリアナ嬢の数々の悪事――私や父を陥れたこと、国政を壟断したこと、そして最も重大な、他国と通じアーレンスマルク王国を売り渡そうとしていたスパイ行為の決定的な証拠を突きつける。
エドワード王子の目を覚まさせ、彼女の破滅を決定的なものにする。
「…私が、囮に…」
私は、ゴクリと息を呑んだ。
リリアナ嬢の執念深さと残忍さを考えれば、彼女の前に姿を現すことがどれほど危険なことか、想像に難くない。
捕らえられれば、どんな目に遭わされるか…。
一瞬、恐怖で身体が竦むのを感じた。
けれど、それはほんの一瞬のことだった。
(お父様を助けるためなら…そして、アレクシス様の計画を成功させるためなら…!)
私は、ぎゅっと拳を握りしめた。
もう、以前の私ではない。
守られるだけの、か弱い令嬢ではないのだ。
私には、この人のために、そして自分自身の尊厳を取り戻すために、戦う覚悟がある。
「アレクシス様。その役目、私にお任せください」
私は、迷いのない声で、はっきりと告げた。
アレクシス様は、私の顔をじっと見つめた。
その蒼い瞳の奥に、一瞬だけ、私を案じるような、あるいは試すような光が揺らめいた気がした。
「…本当に、いいのか? リリアナ・ブルームは、お前にとって不倶戴天の敵だ。彼女の前に姿を晒せば、どんな危険が待ち受けているか分からんぞ」
「承知の上です。むしろ、望むところですわ」
私は、不敵な笑みさえ浮かべてみせた。
「あの女には、散々煮え湯を飲まされてきましたから。この手で、彼女の化けの皮を剥ぎ取り、地獄の底へ突き落としてやりたいくらいですもの」
「…ふっ。頼もしいな、エレオノーラ」
アレクシス様の口元に、微かな笑みが浮かんだ。
それは、私の覚悟を認めてくれた証のように思えた。
「だが、決して無茶はするな。お前の身の安全は、私が必ず確保する。私を信じろ」
「はい。アレクシス様を、信じております」
私たちの間に、言葉以上の強い信頼の絆が結ばれた瞬間だった。
その日から、作戦実行に向けての準備が、秘密裏に、しかし迅速に進められていった。
アレクシス様は、彼の右腕ともいえる腹心の騎士団長ライナーや、諜報活動を統括する影の部隊長ゼルギウスといった者たちに、次々と的確な指示を与えていく。
彼らの動きは、まるで精密機械のように正確で、一切の無駄がない。
その手際の良さと統率力に、私は改めてアレクシス様の指導者としての器の大きさを感じずにはいられなかった。
私自身も、自分の役割を果たすための準備を始めた。
リリアナ嬢に怪しまれずに近づき、かつ彼女の注意を効果的に引きつけるための方法。
万が一の事態に備えての護身術の基礎。
そして何よりも、どんな状況に陥っても冷静さを失わないための、精神的な鍛錬。
アレクシス様は、私に専属の武術指南役や、変装の専門家までつけてくれた。
「エレオノーラ、これを」
出発を数日後に控えたある夜、アレクシス様が私の部屋を訪れ、小さな包みを差し出した。
「これは…?」
「お守りだ。シュヴァルツェンベルク家に古くから伝わるもので、持ち主を災いから守ると言われている」
包みを開けると、中には美しい銀細工のブローチが入っていた。
中央には、彼の瞳と同じ、深い蒼色の石が嵌め込まれている。
「アレクシス様…こんなに高価なものを…」
「お前が無事に帰ってくるための、ほんの少しの助けになればいい。必ず、身につけていてくれ」
「…はい。ありがとうございます。大切にいたします」
彼の温かい心遣いが、私の胸にじんわりと染み渡る。
このブローチが、彼と私を繋ぐ証のように感じられた。
そして、運命の日がやってきた。
まず、アレクシス様率いる少数の精鋭部隊が、シュヴァルツェンベルク領を密かに出発した。
彼らは商人や旅芸人の一座などに身をやつし、幾つものグループに分かれて、アーレンスマルク王国の王都を目指す。
「エレオノーラ、必ず迎えに行く。それまで、気を抜くな」
出発の直前、アレクシス様は私の両肩を掴み、真剣な眼差しでそう言った。
「はい。アレクシス様も、どうかご無事で」
「ああ。またすぐに会える」
短い言葉の中に、互いの無事を祈る強い想いが込められていた。
彼の姿が見えなくなるまで見送った後、私もまた、別のルートで王都近郊へと向かう準備を整えた。
私には、アレクシス様が手配してくれた、経験豊富な侍女カタリナと、護衛を兼ねた従者ヨハンが同行してくれることになっている。
「エレオノーラ様、準備が整いました」
カタリナが、落ち着いた声で告げる。
私は、深く息を吸い込み、そして、ゆっくりと吐き出した。
胸には、アレクシス様からもらった蒼い石のブローチが、確かな重みを感じさせている。
(お父様、待っていてください。必ず、助け出します)
(そして、リリアナ・ブルーム…あなたの悪夢は、これから始まるのよ)
心の中で強く呟き、私は新たな戦いの地へと、固い決意を胸に馬車に乗り込んだ。
窓の外には、夜明け前の薄暗い空が広がっている。
これから始まるであろう激しい嵐を予感させるかのように、風が強く吹き始めていた。
数日後、私たちはアーレンスマルク王国の王都まであと半日という距離にある、とある寂れた宿場町に到着した。
ここは、アレクシス様が指定した合流地点の一つ。
彼からの次の指示を待つ間、私たちは息を潜めて潜伏することになる。
宿の一室で、窓から見える王都の方角を眺めながら、私は言いようのない緊張感に包まれていた。
すぐそこに、私を陥れた者たちがいる。
そして、愛する父が囚われている。
私の手は、知らず知らずのうちに、胸元のブローチを握りしめていた。
アレクシス様の蒼い瞳と同じ色の石が、まるで彼自身がそばにいてくれるかのように、私に勇気を与えてくれる。
(大丈夫。私は一人じゃない)
これから始まるであろう、危険な任務。
その先にあるはずの、父との再会と、自らの名誉回復を信じて。
私は、静かに、しかし確かに燃える闘志を胸に、その時を待った。
反撃の狼煙は、もう間も無く上がろうとしていた。
アレクシス様の低い声が、書斎の重厚な空気に響き渡った。
彼の口から語られた計画は、まさに大胆不敵、そして水も漏らさぬほどに緻密なものだった。
それは、単に父を救出するだけに留まらず、リリアナ・ブルームの悪逆非道な陰謀を白日の下に晒し、アーレンスマルク王国の腐敗した現状を根底から覆すことまでを視野に入れた、壮大な計略。
聞いているだけで、私の背筋には緊張が走った。
そして、その計画の中で私に与えられた役割は、彼の言葉通り、非常に重要で、そして…危険を伴うものだった。
アレクシス様の計画は、大きく三段階に分かれていた。
第一段階は、彼が最も信頼する配下数名、そして状況によっては彼自身も、秘密裏にアーレンスマルク王国の王都へと潜入すること。
そこで、ヴァイスハルト侯爵が監禁されている王宮地下牢からの救出ルートを確保し、同時に、王国内にまだ残っているであろう良識派の貴族たちと接触し、内応の約束を取り付ける。
第二段階は、私がアーレンスマルク王国の王都、あるいはその近郊に姿を現し、何らかの形でリリアナ嬢の注意を引きつけること。
彼女の警戒を私自身に向けさせ、その隙に父の救出作戦を実行に移す。
いわば、私は「囮」となるのだ。
そして最終段階。
無事に救出された父と共に、王宮の公式な場、あるいはそれに準ずる場所で、リリアナ嬢の数々の悪事――私や父を陥れたこと、国政を壟断したこと、そして最も重大な、他国と通じアーレンスマルク王国を売り渡そうとしていたスパイ行為の決定的な証拠を突きつける。
エドワード王子の目を覚まさせ、彼女の破滅を決定的なものにする。
「…私が、囮に…」
私は、ゴクリと息を呑んだ。
リリアナ嬢の執念深さと残忍さを考えれば、彼女の前に姿を現すことがどれほど危険なことか、想像に難くない。
捕らえられれば、どんな目に遭わされるか…。
一瞬、恐怖で身体が竦むのを感じた。
けれど、それはほんの一瞬のことだった。
(お父様を助けるためなら…そして、アレクシス様の計画を成功させるためなら…!)
私は、ぎゅっと拳を握りしめた。
もう、以前の私ではない。
守られるだけの、か弱い令嬢ではないのだ。
私には、この人のために、そして自分自身の尊厳を取り戻すために、戦う覚悟がある。
「アレクシス様。その役目、私にお任せください」
私は、迷いのない声で、はっきりと告げた。
アレクシス様は、私の顔をじっと見つめた。
その蒼い瞳の奥に、一瞬だけ、私を案じるような、あるいは試すような光が揺らめいた気がした。
「…本当に、いいのか? リリアナ・ブルームは、お前にとって不倶戴天の敵だ。彼女の前に姿を晒せば、どんな危険が待ち受けているか分からんぞ」
「承知の上です。むしろ、望むところですわ」
私は、不敵な笑みさえ浮かべてみせた。
「あの女には、散々煮え湯を飲まされてきましたから。この手で、彼女の化けの皮を剥ぎ取り、地獄の底へ突き落としてやりたいくらいですもの」
「…ふっ。頼もしいな、エレオノーラ」
アレクシス様の口元に、微かな笑みが浮かんだ。
それは、私の覚悟を認めてくれた証のように思えた。
「だが、決して無茶はするな。お前の身の安全は、私が必ず確保する。私を信じろ」
「はい。アレクシス様を、信じております」
私たちの間に、言葉以上の強い信頼の絆が結ばれた瞬間だった。
その日から、作戦実行に向けての準備が、秘密裏に、しかし迅速に進められていった。
アレクシス様は、彼の右腕ともいえる腹心の騎士団長ライナーや、諜報活動を統括する影の部隊長ゼルギウスといった者たちに、次々と的確な指示を与えていく。
彼らの動きは、まるで精密機械のように正確で、一切の無駄がない。
その手際の良さと統率力に、私は改めてアレクシス様の指導者としての器の大きさを感じずにはいられなかった。
私自身も、自分の役割を果たすための準備を始めた。
リリアナ嬢に怪しまれずに近づき、かつ彼女の注意を効果的に引きつけるための方法。
万が一の事態に備えての護身術の基礎。
そして何よりも、どんな状況に陥っても冷静さを失わないための、精神的な鍛錬。
アレクシス様は、私に専属の武術指南役や、変装の専門家までつけてくれた。
「エレオノーラ、これを」
出発を数日後に控えたある夜、アレクシス様が私の部屋を訪れ、小さな包みを差し出した。
「これは…?」
「お守りだ。シュヴァルツェンベルク家に古くから伝わるもので、持ち主を災いから守ると言われている」
包みを開けると、中には美しい銀細工のブローチが入っていた。
中央には、彼の瞳と同じ、深い蒼色の石が嵌め込まれている。
「アレクシス様…こんなに高価なものを…」
「お前が無事に帰ってくるための、ほんの少しの助けになればいい。必ず、身につけていてくれ」
「…はい。ありがとうございます。大切にいたします」
彼の温かい心遣いが、私の胸にじんわりと染み渡る。
このブローチが、彼と私を繋ぐ証のように感じられた。
そして、運命の日がやってきた。
まず、アレクシス様率いる少数の精鋭部隊が、シュヴァルツェンベルク領を密かに出発した。
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「ああ。またすぐに会える」
短い言葉の中に、互いの無事を祈る強い想いが込められていた。
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私には、アレクシス様が手配してくれた、経験豊富な侍女カタリナと、護衛を兼ねた従者ヨハンが同行してくれることになっている。
「エレオノーラ様、準備が整いました」
カタリナが、落ち着いた声で告げる。
私は、深く息を吸い込み、そして、ゆっくりと吐き出した。
胸には、アレクシス様からもらった蒼い石のブローチが、確かな重みを感じさせている。
(お父様、待っていてください。必ず、助け出します)
(そして、リリアナ・ブルーム…あなたの悪夢は、これから始まるのよ)
心の中で強く呟き、私は新たな戦いの地へと、固い決意を胸に馬車に乗り込んだ。
窓の外には、夜明け前の薄暗い空が広がっている。
これから始まるであろう激しい嵐を予感させるかのように、風が強く吹き始めていた。
数日後、私たちはアーレンスマルク王国の王都まであと半日という距離にある、とある寂れた宿場町に到着した。
ここは、アレクシス様が指定した合流地点の一つ。
彼からの次の指示を待つ間、私たちは息を潜めて潜伏することになる。
宿の一室で、窓から見える王都の方角を眺めながら、私は言いようのない緊張感に包まれていた。
すぐそこに、私を陥れた者たちがいる。
そして、愛する父が囚われている。
私の手は、知らず知らずのうちに、胸元のブローチを握りしめていた。
アレクシス様の蒼い瞳と同じ色の石が、まるで彼自身がそばにいてくれるかのように、私に勇気を与えてくれる。
(大丈夫。私は一人じゃない)
これから始まるであろう、危険な任務。
その先にあるはずの、父との再会と、自らの名誉回復を信じて。
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