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第19話:旅立ちと最初の試練
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夜明けの、柔らかな光が、東の空を、白ませ始めた頃。
ヴァレンシュタイン公爵邸の、正面玄関には、すでに、出発の準備を、整えた一行が、集まっていた。
私と、クロード様が乗る、頑丈な、作りの馬車。
その、前後を固める、選りすぐりの、護衛騎士たち。
そして、見送りのために、集まってくれた、マーサさんや、セバスチャンを、はじめとする、屋敷の、使用人たち。
「エリアーナ様、どうか、ご無事で……」
マーサさんが、涙ぐみながら、私の手を、握る。
「はい。必ず、戻ってきます」
クロード様は、騎士団長に、留守中のことを、簡潔に、指示していた。
その姿は、もう、昨夜の、甘い雰囲気の、彼ではない。
全てを、統べる、ヴァレンシュタイン公爵の、厳しい顔に、戻っていた。
けれど、時折、私に向けられる、その視線には、確かな、愛情が、宿っている。
「行くぞ」
彼の、短い号令と共に、私たちは、馬車に、乗り込んだ。
重い、扉が閉まり、外の喧騒が、少しだけ、遠くなる。
ガタン、と大きな音を立てて、馬車が、動き出した。
窓の外で、屋敷の人々が、深々と、頭を、下げているのが見えた。
だんだんと、小さくなっていく、公爵邸。
私が、本当の居場所を、見つけた、大切な、大切な、場所。
「……必ず、帰ってこよう」
隣に座る、クロード様が、私の手を、強く、握った。
「はい」
王都の門を抜け、街道へと、入る。
旅は、順調に、始まった、かに思えた。
馬車の中は、二人きりの、空間。
護衛がいるとはいえ、昨夜、お互いの気持ちを、確かめ合った、私たちにとっては、少し、気恥ずかしいような、甘い空気が、流れていた。
「……疲れていないか」
「大丈夫です」
他愛もない会話を、交わしながらも、触れ合う肩や、絡めた指先から、お互いの温もりが、伝わってくる。
このまま、何事もなく、旅が、続けばいいのに。
そんな、私の、淡い期待は、出発して、三日目の昼下がり、あっけなく、打ち砕かれることになった。
鬱蒼とした、薄暗い、森の中を、進んでいた、その時だった。
ヒュンッ!
鋭い、風切り音と、共に、一本の、黒い矢が、馬車の窓を、掠めて、内壁に、深く、突き刺さった。
「……っ! 敵襲だ!」
外から、護衛騎士の、緊迫した声が、響く。
その声と、同時に、馬車が、急停止した。
「エリアーナ、俺のそばから、離れるな!」
クロード様は、瞬時に、臨戦態勢に入り、腰の剣に、手をかける。
その、優しい光を宿していた、銀色の瞳は、冷徹な、戦士のものへと、完全に、切り替わっていた。
馬車の外からは、剣と、剣が、ぶつかり合う、甲高い、金属音と、怒号が、聞こえてくる。
数は、かなり、多いようだ。
「クロード様、外の様子は……」
「……ただの、追い剥ぎではないな。統率が、取れている。プロの、傭兵か、あるいは……」
彼の言葉の先は、聞かなくても、分かった。
アルフォンス殿下か、リリアナが、差し向けた、刺客。
その時、馬車の扉が、外から、乱暴に、こじ開けられた。
そこに、立っていたのは、全身を、黒装束で包んだ、屈強な男たちだった。
その、濁った目は、明らかに、私を、捉えている。
「見つけたぞ、『聖女様』の、おなりだ」
下卑た笑みを、浮かべる、リーダー格の男。
やはり、狙いは、私。
そして、『聖女』という、言葉。
私の力が、すでに、彼らに、知られている。
「……下衆が。その汚い手を、エリアーナに、触れさせて、なるものか」
クロード様が、地を這うような、低い声で、言い放ち、私を、背中にかばうようにして、馬車から、降り立った。
私も、彼の後に、続く。
震える足に、力を込めて。
もう、守られているだけの、私じゃない。
森の中には、すでに、十数人の、黒装束の男たちが、護衛騎士たちを、取り囲んでいた。
状況は、明らかに、こちらが、不利だ。
「女を、差し出せば、命だけは、助けてやろう、公爵」
「戯言を」
クロード様は、剣を構え、一瞬で、目の前の敵を、二人、斬り伏せた。
その剣技は、あまりにも、速く、そして、美しく、残酷だ。
まさに、英雄。
しかし、敵の数は、減らない。
次から、次へと、森の奥から、増援が、現れる。
これは、罠だ。
私たちは、完全に、この森で、包囲されていた。
「エリアーナ! 下がっていろ!」
クロード様が、叫ぶ。
けれど、私は、動かなかった。
目の前で、護衛の騎士の一人が、敵の刃に、肩を、深く、斬りつけられた。
鮮血が、紅い、花のように、舞う。
「……っ!」
助けなきゃ。
彼の、命を、救わなければ。
私は、覚悟を決め、両手を、前に、突き出した。
胸の奥の、温かい光に、意識を、集中させる。
『みんなを、守る、光よ!』
その、強い願いに、応えるように、私の手のひらから、黄金の、力強い光が、溢れ出した。
ヴァレンシュタイン公爵邸の、正面玄関には、すでに、出発の準備を、整えた一行が、集まっていた。
私と、クロード様が乗る、頑丈な、作りの馬車。
その、前後を固める、選りすぐりの、護衛騎士たち。
そして、見送りのために、集まってくれた、マーサさんや、セバスチャンを、はじめとする、屋敷の、使用人たち。
「エリアーナ様、どうか、ご無事で……」
マーサさんが、涙ぐみながら、私の手を、握る。
「はい。必ず、戻ってきます」
クロード様は、騎士団長に、留守中のことを、簡潔に、指示していた。
その姿は、もう、昨夜の、甘い雰囲気の、彼ではない。
全てを、統べる、ヴァレンシュタイン公爵の、厳しい顔に、戻っていた。
けれど、時折、私に向けられる、その視線には、確かな、愛情が、宿っている。
「行くぞ」
彼の、短い号令と共に、私たちは、馬車に、乗り込んだ。
重い、扉が閉まり、外の喧騒が、少しだけ、遠くなる。
ガタン、と大きな音を立てて、馬車が、動き出した。
窓の外で、屋敷の人々が、深々と、頭を、下げているのが見えた。
だんだんと、小さくなっていく、公爵邸。
私が、本当の居場所を、見つけた、大切な、大切な、場所。
「……必ず、帰ってこよう」
隣に座る、クロード様が、私の手を、強く、握った。
「はい」
王都の門を抜け、街道へと、入る。
旅は、順調に、始まった、かに思えた。
馬車の中は、二人きりの、空間。
護衛がいるとはいえ、昨夜、お互いの気持ちを、確かめ合った、私たちにとっては、少し、気恥ずかしいような、甘い空気が、流れていた。
「……疲れていないか」
「大丈夫です」
他愛もない会話を、交わしながらも、触れ合う肩や、絡めた指先から、お互いの温もりが、伝わってくる。
このまま、何事もなく、旅が、続けばいいのに。
そんな、私の、淡い期待は、出発して、三日目の昼下がり、あっけなく、打ち砕かれることになった。
鬱蒼とした、薄暗い、森の中を、進んでいた、その時だった。
ヒュンッ!
鋭い、風切り音と、共に、一本の、黒い矢が、馬車の窓を、掠めて、内壁に、深く、突き刺さった。
「……っ! 敵襲だ!」
外から、護衛騎士の、緊迫した声が、響く。
その声と、同時に、馬車が、急停止した。
「エリアーナ、俺のそばから、離れるな!」
クロード様は、瞬時に、臨戦態勢に入り、腰の剣に、手をかける。
その、優しい光を宿していた、銀色の瞳は、冷徹な、戦士のものへと、完全に、切り替わっていた。
馬車の外からは、剣と、剣が、ぶつかり合う、甲高い、金属音と、怒号が、聞こえてくる。
数は、かなり、多いようだ。
「クロード様、外の様子は……」
「……ただの、追い剥ぎではないな。統率が、取れている。プロの、傭兵か、あるいは……」
彼の言葉の先は、聞かなくても、分かった。
アルフォンス殿下か、リリアナが、差し向けた、刺客。
その時、馬車の扉が、外から、乱暴に、こじ開けられた。
そこに、立っていたのは、全身を、黒装束で包んだ、屈強な男たちだった。
その、濁った目は、明らかに、私を、捉えている。
「見つけたぞ、『聖女様』の、おなりだ」
下卑た笑みを、浮かべる、リーダー格の男。
やはり、狙いは、私。
そして、『聖女』という、言葉。
私の力が、すでに、彼らに、知られている。
「……下衆が。その汚い手を、エリアーナに、触れさせて、なるものか」
クロード様が、地を這うような、低い声で、言い放ち、私を、背中にかばうようにして、馬車から、降り立った。
私も、彼の後に、続く。
震える足に、力を込めて。
もう、守られているだけの、私じゃない。
森の中には、すでに、十数人の、黒装束の男たちが、護衛騎士たちを、取り囲んでいた。
状況は、明らかに、こちらが、不利だ。
「女を、差し出せば、命だけは、助けてやろう、公爵」
「戯言を」
クロード様は、剣を構え、一瞬で、目の前の敵を、二人、斬り伏せた。
その剣技は、あまりにも、速く、そして、美しく、残酷だ。
まさに、英雄。
しかし、敵の数は、減らない。
次から、次へと、森の奥から、増援が、現れる。
これは、罠だ。
私たちは、完全に、この森で、包囲されていた。
「エリアーナ! 下がっていろ!」
クロード様が、叫ぶ。
けれど、私は、動かなかった。
目の前で、護衛の騎士の一人が、敵の刃に、肩を、深く、斬りつけられた。
鮮血が、紅い、花のように、舞う。
「……っ!」
助けなきゃ。
彼の、命を、救わなければ。
私は、覚悟を決め、両手を、前に、突き出した。
胸の奥の、温かい光に、意識を、集中させる。
『みんなを、守る、光よ!』
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