氷の騎士と陽だまりの薬師令嬢 ~呪われた最強騎士様を、没落貴族の私がこっそり全力で癒します!~

放浪人

文字の大きさ
5 / 25

第五話:初めての嫉妬と芽生える決意

しおりを挟む
王都での噂やイザベラ様の視線が、わたくしの心に小さな影を落としていた。
アレクシス様との穏やかな日々は続いているけれど、ふとした瞬間に不安が胸をよぎる。

そんなある日、アレクシス様の元に、騎士団からの使者が訪れた。
使者は、アレクシス様の信頼する部下である若い騎士、カイン殿だった。

「副団長、お加減はいかがですか」
「ああ、カインか。変わりない。それより、団の方はどうだ?」

アレクシス様とカイン殿は、書斎で何やら話し込んでいる。
わたくしは邪魔にならないように、そっと薬草茶を運んだ。

「失礼いたします。アレクシス様、カイン殿、お茶をどうぞ」
「おお、リリア殿、いつもすまないな」

カイン殿は、にこやかにわたくしに礼を言った。
彼はアレクシス様のことを心から尊敬しているようで、その眼差しは真っ直ぐだ。

アレクシス様は、カイン殿と話している時、普段よりも少しだけ表情が和らぐように見えた。
それは、心を許せる相手に見せる、特別な顔なのかもしれない。

(わたくしには、見せない顔……)

そう思った瞬間、胸の奥がきゅっと締め付けられるような感覚に襲われた。
これは……嫉妬、なのだろうか。

アレクシス様の特別な存在になりたい。
けれど、わたくしにはその資格がない。
そんな思いが交錯し、苦しくなる。

カイン殿が帰った後、アレクシス様はどこか疲れた様子でため息をついた。

「王都では、色々な憶測が飛び交っているようだ」
「……そう、なのですか?」

わたくしが恐る恐る尋ねると、アレクシス様は静かに頷いた。

「俺が任務を離れている理由について、よからぬ噂を流す者もいるらしい。……まあ、いつものことだが」

彼の言葉には、諦めと、ほんの少しの苛立ちが滲んでいるように聞こえた。
きっと、彼の立場は常に多くの目に晒され、様々な思惑の中で揺れ動いているのだろう。

「アレクシス様……」

わたくしは、何か言葉をかけようとしたけれど、適切な言葉が見つからなかった。
ただ、彼の隣に寄り添い、その手をそっと握ることしかできなかった。

アレクシス様は、驚いたようにわたくしを見た。
そして、わたくしの手を弱々しく握り返し、ぽつりと言った。

「……リリア殿。お前がいると、心が安らぐ」

その言葉は、まるで魔法のように、わたくしの心の中の不安を溶かしていく。
彼の温もりが、握られた手を通して伝わってくる。

ああ、やっぱり、わたくしはこの人が好きだ。

どんな困難があっても、この人の力になりたい。
この人の笑顔を、守りたい。

その想いが、胸の奥から強く湧き上がってきた。

「アレクシス様。わたくしは、薬師として、あなた様のお力になりたいと心から願っております。わたくしにできることなら、何でもいたしますわ」

それは、わたくしの偽らざる気持ちだった。
身分違いの恋だとしても、この想いを諦めたくない。

アレクシス様は、わたくしの言葉をじっと聞いていた。
そして、力強い眼差しでわたくしを見つめ、言った。

「……ありがとう、リリア。その言葉だけで、十分だ」

彼は初めて、わたくしのことを「リリア」と、名前だけで呼んだ。
その響きが、わたくしの心に甘く、そして切なく響いた。

この時、わたくしは密かに決意した。
アレクシス様の古傷の呪いを解く方法を、必ず見つけ出す、と。
それが、わたくしにできる、彼への最大の貢献のはずだから。

たとえそれが、どんなに困難な道だとしても。
わたくしは、もう迷わない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~

白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…? 全7話です。

過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。

黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。 明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。 そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。 ………何でこんな事になったっけ?

婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました

有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。 魔力が弱い私には、価値がないという現実。 泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。 そこで目覚めた彼は、私を見て言った。 「やっと見つけた。私の番よ」 彼の前でだけ、私の魔力は輝く。 奪われた尊厳、歪められた運命。 すべてを取り戻した先にあるのは……

薬師の能力を買われた嫁ぎ先は闇の仕事を請け負う一族でした

あねもね
恋愛
薬師として働くエリーゼ・バリエンホルムは貴族の娘。 しかし両親が亡くなって以降、叔父に家を追い出されていた。エリーゼは自分の生活と弟の学費を稼ぐために頑張っていたが、店の立ち退きを迫られる事態となる。同時期に、好意を寄せていたシメオン・ラウル・アランブール伯爵からプロポーズを申し込まれていたものの、その申し出を受けず、娼館に足を踏み入れることにした。 エリーゼが娼館にいることを知ったシメオンは、エリーゼを大金で身請けして屋敷に連れ帰る。けれどそこは闇の仕事を請け負う一族で、シメオンはエリーゼに毒薬作りを命じた。 薬師としての矜持を踏みにじられ、一度は泣き崩れたエリーゼだったが……。 ――私は私の信念で戦う。決して誰にも屈しない。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

【完結】元強面騎士団長様は可愛いものがお好き〜虐げられた元聖女は、お腹と心が満たされて幸せになる〜

水都 ミナト
恋愛
女神の祝福を受けた聖女が尊ばれるサミュリア王国で、癒しの力を失った『元』聖女のミラベル。 『現』聖女である実妹のトロメアをはじめとして、家族から冷遇されて生きてきた。 すっかり痩せ細り、空腹が常となったミラベルは、ある日とうとう国外追放されてしまう。 隣国で力尽き果て倒れた時、助けてくれたのは――フリルとハートがたくさんついたラブリーピンクなエプロンをつけた筋骨隆々の男性!? そんな元強面騎士団長のアインスロッドは、魔物の呪い蝕まれ余命一年だという。残りの人生を大好きな可愛いものと甘いものに捧げるのだと言うアインスロッドに救われたミラベルは、彼の夢の手伝いをすることとなる。 認めとくれる人、温かい居場所を見つけたミラベルは、お腹も心も幸せに満ちていく。 そんなミラベルが飾り付けをしたお菓子を食べた常連客たちが、こぞってとあることを口にするようになる。 「『アインスロッド洋菓子店』のお菓子を食べるようになってから、すこぶる体調がいい」と。 一方その頃、ミラベルを追いやった実妹のトロメアからは、女神の力が失われつつあった。 ◇全15話、5万字弱のお話です ◇他サイトにも掲載予定です

処理中です...