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第四話:王都の噂と小さな波紋
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アレクシス様との秘密の療養生活は、穏やかに続いていた。
彼の古傷の痛みは、わたくしの治癒魔法と薬草によって、以前よりもずっとコントロールできるようになってきているようだった。
「リリア殿の薬は、本当に不思議だな。飲むと、体の芯から温まるような気がする」
ある日、アレクシス様が薬湯を飲みながら、しみじみとそう言った。
「わたくしの薬草の知識は、お父様から受け継いだものですから。特別なものではございませんわ」
「謙遜するな。お前の薬師としての才能は、本物だ」
アレクシス様の真っ直ぐな言葉に、頬が熱くなるのを感じる。
彼の言葉は、いつもわたくしに自信を与えてくれる。
そんな穏やかな日々が続く中、わたくしは薬草の補充のために、久しぶりに王都の薬師ギルドへ足を運んだ。
「あら、リリアじゃない。久しぶりね」
ギルドの受付で声をかけてきたのは、顔なじみの先輩薬師、アンナさんだった。
彼女は明るく気さくな女性で、わたくしにもいつも親切にしてくれる。
「アンナさん、ご無沙汰しております」
「最近見かけないから、どうしたのかと思ってたのよ。……あら? なんだか、雰囲気変わったんじゃない?」
アンナさんが、興味深そうにわたくしの顔を覗き込む。
「そ、そうですか?」
「うん、なんだか……綺麗になったっていうか。いいことでもあった?」
アンナさんの言葉に、どきりとする。
まさか、アレクシス様とのことを察しているわけでは……。
「い、いえ、別に何も……」
慌てて否定すると、アンナさんは悪戯っぽく笑った。
「ふーん? ま、何かあったら相談に乗るわよ」
そんな会話を交わしながら薬草を選んでいると、ギルドの隅で他の薬師たちがひそひそと噂話をしているのが聞こえてきた。
「……聞いた? 騎士団のアレクシス副団長様のこと」
「ああ、あの『氷の騎士』様でしょう? なんでも、最近お姿を見かけないとか……」
「重い病に倒れられたっていう噂もあるわよ」
「まあ、大変! あの若さで……」
その言葉に、わたくしの心臓が冷たくなるのを感じた。
アレクシス様のことは、騎士団内でも極秘にされているはず。それなのに、どこからか噂が漏れているのだろうか。
(もし、アレクシス様の古傷のことが知られたら……彼の立場が危うくなるかもしれない)
貴族社会や騎士団の内部事情には疎いわたくしでも、それくらいのことは想像がついた。
アレクシス様の強さは、王国にとって不可欠なもの。しかし、弱みを抱えていると知られれば、それを快く思わない者たちもいるだろう。
不安を抱えたままギルドを後にし、家路についた。
道すがら、ふと視線を感じて顔を上げると、道の向こうから高貴な身なりをした若い女性が、数人の侍女を連れてこちらに向かってくるのが見えた。
(あの方は……確か、侯爵令嬢のイザベラ様……?)
イザベラ様は、アレクシス様の婚約者候補として名前が挙がっていると、以前ギルドの噂話で聞いたことがあった。
彼女はわたくしを一瞥すると、鼻で笑うかのようにフンと顔を背け、通り過ぎていった。その瞳には、明らかな侮蔑の色が浮かんでいた。
胸が、ちくりと痛む。
没落貴族の娘であるわたくしと、華やかな侯爵令嬢。
その差は歴然としている。
アレクシス様との関係が知られれば、きっと良からぬ噂が広まるだろう。
それは、彼にとっても、わたくしにとっても、決して良いことではない。
(わたくしは、アレクシス様にご迷惑をおかけしているだけなのかもしれない……)
そんな弱気な考えが、頭をもたげてくる。
アレクシス様への想いが深まるほどに、この関係の危うさが、重くのしかかってくるのだった。
家に帰り着くと、アレクシス様が心配そうな顔でわたくしを迎えてくれた。
「遅かったな、リリア殿。何かあったのか?」
「……いいえ、何も。ただ、少し考え事をしていただけですわ」
彼の前では笑顔でいたかったけれど、心の中の不安はなかなか消えてくれなかった。
彼の古傷の痛みは、わたくしの治癒魔法と薬草によって、以前よりもずっとコントロールできるようになってきているようだった。
「リリア殿の薬は、本当に不思議だな。飲むと、体の芯から温まるような気がする」
ある日、アレクシス様が薬湯を飲みながら、しみじみとそう言った。
「わたくしの薬草の知識は、お父様から受け継いだものですから。特別なものではございませんわ」
「謙遜するな。お前の薬師としての才能は、本物だ」
アレクシス様の真っ直ぐな言葉に、頬が熱くなるのを感じる。
彼の言葉は、いつもわたくしに自信を与えてくれる。
そんな穏やかな日々が続く中、わたくしは薬草の補充のために、久しぶりに王都の薬師ギルドへ足を運んだ。
「あら、リリアじゃない。久しぶりね」
ギルドの受付で声をかけてきたのは、顔なじみの先輩薬師、アンナさんだった。
彼女は明るく気さくな女性で、わたくしにもいつも親切にしてくれる。
「アンナさん、ご無沙汰しております」
「最近見かけないから、どうしたのかと思ってたのよ。……あら? なんだか、雰囲気変わったんじゃない?」
アンナさんが、興味深そうにわたくしの顔を覗き込む。
「そ、そうですか?」
「うん、なんだか……綺麗になったっていうか。いいことでもあった?」
アンナさんの言葉に、どきりとする。
まさか、アレクシス様とのことを察しているわけでは……。
「い、いえ、別に何も……」
慌てて否定すると、アンナさんは悪戯っぽく笑った。
「ふーん? ま、何かあったら相談に乗るわよ」
そんな会話を交わしながら薬草を選んでいると、ギルドの隅で他の薬師たちがひそひそと噂話をしているのが聞こえてきた。
「……聞いた? 騎士団のアレクシス副団長様のこと」
「ああ、あの『氷の騎士』様でしょう? なんでも、最近お姿を見かけないとか……」
「重い病に倒れられたっていう噂もあるわよ」
「まあ、大変! あの若さで……」
その言葉に、わたくしの心臓が冷たくなるのを感じた。
アレクシス様のことは、騎士団内でも極秘にされているはず。それなのに、どこからか噂が漏れているのだろうか。
(もし、アレクシス様の古傷のことが知られたら……彼の立場が危うくなるかもしれない)
貴族社会や騎士団の内部事情には疎いわたくしでも、それくらいのことは想像がついた。
アレクシス様の強さは、王国にとって不可欠なもの。しかし、弱みを抱えていると知られれば、それを快く思わない者たちもいるだろう。
不安を抱えたままギルドを後にし、家路についた。
道すがら、ふと視線を感じて顔を上げると、道の向こうから高貴な身なりをした若い女性が、数人の侍女を連れてこちらに向かってくるのが見えた。
(あの方は……確か、侯爵令嬢のイザベラ様……?)
イザベラ様は、アレクシス様の婚約者候補として名前が挙がっていると、以前ギルドの噂話で聞いたことがあった。
彼女はわたくしを一瞥すると、鼻で笑うかのようにフンと顔を背け、通り過ぎていった。その瞳には、明らかな侮蔑の色が浮かんでいた。
胸が、ちくりと痛む。
没落貴族の娘であるわたくしと、華やかな侯爵令嬢。
その差は歴然としている。
アレクシス様との関係が知られれば、きっと良からぬ噂が広まるだろう。
それは、彼にとっても、わたくしにとっても、決して良いことではない。
(わたくしは、アレクシス様にご迷惑をおかけしているだけなのかもしれない……)
そんな弱気な考えが、頭をもたげてくる。
アレクシス様への想いが深まるほどに、この関係の危うさが、重くのしかかってくるのだった。
家に帰り着くと、アレクシス様が心配そうな顔でわたくしを迎えてくれた。
「遅かったな、リリア殿。何かあったのか?」
「……いいえ、何も。ただ、少し考え事をしていただけですわ」
彼の前では笑顔でいたかったけれど、心の中の不安はなかなか消えてくれなかった。
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