氷の騎士と陽だまりの薬師令嬢 ~呪われた最強騎士様を、没落貴族の私がこっそり全力で癒します!~

放浪人

文字の大きさ
3 / 25

第三話:秘密の共有と深まる絆

しおりを挟む
アレクシス様がわたくしの家で療養を始めてから、数日が過ぎた。
彼の傷は順調に回復に向かっているように見えたけれど、時折、ひどく消耗した様子で顔を顰めることがあった。

「アレクシス様、また痛むのですか?」

ある日の午後、薬草を調合しているわたくしに、彼が苦しげな息を漏らした。
駆け寄ると、アレクシス様は額に汗を滲ませ、胸元を強く押さえている。

「……ああ。古傷が、な」

そう言って、彼は無理に笑ってみせようとしたけれど、その顔色は明らかに悪かった。
わたくしは彼の傍らに座り、そっとその手に自分の手を重ねる。

「わたくしに、できることはありますか?」

アレクシス様は、驚いたようにわたくしを見た。
そして、しばしの逡巡の後、重い口を開いた。

「……これは、ただの傷ではないのだ」
「え……?」

彼の言葉に、わたくしは息を呑む。

「数年前、北の魔獣との戦いで受けた呪いのようなものだ。普段は鳴りを潜めているが、時折こうして……激痛と共に、力を奪っていく」

衝撃的な告白だった。
「氷の騎士」とまで呼ばれる彼が、そんな苦しみを抱えていたなんて。

「騎士団の薬師や、高名な治癒師にも診てもらった。だが、誰もこの痛みを完全に消し去ることはできなかった。……お前の、あの光だけが、一時的にだが、この苦痛を和らげてくれる」

アレクシス様の声は、どこか諦観を帯びていた。
その孤独な瞳を見ていると、胸が締め付けられるように痛んだ。

「アレクシス様……」

わたくしは、重ねた手にそっと力を込めた。
そして、もう片方の手で、彼の胸元に優しく触れる。

「わたくしの力は、本当にささやかなものです。でも……もし、アレクシス様のお辛さを少しでも和らげることができるのなら、喜んでお力になりますわ」

目を閉じ、意識を集中させる。
手のひらから、温かな光が溢れ出し、アレクシス様の体を包み込んでいく。
それは、まるで陽だまりのような、優しい光。

アレクシス様の強張っていた体が、少しずつ弛緩していくのが分かった。
苦しげだった呼吸も、次第に穏やかになっていく。

しばらくして、わたくしが目を開けると、アレクシス様は静かな眼差しでわたくしを見つめていた。
その瞳には、以前のような警戒心はなく、どこか安堵したような色が浮かんでいる。

「……ありがとう、リリア殿」

彼の口から紡がれた感謝の言葉は、わたくしの心に深く染み渡った。

「いいえ。わたくしは、ただ……」
「お前は、いつもそう言うな」

アレクシス様が、ふっと微かに笑った。
それは、本当に僅かな笑みだったけれど、彼の印象をがらりと変えるほど、優しいものだった。

どくん、と心臓が大きく跳ねる。

その笑顔に、わたくしは顔が熱くなるのを感じた。
慌てて視線を逸らすと、アレクシス様が静かに言った。

「このことは……騎士団の者にも、ほとんど話していない。お前だけだ、リリア殿」
「……!」

その言葉の意味を理解し、わたくしは彼を見上げた。
秘密の共有。それは、二人の間に特別な絆が生まれた証のように感じられた。

「わたくし、決して誰にも申しませんわ」
「ああ、信じている」

アレクシス様の言葉は、力強かった。
その信頼が、わたくしには何よりも嬉しかった。

それから、わたくしたちは、より多くの時間を共に過ごすようになった。
アレクシス様は、少しずつだが、彼自身のことを話してくれるようになった。騎士としての誇り、部下への想い、そして、彼が背負うものの重さ。

わたくしもまた、自分のことを話した。
没落したとはいえ、貴族の娘としての矜持。薬師としての夢。そして、家族への想い。

言葉を交わすたびに、心の距離が縮まっていくのを感じた。
アレクシス様のぶっきらぼうな言葉の裏にある優しさや、時折見せる少年のような一面。その全てが、わたくしにとって愛おしいものに変わっていった。

この感情は、もう隠せない。
わたくしは、アレクシス様に恋をしているのだと、はっきりと自覚した。

けれど、同時に不安も募る。
彼は王国騎士団の副団長。わたくしは、しがない薬師の卵。
この身分違いの恋が、許されるはずがない。

そんな思いが胸をよぎり、ふとした瞬間に切なさが込み上げてくるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。

黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。 明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。 そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。 ………何でこんな事になったっけ?

冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~

白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…? 全7話です。

婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました

有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。 魔力が弱い私には、価値がないという現実。 泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。 そこで目覚めた彼は、私を見て言った。 「やっと見つけた。私の番よ」 彼の前でだけ、私の魔力は輝く。 奪われた尊厳、歪められた運命。 すべてを取り戻した先にあるのは……

薬師の能力を買われた嫁ぎ先は闇の仕事を請け負う一族でした

あねもね
恋愛
薬師として働くエリーゼ・バリエンホルムは貴族の娘。 しかし両親が亡くなって以降、叔父に家を追い出されていた。エリーゼは自分の生活と弟の学費を稼ぐために頑張っていたが、店の立ち退きを迫られる事態となる。同時期に、好意を寄せていたシメオン・ラウル・アランブール伯爵からプロポーズを申し込まれていたものの、その申し出を受けず、娼館に足を踏み入れることにした。 エリーゼが娼館にいることを知ったシメオンは、エリーゼを大金で身請けして屋敷に連れ帰る。けれどそこは闇の仕事を請け負う一族で、シメオンはエリーゼに毒薬作りを命じた。 薬師としての矜持を踏みにじられ、一度は泣き崩れたエリーゼだったが……。 ――私は私の信念で戦う。決して誰にも屈しない。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

処理中です...