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第六話:市場の喧騒と新たな出会い
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アレクシス様の古傷の呪いを解く手がかりを求めて、わたくしは王都の市場へと足を運んだ。
普段は薬草の仕入れで訪れる程度だけれど、今日は少し違う目的がある。
(古い書物や、珍しい薬草を扱っている店があれば……何か情報が得られるかもしれない)
そんな期待を胸に、活気あふれる市場の喧騒の中へと足を踏み入れる。
色とりどりの露店が軒を連ね、様々な品物が並べられている。香辛料の匂い、焼き菓子の甘い香り、そして人々の賑やかな声。
アレクシス様との静かな生活に慣れていたせいか、この喧騒が少しだけ眩しく感じられた。
「お嬢さん、見ていかないかい? 珍しい薬草が入ったよ!」
威勢の良い声に呼び止められ、足を止める。
そこは、様々な種類の乾燥薬草や鉱石、そして古びた羊皮紙の巻物などが雑多に並べられた、少し怪しげな雰囲気の店だった。
「こんにちは。何か、治癒に関する古い文献や、特殊な薬草はありますでしょうか?」
わたくしが尋ねると、店の主らしい恰幅の良い初老の男性が、にやりと笑った。
「ほう、治癒ねぇ。お嬢さん、薬師さんかい?」
「はい、まだ見習いですけれど」
「そうかいそうかい。それなら、とっておきのがあるぜ」
そう言って、店の奥から埃をかぶった一冊の分厚い本を取り出してきた。
表紙は擦り切れ、文字も掠れて読みにくい。けれど、そこには確かに「古代治癒術集成」と記されていた。
「これは……!」
思わず息を呑む。
こんな貴重なものが、こんな市場の片隅にあるなんて。
「どうだい、お嬢さん。こいつは曰く付きでね。古代魔法に関する記述もあって、普通の薬師じゃ扱いきれねぇ代物だが……お嬢さんなら、あるいは」
店主の言葉に、期待と不安が入り混じる。
値段を尋ねると、やはりかなりの高額だった。今のわたくしには、到底手の出せる金額ではない。
(どうしよう……でも、諦めたくない)
わたくしが悩んでいると、不意に横から声がかかった。
「おや、リリア嬢じゃないか。奇遇だな」
振り返ると、そこには優しげな笑みを浮かべた若い男性が立っていた。
柔らかな栗色の髪に、穏やかな青い瞳。貴族らしい上質な衣服を身に着けている。
「えっと……失礼ですが、どちら様で……?」
わたくしが戸惑っていると、男性はくすりと笑った。
「ああ、これは失礼。私はセドリック・アシュフォード。以前、薬師ギルドで君の調合したポーションを分けてもらったことがあるんだ。素晴らしい出来栄えだったよ」
「セドリック様……! あの時の……」
思い出した。
以前、ギルドの依頼で高熱に効く特別なポーションを調合したことがある。その依頼主が、このセドリック様だったのだ。
「まさか、こんなところでお会いできるとは」
「私も驚いたよ。君が熱心に見ていたその本……何か特別なものなのかい?」
セドリック様は、わたくしが手にしていた「古代治癒術集成」に目を留めた。
わたくしは、アレクシス様のことを話すわけにはいかないので、言葉を濁す。
「……少し、興味のある記述がありまして。でも、わたくしには少し高価すぎて」
すると、セドリック様はにっこりと微笑んだ。
「もし差し支えなければ、私が購入しよう。そして、君に貸し出すというのはどうだろうか? もちろん、お代は結構だ。君のポーションには、大変助けられたからね。そのお礼だと思ってくれればいい」
「えっ、そ、そんな……! 恐れ多いですわ!」
あまりに申し訳ない提案に、わたくしは慌てて首を振る。
けれど、セドリック様は穏やかに言った。
「困った時はお互い様だよ、リリア嬢。それに、その本が君の役に立つのなら、私としても嬉しい」
彼の真摯な眼差しに、わたくしは言葉を失った。
こんなに親切な方がいらっしゃるなんて。
結局、わたくしはセドリック様のご厚意に甘え、「古代治癒術集成」を借り受けることになった。
何度も頭を下げてお礼を言うわたくしに、セドリック様は「またギルドで会えるといいね」と笑顔で手を振り、去っていった。
(なんて、お優しい方なんだろう……)
セドリック様の親切に、胸が温かくなるのを感じた。
同時に、彼のような立派な貴族の方と比べると、自分の立場がますます惨めに思えてくる。
それでも、今は前を向かなければ。
手に入れた本をしっかりと抱きしめ、わたくしは家路を急いだ。
この本の中に、アレクシス様を救う手がかりが隠されているかもしれないのだから。
市場の喧騒を後にするわたくしの背中を、誰かが見つめていることには、気づかずに――。
普段は薬草の仕入れで訪れる程度だけれど、今日は少し違う目的がある。
(古い書物や、珍しい薬草を扱っている店があれば……何か情報が得られるかもしれない)
そんな期待を胸に、活気あふれる市場の喧騒の中へと足を踏み入れる。
色とりどりの露店が軒を連ね、様々な品物が並べられている。香辛料の匂い、焼き菓子の甘い香り、そして人々の賑やかな声。
アレクシス様との静かな生活に慣れていたせいか、この喧騒が少しだけ眩しく感じられた。
「お嬢さん、見ていかないかい? 珍しい薬草が入ったよ!」
威勢の良い声に呼び止められ、足を止める。
そこは、様々な種類の乾燥薬草や鉱石、そして古びた羊皮紙の巻物などが雑多に並べられた、少し怪しげな雰囲気の店だった。
「こんにちは。何か、治癒に関する古い文献や、特殊な薬草はありますでしょうか?」
わたくしが尋ねると、店の主らしい恰幅の良い初老の男性が、にやりと笑った。
「ほう、治癒ねぇ。お嬢さん、薬師さんかい?」
「はい、まだ見習いですけれど」
「そうかいそうかい。それなら、とっておきのがあるぜ」
そう言って、店の奥から埃をかぶった一冊の分厚い本を取り出してきた。
表紙は擦り切れ、文字も掠れて読みにくい。けれど、そこには確かに「古代治癒術集成」と記されていた。
「これは……!」
思わず息を呑む。
こんな貴重なものが、こんな市場の片隅にあるなんて。
「どうだい、お嬢さん。こいつは曰く付きでね。古代魔法に関する記述もあって、普通の薬師じゃ扱いきれねぇ代物だが……お嬢さんなら、あるいは」
店主の言葉に、期待と不安が入り混じる。
値段を尋ねると、やはりかなりの高額だった。今のわたくしには、到底手の出せる金額ではない。
(どうしよう……でも、諦めたくない)
わたくしが悩んでいると、不意に横から声がかかった。
「おや、リリア嬢じゃないか。奇遇だな」
振り返ると、そこには優しげな笑みを浮かべた若い男性が立っていた。
柔らかな栗色の髪に、穏やかな青い瞳。貴族らしい上質な衣服を身に着けている。
「えっと……失礼ですが、どちら様で……?」
わたくしが戸惑っていると、男性はくすりと笑った。
「ああ、これは失礼。私はセドリック・アシュフォード。以前、薬師ギルドで君の調合したポーションを分けてもらったことがあるんだ。素晴らしい出来栄えだったよ」
「セドリック様……! あの時の……」
思い出した。
以前、ギルドの依頼で高熱に効く特別なポーションを調合したことがある。その依頼主が、このセドリック様だったのだ。
「まさか、こんなところでお会いできるとは」
「私も驚いたよ。君が熱心に見ていたその本……何か特別なものなのかい?」
セドリック様は、わたくしが手にしていた「古代治癒術集成」に目を留めた。
わたくしは、アレクシス様のことを話すわけにはいかないので、言葉を濁す。
「……少し、興味のある記述がありまして。でも、わたくしには少し高価すぎて」
すると、セドリック様はにっこりと微笑んだ。
「もし差し支えなければ、私が購入しよう。そして、君に貸し出すというのはどうだろうか? もちろん、お代は結構だ。君のポーションには、大変助けられたからね。そのお礼だと思ってくれればいい」
「えっ、そ、そんな……! 恐れ多いですわ!」
あまりに申し訳ない提案に、わたくしは慌てて首を振る。
けれど、セドリック様は穏やかに言った。
「困った時はお互い様だよ、リリア嬢。それに、その本が君の役に立つのなら、私としても嬉しい」
彼の真摯な眼差しに、わたくしは言葉を失った。
こんなに親切な方がいらっしゃるなんて。
結局、わたくしはセドリック様のご厚意に甘え、「古代治癒術集成」を借り受けることになった。
何度も頭を下げてお礼を言うわたくしに、セドリック様は「またギルドで会えるといいね」と笑顔で手を振り、去っていった。
(なんて、お優しい方なんだろう……)
セドリック様の親切に、胸が温かくなるのを感じた。
同時に、彼のような立派な貴族の方と比べると、自分の立場がますます惨めに思えてくる。
それでも、今は前を向かなければ。
手に入れた本をしっかりと抱きしめ、わたくしは家路を急いだ。
この本の中に、アレクシス様を救う手がかりが隠されているかもしれないのだから。
市場の喧騒を後にするわたくしの背中を、誰かが見つめていることには、気づかずに――。
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