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第十話:険しい道のりと深まる想い
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月影の泉への旅は、予想以上に過酷なものだった。
鬱蒼とした森を抜け、険しい山道を登り、時には荒れ狂う川を渡らなければならなかった。
「大丈夫か、リリア。顔色が悪いぞ」
休憩のたびに、アレクシス様は心配そうにわたくしの様子を気遣ってくれた。
彼の優しさが、疲れた体に染み渡る。
「だ、大丈夫ですわ。これくらい……」
強がってはみるものの、慣れない長旅は確実にわたくしの体力を奪っていた。
特に、険しい山道では何度も足を踏み外しそうになり、そのたびにアレクシス様が力強い腕で支えてくれた。
「無理はするな。お前が倒れたら、元も子もない」
彼の言葉はぶっきらぼうだけれど、その瞳には深い優しさが宿っている。
その優しさに触れるたび、わたくしの胸は温かくなると同時に、切なさで締め付けられた。
(わたくしは、アレクシス様にとって、ただの足手まといなのではないかしら……)
そんな弱気な考えが、頭をよぎる。
薬師として彼の役に立ちたいと願ってこの旅に参加したのに、実際には助けられてばかりだ。
ある夜、野営の準備をしていると、護衛の騎士の一人が毒蛇に噛まれるという事故が起こった。
幸い、わたくしが持っていた解毒薬草ですぐに応急処置を施し、大事には至らなかったけれど、一歩間違えれば命に関わる事態だった。
「……すまない、リリア。俺の監督不行き届きだ」
アレクシス様が、悔しそうに唇を噛み締めた。
彼の責任ではないのに。
「いいえ、アレクシス様。わたくしがもっと早く気づいていれば……。でも、幸い騎士様はご無事でしたわ。これも、日頃の薬草集めの成果かもしれません」
わたくしが努めて明るく言うと、アレクシス様は少しだけ表情を和らげた。
「お前がいなければ、どうなっていたことか……。やはり、お前を連れてきて正解だった」
その言葉に、わたくしは救われたような気持ちになった。
少しでも、彼の役に立てている。それが実感できただけで、これまでの疲れも吹き飛ぶようだった。
夜、焚き火を囲みながら、アレクシス様と二人きりで話す時間が増えた。
彼は、普段は決して見せないような、穏やかな表情で昔話をしてくれることもあった。
騎士団に入る前のこと、厳格だった父親のこと、そして、彼が守りたいと願うこの国のこと。
わたくしも、自分のささやかな夢や、薬師としての喜びを語った。
言葉を交わすうちに、わたくしたちの心は、より深く結びついていくのを感じた。
アレクシス様の隣にいると、不思議と心が安らぐ。
彼の存在そのものが、わたくしにとって大きな支えになっているのだ。
しかし、旅が進むにつれて、アレクシス様の古傷の痛みがぶり返す頻度が増えてきた。
月の泉が近づくにつれて、呪いの力が強まっているのだろうか。
「……っ」
彼が苦痛に顔を歪めるたび、わたくしの胸は締め付けられる。
すぐに治癒魔法を施し、痛みを和らげる薬草を煎じて飲ませるけれど、それは一時しのぎにしかならない。
(早く、月の雫草を見つけなければ……!)
焦りが募る。
けれど、同時に、この旅が終わってしまうことへの寂しさも感じていた。
アレクシス様とこんなにも近くにいられる時間が、終わってしまうかもしれないのだから。
そんな矛盾した想いを抱えながら、わたくしは険しい道のりを進み続ける。
彼の苦しみを終わらせるために。そして、彼と共に未来を歩むために。
――たとえ、その未来がどんな形であったとしても。
鬱蒼とした森を抜け、険しい山道を登り、時には荒れ狂う川を渡らなければならなかった。
「大丈夫か、リリア。顔色が悪いぞ」
休憩のたびに、アレクシス様は心配そうにわたくしの様子を気遣ってくれた。
彼の優しさが、疲れた体に染み渡る。
「だ、大丈夫ですわ。これくらい……」
強がってはみるものの、慣れない長旅は確実にわたくしの体力を奪っていた。
特に、険しい山道では何度も足を踏み外しそうになり、そのたびにアレクシス様が力強い腕で支えてくれた。
「無理はするな。お前が倒れたら、元も子もない」
彼の言葉はぶっきらぼうだけれど、その瞳には深い優しさが宿っている。
その優しさに触れるたび、わたくしの胸は温かくなると同時に、切なさで締め付けられた。
(わたくしは、アレクシス様にとって、ただの足手まといなのではないかしら……)
そんな弱気な考えが、頭をよぎる。
薬師として彼の役に立ちたいと願ってこの旅に参加したのに、実際には助けられてばかりだ。
ある夜、野営の準備をしていると、護衛の騎士の一人が毒蛇に噛まれるという事故が起こった。
幸い、わたくしが持っていた解毒薬草ですぐに応急処置を施し、大事には至らなかったけれど、一歩間違えれば命に関わる事態だった。
「……すまない、リリア。俺の監督不行き届きだ」
アレクシス様が、悔しそうに唇を噛み締めた。
彼の責任ではないのに。
「いいえ、アレクシス様。わたくしがもっと早く気づいていれば……。でも、幸い騎士様はご無事でしたわ。これも、日頃の薬草集めの成果かもしれません」
わたくしが努めて明るく言うと、アレクシス様は少しだけ表情を和らげた。
「お前がいなければ、どうなっていたことか……。やはり、お前を連れてきて正解だった」
その言葉に、わたくしは救われたような気持ちになった。
少しでも、彼の役に立てている。それが実感できただけで、これまでの疲れも吹き飛ぶようだった。
夜、焚き火を囲みながら、アレクシス様と二人きりで話す時間が増えた。
彼は、普段は決して見せないような、穏やかな表情で昔話をしてくれることもあった。
騎士団に入る前のこと、厳格だった父親のこと、そして、彼が守りたいと願うこの国のこと。
わたくしも、自分のささやかな夢や、薬師としての喜びを語った。
言葉を交わすうちに、わたくしたちの心は、より深く結びついていくのを感じた。
アレクシス様の隣にいると、不思議と心が安らぐ。
彼の存在そのものが、わたくしにとって大きな支えになっているのだ。
しかし、旅が進むにつれて、アレクシス様の古傷の痛みがぶり返す頻度が増えてきた。
月の泉が近づくにつれて、呪いの力が強まっているのだろうか。
「……っ」
彼が苦痛に顔を歪めるたび、わたくしの胸は締め付けられる。
すぐに治癒魔法を施し、痛みを和らげる薬草を煎じて飲ませるけれど、それは一時しのぎにしかならない。
(早く、月の雫草を見つけなければ……!)
焦りが募る。
けれど、同時に、この旅が終わってしまうことへの寂しさも感じていた。
アレクシス様とこんなにも近くにいられる時間が、終わってしまうかもしれないのだから。
そんな矛盾した想いを抱えながら、わたくしは険しい道のりを進み続ける。
彼の苦しみを終わらせるために。そして、彼と共に未来を歩むために。
――たとえ、その未来がどんな形であったとしても。
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