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第十一話:森の賢者と古の試練
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月影の泉を目指す旅は、いよいよ佳境に入っていた。
古い地図が示す場所は、深い霧に包まれた神秘的な森の奥深く。そこは、人の踏み入らない聖域と噂される場所だった。
「この霧……何だか、不思議な感じがしますわね」
わたくしが呟くと、アレクシス様も警戒するように周囲を見渡した。
「ああ。魔力のようなものを感じる。気を引き締めろ」
護衛の騎士たちも緊張した面持ちで、剣の柄に手をかけている。
わたくしたちは慎重に森の奥へと進んでいった。
すると、霧が少し開けた場所に、古びた小屋がぽつんと建っているのが見えた。
そして、その小屋の前には、長い髭を蓄えた一人の老人が静かに座っていた。
「……何者だ、貴様ら。この聖なる森に、何の用だ?」
老人の声は低く、威厳に満ちていた。
その瞳は、わたくしたちの心の奥底まで見透かすように鋭い。
アレクシス様が一歩前に進み出て、礼儀正しく名乗った。
「我々は、王国騎士団の者。訳あって、この森の奥にあるという月影の泉を探しております」
「月影の泉、だと……?」
老人は眉をひそめ、アレクシス様をじっと見つめた。
そして、その視線がわたくしに向けられる。
「そちらの娘は……薬師か。ふむ、なるほどな」
老人は何かを察したように頷くと、静かに言った。
「わしは、この森を守る者。人はわしのことを『森の賢者』と呼ぶ。月影の泉へ行きたいというのなら、わしの出す試練を乗り越えてもらう必要がある」
「試練……ですって?」
わたくしは驚いて声を上げた。
アレクシス様も、怪訝そうな表情を浮かべている。
「そうだ。月影の泉は、聖なる場所。月の雫草もまた、清らかな心を持つ者にしか、その力を与えぬ。お前たちに、その資格があるかどうか、試させてもらう」
森の賢者の言葉は、有無を言わせぬ響きを持っていた。
わたくしたちは顔を見合わせる。ここで引き返すわけにはいかない。
「……分かりました。その試練、お受けいたします」
アレクシス様が、力強く答えた。
わたくしも、固い決意を込めて頷く。
「よろしい」
森の賢者は満足そうに頷くと、立ち上がった。
「試練は三つ。一つ目は、『真実の目』。お前たちの心の内にある、偽りのない願いを見極める」
そう言うと、賢者はわたくしたちを小屋の中へと招き入れた。
小屋の中は薄暗く、様々な薬草や不思議な道具が並べられている。中央には、水晶玉が置かれていた。
「この水晶玉に手をかざし、心の中で最も強く願うことを念じよ。水晶玉が、その願いの真偽を映し出すだろう」
アレクシス様が、まず水晶玉の前に立った。
彼は目を閉じ、静かに手をかざす。
しばらくすると、水晶玉がぼんやりと光り始めた。
そして、そこに映し出されたのは……わたくしの姿だった。驚き、目を見開くわたくし。
水晶玉の中のわたくしは、穏やかに微笑んでいる。そして、その隣には、アレクシス様が優しい眼差しで寄り添っていた。
「……ほう」
森の賢者が、興味深そうに声を漏らす。
アレクシス様は、気まずそうに顔を逸らした。彼の耳が、ほんのり赤く染まっているのに気づき、わたくしの胸も高鳴る。
次に、わたくしの番だった。
緊張しながら水晶玉に手をかざし、心の中で強く願う。
(アレクシス様の呪いが解けますように。そして、彼が心からの笑顔を取り戻せますように……!)
水晶玉が、再び光を放つ。
そこに映し出されたのは、月明かりの下で輝く白い花――月の雫草。そして、その花を手に、穏やかに微笑むアレクシス様の姿だった。
「……ふむ。二人とも、偽りのない清らかな願いを持っているようだ。一つ目の試練は、合格としよう」
森の賢者の言葉に、わたくしたちは安堵の息を漏らした。
しかし、試練はまだ始まったばかりだ。
「二つ目の試練は、『勇気の証』。そして三つ目は、『信頼の絆』。心してかかるがよい」
森の賢者の言葉は、わたくしたちの心に重く響いた。
月の雫草を手に入れるためには、わたくしたち自身の力が試されるのだ。
――わたくしは、アレクシス様と共に、この試練を乗り越えてみせる。
そう強く心に誓った。
古い地図が示す場所は、深い霧に包まれた神秘的な森の奥深く。そこは、人の踏み入らない聖域と噂される場所だった。
「この霧……何だか、不思議な感じがしますわね」
わたくしが呟くと、アレクシス様も警戒するように周囲を見渡した。
「ああ。魔力のようなものを感じる。気を引き締めろ」
護衛の騎士たちも緊張した面持ちで、剣の柄に手をかけている。
わたくしたちは慎重に森の奥へと進んでいった。
すると、霧が少し開けた場所に、古びた小屋がぽつんと建っているのが見えた。
そして、その小屋の前には、長い髭を蓄えた一人の老人が静かに座っていた。
「……何者だ、貴様ら。この聖なる森に、何の用だ?」
老人の声は低く、威厳に満ちていた。
その瞳は、わたくしたちの心の奥底まで見透かすように鋭い。
アレクシス様が一歩前に進み出て、礼儀正しく名乗った。
「我々は、王国騎士団の者。訳あって、この森の奥にあるという月影の泉を探しております」
「月影の泉、だと……?」
老人は眉をひそめ、アレクシス様をじっと見つめた。
そして、その視線がわたくしに向けられる。
「そちらの娘は……薬師か。ふむ、なるほどな」
老人は何かを察したように頷くと、静かに言った。
「わしは、この森を守る者。人はわしのことを『森の賢者』と呼ぶ。月影の泉へ行きたいというのなら、わしの出す試練を乗り越えてもらう必要がある」
「試練……ですって?」
わたくしは驚いて声を上げた。
アレクシス様も、怪訝そうな表情を浮かべている。
「そうだ。月影の泉は、聖なる場所。月の雫草もまた、清らかな心を持つ者にしか、その力を与えぬ。お前たちに、その資格があるかどうか、試させてもらう」
森の賢者の言葉は、有無を言わせぬ響きを持っていた。
わたくしたちは顔を見合わせる。ここで引き返すわけにはいかない。
「……分かりました。その試練、お受けいたします」
アレクシス様が、力強く答えた。
わたくしも、固い決意を込めて頷く。
「よろしい」
森の賢者は満足そうに頷くと、立ち上がった。
「試練は三つ。一つ目は、『真実の目』。お前たちの心の内にある、偽りのない願いを見極める」
そう言うと、賢者はわたくしたちを小屋の中へと招き入れた。
小屋の中は薄暗く、様々な薬草や不思議な道具が並べられている。中央には、水晶玉が置かれていた。
「この水晶玉に手をかざし、心の中で最も強く願うことを念じよ。水晶玉が、その願いの真偽を映し出すだろう」
アレクシス様が、まず水晶玉の前に立った。
彼は目を閉じ、静かに手をかざす。
しばらくすると、水晶玉がぼんやりと光り始めた。
そして、そこに映し出されたのは……わたくしの姿だった。驚き、目を見開くわたくし。
水晶玉の中のわたくしは、穏やかに微笑んでいる。そして、その隣には、アレクシス様が優しい眼差しで寄り添っていた。
「……ほう」
森の賢者が、興味深そうに声を漏らす。
アレクシス様は、気まずそうに顔を逸らした。彼の耳が、ほんのり赤く染まっているのに気づき、わたくしの胸も高鳴る。
次に、わたくしの番だった。
緊張しながら水晶玉に手をかざし、心の中で強く願う。
(アレクシス様の呪いが解けますように。そして、彼が心からの笑顔を取り戻せますように……!)
水晶玉が、再び光を放つ。
そこに映し出されたのは、月明かりの下で輝く白い花――月の雫草。そして、その花を手に、穏やかに微笑むアレクシス様の姿だった。
「……ふむ。二人とも、偽りのない清らかな願いを持っているようだ。一つ目の試練は、合格としよう」
森の賢者の言葉に、わたくしたちは安堵の息を漏らした。
しかし、試練はまだ始まったばかりだ。
「二つ目の試練は、『勇気の証』。そして三つ目は、『信頼の絆』。心してかかるがよい」
森の賢者の言葉は、わたくしたちの心に重く響いた。
月の雫草を手に入れるためには、わたくしたち自身の力が試されるのだ。
――わたくしは、アレクシス様と共に、この試練を乗り越えてみせる。
そう強く心に誓った。
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