氷の騎士と陽だまりの薬師令嬢 ~呪われた最強騎士様を、没落貴族の私がこっそり全力で癒します!~

放浪人

文字の大きさ
11 / 25

第十一話:森の賢者と古の試練

しおりを挟む
月影の泉を目指す旅は、いよいよ佳境に入っていた。
古い地図が示す場所は、深い霧に包まれた神秘的な森の奥深く。そこは、人の踏み入らない聖域と噂される場所だった。

「この霧……何だか、不思議な感じがしますわね」

わたくしが呟くと、アレクシス様も警戒するように周囲を見渡した。

「ああ。魔力のようなものを感じる。気を引き締めろ」

護衛の騎士たちも緊張した面持ちで、剣の柄に手をかけている。
わたくしたちは慎重に森の奥へと進んでいった。

すると、霧が少し開けた場所に、古びた小屋がぽつんと建っているのが見えた。
そして、その小屋の前には、長い髭を蓄えた一人の老人が静かに座っていた。

「……何者だ、貴様ら。この聖なる森に、何の用だ?」

老人の声は低く、威厳に満ちていた。
その瞳は、わたくしたちの心の奥底まで見透かすように鋭い。

アレクシス様が一歩前に進み出て、礼儀正しく名乗った。

「我々は、王国騎士団の者。訳あって、この森の奥にあるという月影の泉を探しております」
「月影の泉、だと……?」

老人は眉をひそめ、アレクシス様をじっと見つめた。
そして、その視線がわたくしに向けられる。

「そちらの娘は……薬師か。ふむ、なるほどな」

老人は何かを察したように頷くと、静かに言った。

「わしは、この森を守る者。人はわしのことを『森の賢者』と呼ぶ。月影の泉へ行きたいというのなら、わしの出す試練を乗り越えてもらう必要がある」
「試練……ですって?」

わたくしは驚いて声を上げた。
アレクシス様も、怪訝そうな表情を浮かべている。

「そうだ。月影の泉は、聖なる場所。月の雫草もまた、清らかな心を持つ者にしか、その力を与えぬ。お前たちに、その資格があるかどうか、試させてもらう」

森の賢者の言葉は、有無を言わせぬ響きを持っていた。
わたくしたちは顔を見合わせる。ここで引き返すわけにはいかない。

「……分かりました。その試練、お受けいたします」

アレクシス様が、力強く答えた。
わたくしも、固い決意を込めて頷く。

「よろしい」

森の賢者は満足そうに頷くと、立ち上がった。

「試練は三つ。一つ目は、『真実の目』。お前たちの心の内にある、偽りのない願いを見極める」

そう言うと、賢者はわたくしたちを小屋の中へと招き入れた。
小屋の中は薄暗く、様々な薬草や不思議な道具が並べられている。中央には、水晶玉が置かれていた。

「この水晶玉に手をかざし、心の中で最も強く願うことを念じよ。水晶玉が、その願いの真偽を映し出すだろう」

アレクシス様が、まず水晶玉の前に立った。
彼は目を閉じ、静かに手をかざす。

しばらくすると、水晶玉がぼんやりと光り始めた。
そして、そこに映し出されたのは……わたくしの姿だった。驚き、目を見開くわたくし。

水晶玉の中のわたくしは、穏やかに微笑んでいる。そして、その隣には、アレクシス様が優しい眼差しで寄り添っていた。

「……ほう」

森の賢者が、興味深そうに声を漏らす。
アレクシス様は、気まずそうに顔を逸らした。彼の耳が、ほんのり赤く染まっているのに気づき、わたくしの胸も高鳴る。

次に、わたくしの番だった。
緊張しながら水晶玉に手をかざし、心の中で強く願う。

(アレクシス様の呪いが解けますように。そして、彼が心からの笑顔を取り戻せますように……!)

水晶玉が、再び光を放つ。
そこに映し出されたのは、月明かりの下で輝く白い花――月の雫草。そして、その花を手に、穏やかに微笑むアレクシス様の姿だった。

「……ふむ。二人とも、偽りのない清らかな願いを持っているようだ。一つ目の試練は、合格としよう」

森の賢者の言葉に、わたくしたちは安堵の息を漏らした。
しかし、試練はまだ始まったばかりだ。

「二つ目の試練は、『勇気の証』。そして三つ目は、『信頼の絆』。心してかかるがよい」

森の賢者の言葉は、わたくしたちの心に重く響いた。
月の雫草を手に入れるためには、わたくしたち自身の力が試されるのだ。

――わたくしは、アレクシス様と共に、この試練を乗り越えてみせる。
そう強く心に誓った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~

白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…? 全7話です。

過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。

黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。 明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。 そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。 ………何でこんな事になったっけ?

婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました

有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。 魔力が弱い私には、価値がないという現実。 泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。 そこで目覚めた彼は、私を見て言った。 「やっと見つけた。私の番よ」 彼の前でだけ、私の魔力は輝く。 奪われた尊厳、歪められた運命。 すべてを取り戻した先にあるのは……

薬師の能力を買われた嫁ぎ先は闇の仕事を請け負う一族でした

あねもね
恋愛
薬師として働くエリーゼ・バリエンホルムは貴族の娘。 しかし両親が亡くなって以降、叔父に家を追い出されていた。エリーゼは自分の生活と弟の学費を稼ぐために頑張っていたが、店の立ち退きを迫られる事態となる。同時期に、好意を寄せていたシメオン・ラウル・アランブール伯爵からプロポーズを申し込まれていたものの、その申し出を受けず、娼館に足を踏み入れることにした。 エリーゼが娼館にいることを知ったシメオンは、エリーゼを大金で身請けして屋敷に連れ帰る。けれどそこは闇の仕事を請け負う一族で、シメオンはエリーゼに毒薬作りを命じた。 薬師としての矜持を踏みにじられ、一度は泣き崩れたエリーゼだったが……。 ――私は私の信念で戦う。決して誰にも屈しない。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

【完結】元強面騎士団長様は可愛いものがお好き〜虐げられた元聖女は、お腹と心が満たされて幸せになる〜

水都 ミナト
恋愛
女神の祝福を受けた聖女が尊ばれるサミュリア王国で、癒しの力を失った『元』聖女のミラベル。 『現』聖女である実妹のトロメアをはじめとして、家族から冷遇されて生きてきた。 すっかり痩せ細り、空腹が常となったミラベルは、ある日とうとう国外追放されてしまう。 隣国で力尽き果て倒れた時、助けてくれたのは――フリルとハートがたくさんついたラブリーピンクなエプロンをつけた筋骨隆々の男性!? そんな元強面騎士団長のアインスロッドは、魔物の呪い蝕まれ余命一年だという。残りの人生を大好きな可愛いものと甘いものに捧げるのだと言うアインスロッドに救われたミラベルは、彼の夢の手伝いをすることとなる。 認めとくれる人、温かい居場所を見つけたミラベルは、お腹も心も幸せに満ちていく。 そんなミラベルが飾り付けをしたお菓子を食べた常連客たちが、こぞってとあることを口にするようになる。 「『アインスロッド洋菓子店』のお菓子を食べるようになってから、すこぶる体調がいい」と。 一方その頃、ミラベルを追いやった実妹のトロメアからは、女神の力が失われつつあった。 ◇全15話、5万字弱のお話です ◇他サイトにも掲載予定です

処理中です...