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第十二話:勇気の証と騎士の献身
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森の賢者による一つ目の試練「真実の目」を乗り越えたわたくしたちは、次に「勇気の証」を示すことになった。
「この森の奥には、古の魔獣が封じられている洞窟がある。その魔獣が守る『勇気の石』を持ち帰ることができれば、二つ目の試練は達成だ。ただし、魔獣は強力。命の保証はできんぞ」
森の賢者の言葉に、護衛の騎士たちが息を呑むのが分かった。
アレクシス様は、静かに賢者を見据えている。
「……分かりました。その試練、俺が受けましょう」
「アレクシス様!?」
わたくしは思わず声を上げた。
古傷の呪いを抱えた彼が、魔獣と戦うなど危険すぎる。
「リリア、お前はここで待っていろ。これは、俺自身の問題でもある」
「しかし……!」
「心配するな。必ず、戻ってくる」
アレクシス様の瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。
その眼差しに、わたくしは何も言えなくなる。彼を信じるしかないのだ。
アレクシス様は、数名の護衛騎士と共に、魔獣の洞窟へと向かった。
わたくしは、森の賢者の小屋の前で、ただひたすら彼の無事を祈り続けることしかできなかった。
時間が、恐ろしく長く感じられる。
風が木々を揺らす音や、遠くで響く獣の咆哮が、わたくしの不安を煽った。
(アレクシス様、どうかご無事で……)
どれほどの時間が経っただろうか。
不意に、森の奥から激しい戦闘の音が聞こえてきた。剣戟の音、獣の咆哮、そして、騎士たちの叫び声。
胸が、張り裂けそうだった。
いてもたってもいられず、洞窟の方へ駆け出そうとしたわたくしを、森の賢者が静かに制した。
「待て、娘よ。お前の出る幕ではない。信じて待つのだ」
賢者の言葉は冷静だったが、その瞳の奥には深い慈愛の色が浮かんでいるように見えた。
わたくしは、唇を噛み締め、再び祈りに意識を集中させた。
そして、長い長い時間が過ぎた後。
森の奥から、疲弊しきった姿のアレクシス様たちが戻ってきた。
彼の鎧はさらに傷つき、顔には泥と汗がこびりついている。けれど、その手には、赤く輝く小さな石が握られていた。
「アレクシス様……!」
わたくしは駆け寄り、彼の無事な姿に安堵の涙を流した。
護衛の騎士たちも数名が負傷していたが、幸い命に別状はないようだった。
「……やった、ぞ。リリア」
アレクシス様は、力なく微笑みながら、勇気の石をわたくしに差し出した。
その手は震え、体は限界に近いことが見て取れた。
「よくぞ、成し遂げた。騎士よ」
森の賢者が、静かにアレクシス様を称えた。
「これで、二つ目の試練は達成だ。だが……お主、かなり無理をしたな。その古傷が、悲鳴を上げておるぞ」
賢者の指摘通り、アレクシス様の顔色は再び悪化し、額には脂汗が滲んでいた。
彼は、わたくしの前では気丈に振る舞っていたけれど、魔獣との戦いは想像以上に過酷だったのだろう。
「アレクシス様、すぐに手当てを……!」
わたくしは慌てて薬草鞄を開き、治癒魔法を施そうとする。
しかし、アレクシス様はそれを手で制した。
「……いや、今はいい。それよりも、リリア……お前に、頼みたいことがある」
「え……?」
彼は、苦しい息の下から、途切れ途切れに言った。
「この勇気の石を……俺の、胸に……」
「アレクシス様、何を……?」
「いいから、早く……!」
彼の切羽詰まった声に、わたくしは戸惑いながらも、赤く輝く勇気の石を彼が示した胸の中心――古傷のある場所へと近づけた。
その瞬間。
カッ、と勇気の石が眩い光を放った!
そして、その光はアレクシス様の体へと流れ込み、彼の古傷のあたりが激しく明滅し始める。
「ぐ……うあああああっ!」
アレクシス様が、これまで聞いたこともないような苦悶の声を上げた。
彼の体は弓なりにしなり、全身が激しく痙攣している。
「アレクシス様っ!?」
何が起こっているのか分からず、わたくしはただ彼の名前を叫ぶことしかできなかった。
彼の献身的な行動が、一体何を引き起こそうとしているのか――。
「この森の奥には、古の魔獣が封じられている洞窟がある。その魔獣が守る『勇気の石』を持ち帰ることができれば、二つ目の試練は達成だ。ただし、魔獣は強力。命の保証はできんぞ」
森の賢者の言葉に、護衛の騎士たちが息を呑むのが分かった。
アレクシス様は、静かに賢者を見据えている。
「……分かりました。その試練、俺が受けましょう」
「アレクシス様!?」
わたくしは思わず声を上げた。
古傷の呪いを抱えた彼が、魔獣と戦うなど危険すぎる。
「リリア、お前はここで待っていろ。これは、俺自身の問題でもある」
「しかし……!」
「心配するな。必ず、戻ってくる」
アレクシス様の瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。
その眼差しに、わたくしは何も言えなくなる。彼を信じるしかないのだ。
アレクシス様は、数名の護衛騎士と共に、魔獣の洞窟へと向かった。
わたくしは、森の賢者の小屋の前で、ただひたすら彼の無事を祈り続けることしかできなかった。
時間が、恐ろしく長く感じられる。
風が木々を揺らす音や、遠くで響く獣の咆哮が、わたくしの不安を煽った。
(アレクシス様、どうかご無事で……)
どれほどの時間が経っただろうか。
不意に、森の奥から激しい戦闘の音が聞こえてきた。剣戟の音、獣の咆哮、そして、騎士たちの叫び声。
胸が、張り裂けそうだった。
いてもたってもいられず、洞窟の方へ駆け出そうとしたわたくしを、森の賢者が静かに制した。
「待て、娘よ。お前の出る幕ではない。信じて待つのだ」
賢者の言葉は冷静だったが、その瞳の奥には深い慈愛の色が浮かんでいるように見えた。
わたくしは、唇を噛み締め、再び祈りに意識を集中させた。
そして、長い長い時間が過ぎた後。
森の奥から、疲弊しきった姿のアレクシス様たちが戻ってきた。
彼の鎧はさらに傷つき、顔には泥と汗がこびりついている。けれど、その手には、赤く輝く小さな石が握られていた。
「アレクシス様……!」
わたくしは駆け寄り、彼の無事な姿に安堵の涙を流した。
護衛の騎士たちも数名が負傷していたが、幸い命に別状はないようだった。
「……やった、ぞ。リリア」
アレクシス様は、力なく微笑みながら、勇気の石をわたくしに差し出した。
その手は震え、体は限界に近いことが見て取れた。
「よくぞ、成し遂げた。騎士よ」
森の賢者が、静かにアレクシス様を称えた。
「これで、二つ目の試練は達成だ。だが……お主、かなり無理をしたな。その古傷が、悲鳴を上げておるぞ」
賢者の指摘通り、アレクシス様の顔色は再び悪化し、額には脂汗が滲んでいた。
彼は、わたくしの前では気丈に振る舞っていたけれど、魔獣との戦いは想像以上に過酷だったのだろう。
「アレクシス様、すぐに手当てを……!」
わたくしは慌てて薬草鞄を開き、治癒魔法を施そうとする。
しかし、アレクシス様はそれを手で制した。
「……いや、今はいい。それよりも、リリア……お前に、頼みたいことがある」
「え……?」
彼は、苦しい息の下から、途切れ途切れに言った。
「この勇気の石を……俺の、胸に……」
「アレクシス様、何を……?」
「いいから、早く……!」
彼の切羽詰まった声に、わたくしは戸惑いながらも、赤く輝く勇気の石を彼が示した胸の中心――古傷のある場所へと近づけた。
その瞬間。
カッ、と勇気の石が眩い光を放った!
そして、その光はアレクシス様の体へと流れ込み、彼の古傷のあたりが激しく明滅し始める。
「ぐ……うあああああっ!」
アレクシス様が、これまで聞いたこともないような苦悶の声を上げた。
彼の体は弓なりにしなり、全身が激しく痙攣している。
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