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第二十話:絶体絶命の危機とカインの忠誠
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オルコット侯爵の陰謀は、着実にアレクシス様を追い詰めていた。
国境紛争の責任を問う声は日増しに大きくなり、騎士団内部でも彼を支持する者は少数派になりつつあった。
「副団長は、近々査問会にかけられるという噂です……」
ある日、アレクシス様の忠実な部下であるカイン殿が、青い顔でわたくしの家を訪れた。
彼の言葉に、わたくしは血の気が引くのを感じた。
「査問会……!? そんな……!」
「オルコット侯爵の息のかかった者たちが、副団長を陥れようと画策しているのです。証拠もないのに、まるで副団長が全ての元凶であるかのように……!」
カイン殿は、悔しそうに拳を握りしめた。
彼もまた、アレクシス様の無実を信じている一人なのだ。
アレクシス様は、カイン殿の報告を静かに聞いていた。
その表情は硬く、何を考えているのか読み取れない。
「……そうか。やはり、そうきたか」
ぽつりと呟かれたその言葉には、諦めではなく、むしろ闘志のようなものが感じられた。
「カイン、お前に頼みたいことがある」
「はっ! 何なりと!」
アレクシス様は、カイン殿にいくつかの指示を与えた。
それは、オルコット侯爵の不正の証拠を集めること、そして、騎士団内部でまだアレクシス様を信じている者たちに協力を仰ぐことだった。
「危険な任務になるかもしれん。だが、お前しか頼れる者がいない」
「副団長のためとあらば、この命、惜しくはありません!」
カイン殿は力強くそう言うと、決意を秘めた表情で去っていった。
彼の忠誠心に、わたくしは胸を打たれた。
しかし、事態はさらに悪化する。
数日後、アレクシス様の屋敷に、王命を帯びた騎士たちが現れたのだ。
「アレクシス・フォン・ヴァルツ様。国境紛争における任務放棄、及び王命への背反の容疑により、身柄を拘束いたします」
冷たい声で告げられた言葉に、わたくしは目の前が真っ暗になるのを感じた。
そんな……! アレクシス様が、逮捕されるなんて……!
「待ってください! アレクシス様は無実ですわ!」
わたくしは必死に訴えようとしたが、騎士たちは取り合ってくれない。
アレクシス様は、抵抗することなく、静かに彼らに従った。
去り際に、彼はわたくしに向かって、力強く頷いてみせた。
その瞳は、「心配するな」と語りかけているようだった。
けれど、どうして心配せずにいられようか。
彼は、オルコット侯爵の仕掛けた罠に、完全にはまってしまったのだ。
アレクシス様が連行された後、わたくしは茫然自失としていた。
何もできない自分の無力さが、悔しくてたまらない。
(わたくしに、何かできることは……何か……)
その時、ふと、アレクシス様から預かっていた小さな鍵のことを思い出した。
それは、彼の書斎の机の引き出しの鍵だと言っていた。
「もしかしたら……何か手がかりが……」
震える手で鍵を開け、引き出しの中を探る。
そこには、いくつかの書類に混じって、一通の封蝋された手紙があった。
宛名は、わたくし――リリア・アシュベリー。
アレクシス様からの、手紙……?
胸騒ぎを覚えながら、わたくしはその封を切った。
そこに書かれていたのは、驚くべき内容だった。
国境紛争の責任を問う声は日増しに大きくなり、騎士団内部でも彼を支持する者は少数派になりつつあった。
「副団長は、近々査問会にかけられるという噂です……」
ある日、アレクシス様の忠実な部下であるカイン殿が、青い顔でわたくしの家を訪れた。
彼の言葉に、わたくしは血の気が引くのを感じた。
「査問会……!? そんな……!」
「オルコット侯爵の息のかかった者たちが、副団長を陥れようと画策しているのです。証拠もないのに、まるで副団長が全ての元凶であるかのように……!」
カイン殿は、悔しそうに拳を握りしめた。
彼もまた、アレクシス様の無実を信じている一人なのだ。
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その表情は硬く、何を考えているのか読み取れない。
「……そうか。やはり、そうきたか」
ぽつりと呟かれたその言葉には、諦めではなく、むしろ闘志のようなものが感じられた。
「カイン、お前に頼みたいことがある」
「はっ! 何なりと!」
アレクシス様は、カイン殿にいくつかの指示を与えた。
それは、オルコット侯爵の不正の証拠を集めること、そして、騎士団内部でまだアレクシス様を信じている者たちに協力を仰ぐことだった。
「危険な任務になるかもしれん。だが、お前しか頼れる者がいない」
「副団長のためとあらば、この命、惜しくはありません!」
カイン殿は力強くそう言うと、決意を秘めた表情で去っていった。
彼の忠誠心に、わたくしは胸を打たれた。
しかし、事態はさらに悪化する。
数日後、アレクシス様の屋敷に、王命を帯びた騎士たちが現れたのだ。
「アレクシス・フォン・ヴァルツ様。国境紛争における任務放棄、及び王命への背反の容疑により、身柄を拘束いたします」
冷たい声で告げられた言葉に、わたくしは目の前が真っ暗になるのを感じた。
そんな……! アレクシス様が、逮捕されるなんて……!
「待ってください! アレクシス様は無実ですわ!」
わたくしは必死に訴えようとしたが、騎士たちは取り合ってくれない。
アレクシス様は、抵抗することなく、静かに彼らに従った。
去り際に、彼はわたくしに向かって、力強く頷いてみせた。
その瞳は、「心配するな」と語りかけているようだった。
けれど、どうして心配せずにいられようか。
彼は、オルコット侯爵の仕掛けた罠に、完全にはまってしまったのだ。
アレクシス様が連行された後、わたくしは茫然自失としていた。
何もできない自分の無力さが、悔しくてたまらない。
(わたくしに、何かできることは……何か……)
その時、ふと、アレクシス様から預かっていた小さな鍵のことを思い出した。
それは、彼の書斎の机の引き出しの鍵だと言っていた。
「もしかしたら……何か手がかりが……」
震える手で鍵を開け、引き出しの中を探る。
そこには、いくつかの書類に混じって、一通の封蝋された手紙があった。
宛名は、わたくし――リリア・アシュベリー。
アレクシス様からの、手紙……?
胸騒ぎを覚えながら、わたくしはその封を切った。
そこに書かれていたのは、驚くべき内容だった。
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