19 / 25
第十九話:侯爵家の陰謀と騎士団の動揺
しおりを挟む
アレクシス様とわたくしの婚約の噂は、瞬く間に王都の貴族社会に広まった。
そして、その噂は、予想通り大きな波紋を呼んだ。
特に、イザベラ様の父親であるオルコット侯爵は激怒し、国王陛下や騎士団長に猛烈な抗議を行ったと聞く。
「氷の騎士ともあろう者が、素性の知れぬ薬師風情の娘を娶るなど、騎士団の恥だ!」と。
アレクシス様は、そんな周囲の雑音にも毅然とした態度を崩さず、国王陛下への謁見を求め続けた。
しかし、オルコット侯爵の政治的な圧力は強く、なかなかその機会は与えられない。
騎士団内部でも、アレクシス様の行動を疑問視する声や、オルコット侯爵に同調する者たちが現れ始め、不穏な空気が漂い始めていた。
「副団長は、本当にあの娘と結婚なさるおつもりなのだろうか……」
「侯爵閣下を敵に回してまで……正気とは思えん」
そんな心無い言葉が、アレクシス様の耳にも届いているはずだった。
けれど、彼はわたくしの前では一切そんな素振りを見せず、いつもと変わらぬ穏やかな態度で接してくれた。
「心配するな、リリア。俺は、必ずお前を幸せにする」
その言葉が、どれほどわたくしの心を支えてくれたことか。
しかし、事態はわたくしたちの予想を超える速さで悪化していく。
ある日、アレクシス様が騎士団の緊急会議に呼び出された。
そして、その会議から戻ってきた彼の表情は、これまで見たこともないほど険しいものだった。
「アレクシス様……何か、あったのですか?」
わたくしがおそるおそる尋ねると、彼は重い口を開いた。
「……オルコット侯爵が、俺に濡れ衣を着せようとしている」
「えっ……!?」
衝撃的な言葉に、わたくしは息を呑んだ。
「数日前に国境付近で起きた小さな紛争……その責任を、俺に押し付けようというのだ。俺が任務を放棄し、私情に溺れた結果だと」
「そ、そんな……! アレクシス様は、わたくしの治療のために……!」
「分かっている。だが、侯爵はそれを逆手に取った。俺が『素性の知れぬ女』に誑かされ、騎士としての本分を忘れたと吹聴しているらしい」
アレクシス様の声には、怒りと無念さが滲んでいた。
オルコット侯爵は、わたくしとの関係を利用して、彼を失脚させようと企んでいるのだ。
なんて卑劣な……!
わたくしのせいで、アレクシス様がこんな酷い仕打ちを受けている。
その事実に、胸が張り裂けそうだった。
「わたくしが……わたくしが、侯爵様に直接お話しいたしますわ! アレクシス様は、決してそのような方ではないと……!」
「無駄だ、リリア。侯爵は、聞く耳など持たん」
アレクシス様は、わたくしの言葉を静かに遮った。
「それどころか、お前が侯爵の前に出れば、何をされるか分からん。……今は、軽率な行動は避けるべきだ」
「でも……!」
「俺を信じろ、リリア。俺は、こんなことで屈するつもりはない。必ず、この状況を打開してみせる」
彼の瞳には、強い意志の光が宿っていた。
けれど、その奥には深い疲労の色も見て取れた。
その夜、アレクシス様はなかなか寝付けないようだった。
わたくしは、彼のそばに寄り添い、そっとその背中を撫でた。
「アレクシス様……わたくしに、何かできることはありませんか?」
わたくしの問いかけに、彼はゆっくりと振り返り、わたくしの手を握った。
「……お前がそばにいてくれるだけで、俺は戦える」
その言葉は、弱々しかったけれど、確かな温もりを持っていた。
わたくしは、彼の言葉を胸に刻み、彼を支え続けることを改めて誓った。
――どんな困難が待ち受けていようとも、二人で乗り越えてみせる。
オルコット侯爵の陰謀は、わたくしたちの絆を試す、最初の大きな試練なのかもしれない。
そして、その噂は、予想通り大きな波紋を呼んだ。
特に、イザベラ様の父親であるオルコット侯爵は激怒し、国王陛下や騎士団長に猛烈な抗議を行ったと聞く。
「氷の騎士ともあろう者が、素性の知れぬ薬師風情の娘を娶るなど、騎士団の恥だ!」と。
アレクシス様は、そんな周囲の雑音にも毅然とした態度を崩さず、国王陛下への謁見を求め続けた。
しかし、オルコット侯爵の政治的な圧力は強く、なかなかその機会は与えられない。
騎士団内部でも、アレクシス様の行動を疑問視する声や、オルコット侯爵に同調する者たちが現れ始め、不穏な空気が漂い始めていた。
「副団長は、本当にあの娘と結婚なさるおつもりなのだろうか……」
「侯爵閣下を敵に回してまで……正気とは思えん」
そんな心無い言葉が、アレクシス様の耳にも届いているはずだった。
けれど、彼はわたくしの前では一切そんな素振りを見せず、いつもと変わらぬ穏やかな態度で接してくれた。
「心配するな、リリア。俺は、必ずお前を幸せにする」
その言葉が、どれほどわたくしの心を支えてくれたことか。
しかし、事態はわたくしたちの予想を超える速さで悪化していく。
ある日、アレクシス様が騎士団の緊急会議に呼び出された。
そして、その会議から戻ってきた彼の表情は、これまで見たこともないほど険しいものだった。
「アレクシス様……何か、あったのですか?」
わたくしがおそるおそる尋ねると、彼は重い口を開いた。
「……オルコット侯爵が、俺に濡れ衣を着せようとしている」
「えっ……!?」
衝撃的な言葉に、わたくしは息を呑んだ。
「数日前に国境付近で起きた小さな紛争……その責任を、俺に押し付けようというのだ。俺が任務を放棄し、私情に溺れた結果だと」
「そ、そんな……! アレクシス様は、わたくしの治療のために……!」
「分かっている。だが、侯爵はそれを逆手に取った。俺が『素性の知れぬ女』に誑かされ、騎士としての本分を忘れたと吹聴しているらしい」
アレクシス様の声には、怒りと無念さが滲んでいた。
オルコット侯爵は、わたくしとの関係を利用して、彼を失脚させようと企んでいるのだ。
なんて卑劣な……!
わたくしのせいで、アレクシス様がこんな酷い仕打ちを受けている。
その事実に、胸が張り裂けそうだった。
「わたくしが……わたくしが、侯爵様に直接お話しいたしますわ! アレクシス様は、決してそのような方ではないと……!」
「無駄だ、リリア。侯爵は、聞く耳など持たん」
アレクシス様は、わたくしの言葉を静かに遮った。
「それどころか、お前が侯爵の前に出れば、何をされるか分からん。……今は、軽率な行動は避けるべきだ」
「でも……!」
「俺を信じろ、リリア。俺は、こんなことで屈するつもりはない。必ず、この状況を打開してみせる」
彼の瞳には、強い意志の光が宿っていた。
けれど、その奥には深い疲労の色も見て取れた。
その夜、アレクシス様はなかなか寝付けないようだった。
わたくしは、彼のそばに寄り添い、そっとその背中を撫でた。
「アレクシス様……わたくしに、何かできることはありませんか?」
わたくしの問いかけに、彼はゆっくりと振り返り、わたくしの手を握った。
「……お前がそばにいてくれるだけで、俺は戦える」
その言葉は、弱々しかったけれど、確かな温もりを持っていた。
わたくしは、彼の言葉を胸に刻み、彼を支え続けることを改めて誓った。
――どんな困難が待ち受けていようとも、二人で乗り越えてみせる。
オルコット侯爵の陰謀は、わたくしたちの絆を試す、最初の大きな試練なのかもしれない。
35
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。
黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。
明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。
そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。
………何でこんな事になったっけ?
冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~
白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…?
全7話です。
薬師の能力を買われた嫁ぎ先は闇の仕事を請け負う一族でした
あねもね
恋愛
薬師として働くエリーゼ・バリエンホルムは貴族の娘。
しかし両親が亡くなって以降、叔父に家を追い出されていた。エリーゼは自分の生活と弟の学費を稼ぐために頑張っていたが、店の立ち退きを迫られる事態となる。同時期に、好意を寄せていたシメオン・ラウル・アランブール伯爵からプロポーズを申し込まれていたものの、その申し出を受けず、娼館に足を踏み入れることにした。
エリーゼが娼館にいることを知ったシメオンは、エリーゼを大金で身請けして屋敷に連れ帰る。けれどそこは闇の仕事を請け負う一族で、シメオンはエリーゼに毒薬作りを命じた。
薬師としての矜持を踏みにじられ、一度は泣き崩れたエリーゼだったが……。
――私は私の信念で戦う。決して誰にも屈しない。
婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました
有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。
魔力が弱い私には、価値がないという現実。
泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。
そこで目覚めた彼は、私を見て言った。
「やっと見つけた。私の番よ」
彼の前でだけ、私の魔力は輝く。
奪われた尊厳、歪められた運命。
すべてを取り戻した先にあるのは……
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる