4 / 20
第4話:地獄の教養講座
しおりを挟む
カンカンカンカン!!
早朝四時。 耳をつんざくような鐘の音が、屋根裏部屋に響き渡った。
私は薄い毛布を跳ね除け、反射的に飛び起きた。 板張りの床は冷たく、足の裏から心臓まで凍りつくような冷気が這い上がってくる。
「……ううっ、寒い……」
息を吐くと、白い霧になった。 窓の隙間からは容赦なく北風が吹き込んでいる。 ここは貴族の邸宅の屋根裏部屋。 夏は蒸し風呂、冬は冷凍庫という、まさに使用人のヒエラルキーの最底辺を示す場所だ。
けれど、不満を言っている暇はない。 鐘が鳴ってから十分以内に着替え、中庭に整列しなければ、その日の食事は抜きになる。 それが、このラインハルト公爵家の鉄の掟だ。
私は洗面器に汲み置きしていた水で顔を洗った。 氷が張っている。 冷たいを通り越して痛い。 だが、その痛みが眠気を強制的に吹き飛ばしてくれた。
支給された制服に袖を通す。 制服と言っても、それは雑用係専用の、麻袋を縫い合わせたようなゴワゴワしたワンピースだ。 色は灰色。 汚れが目立たないように、という配慮だろうが、私の目には囚人服にしか見えなかった。
「よし」
鏡の代わりに、窓ガラスに映る自分に向かって頷く。 隈ができているし、髪もパサついている。 でも、目は死んでいない。
「おはよう、アリア。今日も生き残るわよ」
私は自分自身に号令をかけ、階段を駆け下りた。
◇
公爵家の朝は、戦争だ。
「おい、そこの新入り! 何をしている、手が止まっているぞ!」 「すみません!」 「廊下の拭き掃除が終わったら、次は窓だ! 一枚でも曇りが残っていたら、夕飯は抜きだと思え!」 「はい!」
私は冷たい水に雑巾を浸し、固く絞って床を這いつくばる。 大理石の床は広大で、果てしなく続いているように見えた。
私の指先はすでに赤く腫れ上がり、あかぎれが切れて血が滲んでいる。 貴族令嬢だった頃は、ペンより重いものを持ったことがなかった手だ。 それが今では、冷水と洗剤と摩擦でボロボロになっている。
「あらあら、ベルンシュタインのお嬢様。ずいぶんと腰が入っていませんこと?」
頭上から、ねっとりとした声が降ってきた。 顔を上げると、メイド長のマーサが仁王立ちで見下ろしていた。 彼女はこの屋敷の古株で、新入りいびりが趣味という厄介な人物だ。
「貴族のプライドが邪魔をして、床にキスするような真似はできませんか? これだから没落貴族は使えないのよ」
周囲のメイドたちが、クスクスと忍び笑いをする。
私は雑巾を握りしめ、ゆっくりと顔を上げた。 ここで言い返せば、クビだ。 公爵との契約期間は一週間。 まだ三日目。 耐えなければならない。
「……ご指導、ありがとうございます、マーサ様。ですが、ご安心ください」
私はニッコリと微笑んだ。 精一杯の皮肉を込めて。
「床への口づけは、マーサ様の靴を舐めるよりはずっと清潔で快適ですので、喜んで励ませていただきます」
「なっ……!?」
マーサが顔を真っ赤にして絶句する。 その隙に、私は猛スピードで雑巾を走らせた。 悔しいなら、仕事で見返すしかない。 私は人間モップと化して、廊下を磨き上げた。
正午。 昼食は固い黒パンと、具のないスープだけ。 味もしないそれを胃袋に流し込み、午後の業務へ。
洗濯、皿洗い、庭の草むしり、馬小屋の掃除。 ありとあらゆる肉体労働が私に降りかかる。 公爵が言った「地獄」というのは、比喩でもなんでもなかった。
夜十時。 ようやく業務が終了する。 他の使用人たちは、死んだようにベッドへ倒れ込む時間だ。 私も体は限界で、足は棒のようになり、背中は悲鳴を上げていた。
けれど。
(まだだ……まだ、終われない)
私は重い体を引きずり、屋根裏部屋には戻らず、本館のとある場所へと向かった。 皆が寝静まった深夜こそが、私の本当の戦いの時間なのだ。
向かった先は、図書室。
公爵邸の図書室は、王立図書館にも匹敵する蔵書数を誇ると言われている。 歴史、政治、経済、魔法理論、そして各国の礼法書。 知識の宝庫だ。
私はこっそりと忍び込み、ランプの明かりだけを頼りに本棚を漁った。
なぜ、こんなことをするのか。 それは、三日間の労働で痛感したからだ。 「雑用係」として優秀であるだけでは、公爵の目には留まらないと。
床をどれだけ綺麗に磨いても、皿をどれだけ速く洗っても、それは「代わりの利く労働力」でしかない。 公爵が必要としているのは、もっと別の価値だ。 あの面接の時、彼が私の「記憶力」に興味を示したこと。 それがヒントだ。
彼は「使える道具」を求めている。 ならば、私はただの雑巾ではなく、辞書であり、参謀であり、外交官になれる道具にならなければならない。
「……あった」
私は一冊の分厚い本を抜き出した。 『周辺諸国貴族名鑑・改訂版』 そしてもう一冊。 『宮廷作法と外交プロトコルの基礎』
私は床に座り込み、ページを開いた。
「……サザランド王国、第三王女、リリアーナ。好物はイチゴのタルト。特技はハープ……」
ブツブツと呟きながら、情報を脳に叩き込む。 文字を目で追うのではない。 ページ全体を画像として脳裏に焼き付ける。 私の特技、瞬間記憶。 これを最大限に活用して、この図書室の知識をすべて私の頭の中に移し替えるのだ。
眠い。 瞼が鉛のように重い。 意識が飛びそうになる。
(寝るな……寝たら、ミラが……)
妹の笑顔を思い浮かべる。 自分の太ももを爪で強くつねる。 鋭い痛みが脳を覚醒させる。
「……次は、帝国の通商条約について……」
ページをめくる音が、静寂な部屋に響く。
「……熱心だな」
不意に、背後から声をかけられた。
「ひっ!?」
私は心臓が飛び出るほど驚き、本を取り落としそうになった。 慌てて振り返ると、そこには影のように佇む人影があった。
執事長のセバスチャンだ。
「せ、セバスチャン様……!」
私は慌てて立ち上がり、最敬礼をした。 見つかった。 無断で図書室に入ったことがバレれば、厳罰ものだ。 クビかもしれない。
「申し訳ありません! 盗むつもりはありませんでした! ただ、少し勉強を……」
「盗むつもりがないのは分かっています。貴女が懐に入れているのは本ではなく、知識だけでしょうから」
セバスチャンは呆れたようにため息をつき、私の手元にある本を覗き込んだ。
「……貴族名鑑に、外交プロトコル。雑用係が読むには、いささか分不相応な書物ですね」
「……はい。ですが、必要だと思いました」
「なぜです?」
「私は公爵閣下に『能力』を売り込みました。ですが、今の私はただの掃除婦です。閣下の役に立つためには、閣下が見ている世界を理解しなければなりません。そのためには、教養が必要です」
私はセバスチャンを真っ直ぐに見つめて言った。
「掃除ができるだけのメイドなら、いくらでもいます。でも、閣下の隣で、各国の要人の顔と名前、そして弱点まで即座に言えるメイドはいません。私は、それになりたいのです」
セバスチャンは、モノクルの奥の瞳を細めた。 私を値踏みしている。 面接の時と同じ目だ。
やがて、彼は小さく、けれど確かに口角を上げた。
「……呆れましたね。三日間、あれほどの重労働をこなしながら、睡眠時間を削って勉強とは。死に急ぐつもりですか?」
「生き残るための投資です」
「投資、ですか」
セバスチャンは近くの椅子に腰を下ろした。
「アリア。貴女のその根性、嫌いではありません。ですが……」
彼は厳しい声色で続けた。
「知識があるだけでは、淑女とは呼べません。貴女の今の立ち居振る舞い……まるで市場の売り子のようです。背筋が曲がっている。言葉遣いに品がない。視線の配り方が粗雑だ」
「うっ……」
痛いところを突かれた。 生活に追われ、なりふり構わず生きてきた弊害だ。
「知識は武器ですが、それを振るう器が錆びついていては、誰も貴女を認めません。特に、我が主であるラインハルト公爵閣下は、美しくないものを極端に嫌います」
「……では、どうすれば」
「どうすれば、ではありません」
セバスチャンが立ち上がり、私の前に立った。 そして、持っていた杖で、私の背中をパンッ! と叩いた。
「いたっ!」
「背筋を伸ばす。顎を引く。視線は常に水平に。……私が教えます」
「え……?」
私は目を丸くした。 今、なんて言った?
「私が貴女に、ラインハルト家の使用人として恥ずかしくない、完璧な所作を叩き込みます。ただし……」
セバスチャンの目が、妖しく光った。
「私の指導は、閣下のそれよりも厳しいですよ? 泣いても叫んでも止めません。睡眠時間はさらに減るでしょう。それでも、やりますか?」
これはチャンスだ。 公爵の側近中の側近である彼から、直々に指導を受けられるなんて。
私は即座に頭を下げた。 いいえ、カーテシーをした。 まだ不格好だけれど、精一杯の敬意を込めて。
「お願いします! 私を……『国一番の淑女』に叩き上げてください!」
「……フッ、大きく出ましたね。いいでしょう、その契約、乗りましょう」
こうして、私の「地獄の教養講座」が開幕した。
◇
それからの四日間は、記憶が曖昧になるほど過酷だった。
昼間は通常の雑用業務。 そして深夜二時までは、セバスチャンによるスパルタ教育。 睡眠時間は二時間。 限界なんてとっくに超えていた。
「アリア! 紅茶の注ぎ方がなっていません! 角度が一度ずれている!」
バシンッ! 杖が飛んでくる。
「もう一度!」
「はい!」
「歩き方! 足音がうるさい! 猫のように、空気のように歩きなさい! 頭に乗せた本を落としたら、最初からやり直しです!」
ドサッ。 重い本が頭から落ちる。 拾って、乗せて、歩く。 落ちる。 拾う。 歩く。
足の裏の皮が剥け、血が滲んで靴下を赤く染める。 それでも、私は止まらなかった。
「アリア、サザランド王国の主要輸出品目は?」
「羊毛、鉄鉱石、そしてガラス細工です!」
「正解。では、その関税率は?」
「羊毛が五パーセント、鉄鉱石が八パーセント、ガラス細工は……特例措置で免税です!」
「遅い! 即答しなさい!」
歩く練習をしながら、口頭試問が飛んでくる。 肉体と頭脳、両方を同時に極限まで追い込むトレーニングだ。
意識が朦朧とする。 目の前がチカチカする。
(もう、無理かも……)
弱音が頭をもたげる。 ふらり、と体が傾いた。
「おっと」
倒れそうになった私を、セバスチャンが杖で支えた。
「限界ですか? アリア。諦めますか?」
優しい声ではない。 試すような声だ。
「諦めたら、楽になれますよ。屋根裏部屋で朝までぐっすり眠れます。……その代わり、一週間後には妹さんと共に路頭に迷うことになりますが」
妹。 その言葉が、私の心臓に火をつけた。
「……やり、ます」
私は歯を食いしばり、体勢を立て直した。
「まだ、やれます。……今の歩き方、左足の重心が甘かったです。もう一度、指導をお願いします!」
私は血走った目でセバスチャンを睨みつけた。
セバスチャンは一瞬驚いたような顔をし、それから満足げに頷いた。
「……よろしい。その目です。その目が死なない限り、貴女は伸びる」
彼は懐中時計を取り出し、確認した。
「今夜はここまで。あと二時間で起床の鐘が鳴ります。少しでも休みなさい」
「……ありがとうございました」
私は深くお辞儀をした。 四日前とは見違えるほど、その角度は洗練され始めていた。
◇
そして、運命の七日目。 公爵との契約期間の最終日。
私は公爵の執務室に呼ばれた。 一週間前と同じ、重厚な扉の前。 けれど、私の心持ちは全く違っていた。
恐怖はない。 あるのは、静かな闘志だけ。
「入りなさい」
中から公爵の声がする。 私は深呼吸をし、扉を開けた。
「失礼いたします」
音もなく部屋に入り、完璧な角度でカーテシーを行う。 背筋は伸び、視線は伏せすぎず、真っ直ぐすぎず、公爵の喉元あたりを見据える。
公爵は机で書類を見ていたが、手を止めて顔を上げた。 そのアイスブルーの瞳が、私をじっと見つめる。
「……ほう」
公爵が小さく声を漏らした。
「見違えたな。ドブネズミかと思ったが、今は……少しは身ぎれいな猫くらいには見える」
彼なりの最上級の褒め言葉だろうか。 私は表情を崩さず、静かに答えた。
「恐縮です、閣下」
「一週間だ。生き残っただけでなく、セバスチャンを手懐けて教育まで受けたそうだな」
「手懐けたなど、滅相もございません。セバスチャン様の御慈悲にすがったまでです」
「フン。あの堅物が、見込みのない人間に時間を割くわけがない。お前には、それだけの価値があったということだ」
公爵は立ち上がり、窓際へと歩いた。 外には、美しいローズガーデンが広がっている。
「アリア。テストだ」
公爵は外を見ながら言った。
「今日、隣国から通商大使が来る。重要な会談だ。お前には、その席でお茶を淹れてもらう」
「……お茶、ですか?」
「そうだ。ただのお茶くみではない。大使は気難しい男だ。少しでも不手際があれば、交渉は決裂するかもしれん。……できるか?」
これは罠だ。 ただお茶を出すだけなら、ベテランのメイドに任せればいい。 私を指名したということは、そこで何かを「見極め」ようとしているのだ。
私の度胸か。 それとも、この一週間で身につけた所作か。
「……謹んで、お受けいたします」
私は即答した。 断る選択肢などない。
「よろしい。失敗すれば……分かっているな?」
「はい。私の眼球と、妹の心臓。でしたね」
私が平然と言うと、公爵は振り返り、ニヤリと笑った。
「記憶力も良いままだ。……期待しているぞ、アリア」
◇
午後二時。 応接室。
そこには、恰幅の良い中年男性――隣国の通商大使と、公爵が向かい合って座っていた。 空気は重い。 どうやら交渉は難航しているらしい。
「ですから、公爵。関税の引き下げは譲れませんな。我が国の特産品であるワインを、もっと安く卸したいのです」
「大使。貴国のワインは質が良いが、我が国のブドウ農家を守るためには、これ以上の引き下げは不可能です」
平行線だ。 大使はイライラして、貧乏ゆすりをしている。
「失礼いたします」
私はタイミングを見計らい、ワゴンを押して入室した。 音もなく近づき、テーブルの横に立つ。
緊張で手が震えそうになる。 でも、セバスチャンの言葉を思い出す。 『手元を見るな。相手の心を見ろ』
私は優雅な手つきでティーポットを持ち上げた。 熱い紅茶が、美しい弧を描いてカップに注がれる。 一滴も跳ねさせない。 完璧な所作。
カップを大使の前に置く。
「……どうぞ」
大使は一瞬、私を見た。 そして、カップに手を伸ばし、香りを嗅いだ。
「……ん? これは……」
大使の表情が変わった。
「これは、我が国の……『アルマン地方』の茶葉か?」
「はい、左様でございます」
私は微笑んで答えた。
「大使の故郷であるアルマン地方では、この時期、新茶の収穫を祝う祭りがあると伺いました。故郷を離れてお仕事に励む大使に、少しでも安らぎを感じていただければと思い、特別にご用意いたしました」
「おお……なんと」
大使の顔が、ほころんだ。
「よく知っているね。そうだ、今頃は村中が茶の香りに包まれる時期だ……懐かしいな」
ピリピリしていた空気が、一瞬で和らいだ。 大使は紅茶を一口飲み、満足げにため息をついた。
「うむ、美味い。淹れ方も完璧だ。……公爵、良い使用人をお持ちですな」
「ええ。自慢の部下です」
公爵が、さらりと答えた。 その言葉に、私の心臓が跳ねた。 自慢の、部下。 彼が、私を認めた。
「さて、公爵。先ほどの話だが……私も少々、頑固になりすぎていたかもしれん。お互いの妥協点を探りましょうか」
「賢明なご判断です、大使」
交渉が動き出した。 たった一杯の紅茶と、私の小さな知識が、国と国との歯車を回したのだ。
私は静かに一礼し、部屋の隅へと下がった。
公爵がチラリと私を見た。 その目は、もう「ゴミ」を見る目ではなかった。 「使える道具」を見る目。 いや、それ以上に……「共犯者」を見るような、微かな熱を帯びていた。
(やった……)
私は震える手を押さえ、心の中でガッツポーズをした。
第一関門突破。 そして、私は手に入れたのだ。 「国一番の淑女」への、最初の一歩となる武器を。
だが、これはまだ序章に過ぎない。 公爵の無理難題は、これからさらに加速していくのだから。
「アリア」
大使が帰った後、公爵が私を呼んだ。
「はい、閣下」
「合格だ。……ついてこい。お前に見せたいものがある」
公爵は執務室の奥にある、隠し扉を開けた。 そこには、地下へと続く暗い階段があった。
「ここから先は、この国の闇だ。お前が本当に『すべて』を私に捧げる覚悟があるなら……踏み込んでこい」
公爵が闇の中で手を差し伸べる。 私は迷わず、その手を取った。
「どこまでも、お供します。……私の主人(マスター)」
闇へと消えていく私たちの背中を、セバスチャンだけが静かに見送っていた。
早朝四時。 耳をつんざくような鐘の音が、屋根裏部屋に響き渡った。
私は薄い毛布を跳ね除け、反射的に飛び起きた。 板張りの床は冷たく、足の裏から心臓まで凍りつくような冷気が這い上がってくる。
「……ううっ、寒い……」
息を吐くと、白い霧になった。 窓の隙間からは容赦なく北風が吹き込んでいる。 ここは貴族の邸宅の屋根裏部屋。 夏は蒸し風呂、冬は冷凍庫という、まさに使用人のヒエラルキーの最底辺を示す場所だ。
けれど、不満を言っている暇はない。 鐘が鳴ってから十分以内に着替え、中庭に整列しなければ、その日の食事は抜きになる。 それが、このラインハルト公爵家の鉄の掟だ。
私は洗面器に汲み置きしていた水で顔を洗った。 氷が張っている。 冷たいを通り越して痛い。 だが、その痛みが眠気を強制的に吹き飛ばしてくれた。
支給された制服に袖を通す。 制服と言っても、それは雑用係専用の、麻袋を縫い合わせたようなゴワゴワしたワンピースだ。 色は灰色。 汚れが目立たないように、という配慮だろうが、私の目には囚人服にしか見えなかった。
「よし」
鏡の代わりに、窓ガラスに映る自分に向かって頷く。 隈ができているし、髪もパサついている。 でも、目は死んでいない。
「おはよう、アリア。今日も生き残るわよ」
私は自分自身に号令をかけ、階段を駆け下りた。
◇
公爵家の朝は、戦争だ。
「おい、そこの新入り! 何をしている、手が止まっているぞ!」 「すみません!」 「廊下の拭き掃除が終わったら、次は窓だ! 一枚でも曇りが残っていたら、夕飯は抜きだと思え!」 「はい!」
私は冷たい水に雑巾を浸し、固く絞って床を這いつくばる。 大理石の床は広大で、果てしなく続いているように見えた。
私の指先はすでに赤く腫れ上がり、あかぎれが切れて血が滲んでいる。 貴族令嬢だった頃は、ペンより重いものを持ったことがなかった手だ。 それが今では、冷水と洗剤と摩擦でボロボロになっている。
「あらあら、ベルンシュタインのお嬢様。ずいぶんと腰が入っていませんこと?」
頭上から、ねっとりとした声が降ってきた。 顔を上げると、メイド長のマーサが仁王立ちで見下ろしていた。 彼女はこの屋敷の古株で、新入りいびりが趣味という厄介な人物だ。
「貴族のプライドが邪魔をして、床にキスするような真似はできませんか? これだから没落貴族は使えないのよ」
周囲のメイドたちが、クスクスと忍び笑いをする。
私は雑巾を握りしめ、ゆっくりと顔を上げた。 ここで言い返せば、クビだ。 公爵との契約期間は一週間。 まだ三日目。 耐えなければならない。
「……ご指導、ありがとうございます、マーサ様。ですが、ご安心ください」
私はニッコリと微笑んだ。 精一杯の皮肉を込めて。
「床への口づけは、マーサ様の靴を舐めるよりはずっと清潔で快適ですので、喜んで励ませていただきます」
「なっ……!?」
マーサが顔を真っ赤にして絶句する。 その隙に、私は猛スピードで雑巾を走らせた。 悔しいなら、仕事で見返すしかない。 私は人間モップと化して、廊下を磨き上げた。
正午。 昼食は固い黒パンと、具のないスープだけ。 味もしないそれを胃袋に流し込み、午後の業務へ。
洗濯、皿洗い、庭の草むしり、馬小屋の掃除。 ありとあらゆる肉体労働が私に降りかかる。 公爵が言った「地獄」というのは、比喩でもなんでもなかった。
夜十時。 ようやく業務が終了する。 他の使用人たちは、死んだようにベッドへ倒れ込む時間だ。 私も体は限界で、足は棒のようになり、背中は悲鳴を上げていた。
けれど。
(まだだ……まだ、終われない)
私は重い体を引きずり、屋根裏部屋には戻らず、本館のとある場所へと向かった。 皆が寝静まった深夜こそが、私の本当の戦いの時間なのだ。
向かった先は、図書室。
公爵邸の図書室は、王立図書館にも匹敵する蔵書数を誇ると言われている。 歴史、政治、経済、魔法理論、そして各国の礼法書。 知識の宝庫だ。
私はこっそりと忍び込み、ランプの明かりだけを頼りに本棚を漁った。
なぜ、こんなことをするのか。 それは、三日間の労働で痛感したからだ。 「雑用係」として優秀であるだけでは、公爵の目には留まらないと。
床をどれだけ綺麗に磨いても、皿をどれだけ速く洗っても、それは「代わりの利く労働力」でしかない。 公爵が必要としているのは、もっと別の価値だ。 あの面接の時、彼が私の「記憶力」に興味を示したこと。 それがヒントだ。
彼は「使える道具」を求めている。 ならば、私はただの雑巾ではなく、辞書であり、参謀であり、外交官になれる道具にならなければならない。
「……あった」
私は一冊の分厚い本を抜き出した。 『周辺諸国貴族名鑑・改訂版』 そしてもう一冊。 『宮廷作法と外交プロトコルの基礎』
私は床に座り込み、ページを開いた。
「……サザランド王国、第三王女、リリアーナ。好物はイチゴのタルト。特技はハープ……」
ブツブツと呟きながら、情報を脳に叩き込む。 文字を目で追うのではない。 ページ全体を画像として脳裏に焼き付ける。 私の特技、瞬間記憶。 これを最大限に活用して、この図書室の知識をすべて私の頭の中に移し替えるのだ。
眠い。 瞼が鉛のように重い。 意識が飛びそうになる。
(寝るな……寝たら、ミラが……)
妹の笑顔を思い浮かべる。 自分の太ももを爪で強くつねる。 鋭い痛みが脳を覚醒させる。
「……次は、帝国の通商条約について……」
ページをめくる音が、静寂な部屋に響く。
「……熱心だな」
不意に、背後から声をかけられた。
「ひっ!?」
私は心臓が飛び出るほど驚き、本を取り落としそうになった。 慌てて振り返ると、そこには影のように佇む人影があった。
執事長のセバスチャンだ。
「せ、セバスチャン様……!」
私は慌てて立ち上がり、最敬礼をした。 見つかった。 無断で図書室に入ったことがバレれば、厳罰ものだ。 クビかもしれない。
「申し訳ありません! 盗むつもりはありませんでした! ただ、少し勉強を……」
「盗むつもりがないのは分かっています。貴女が懐に入れているのは本ではなく、知識だけでしょうから」
セバスチャンは呆れたようにため息をつき、私の手元にある本を覗き込んだ。
「……貴族名鑑に、外交プロトコル。雑用係が読むには、いささか分不相応な書物ですね」
「……はい。ですが、必要だと思いました」
「なぜです?」
「私は公爵閣下に『能力』を売り込みました。ですが、今の私はただの掃除婦です。閣下の役に立つためには、閣下が見ている世界を理解しなければなりません。そのためには、教養が必要です」
私はセバスチャンを真っ直ぐに見つめて言った。
「掃除ができるだけのメイドなら、いくらでもいます。でも、閣下の隣で、各国の要人の顔と名前、そして弱点まで即座に言えるメイドはいません。私は、それになりたいのです」
セバスチャンは、モノクルの奥の瞳を細めた。 私を値踏みしている。 面接の時と同じ目だ。
やがて、彼は小さく、けれど確かに口角を上げた。
「……呆れましたね。三日間、あれほどの重労働をこなしながら、睡眠時間を削って勉強とは。死に急ぐつもりですか?」
「生き残るための投資です」
「投資、ですか」
セバスチャンは近くの椅子に腰を下ろした。
「アリア。貴女のその根性、嫌いではありません。ですが……」
彼は厳しい声色で続けた。
「知識があるだけでは、淑女とは呼べません。貴女の今の立ち居振る舞い……まるで市場の売り子のようです。背筋が曲がっている。言葉遣いに品がない。視線の配り方が粗雑だ」
「うっ……」
痛いところを突かれた。 生活に追われ、なりふり構わず生きてきた弊害だ。
「知識は武器ですが、それを振るう器が錆びついていては、誰も貴女を認めません。特に、我が主であるラインハルト公爵閣下は、美しくないものを極端に嫌います」
「……では、どうすれば」
「どうすれば、ではありません」
セバスチャンが立ち上がり、私の前に立った。 そして、持っていた杖で、私の背中をパンッ! と叩いた。
「いたっ!」
「背筋を伸ばす。顎を引く。視線は常に水平に。……私が教えます」
「え……?」
私は目を丸くした。 今、なんて言った?
「私が貴女に、ラインハルト家の使用人として恥ずかしくない、完璧な所作を叩き込みます。ただし……」
セバスチャンの目が、妖しく光った。
「私の指導は、閣下のそれよりも厳しいですよ? 泣いても叫んでも止めません。睡眠時間はさらに減るでしょう。それでも、やりますか?」
これはチャンスだ。 公爵の側近中の側近である彼から、直々に指導を受けられるなんて。
私は即座に頭を下げた。 いいえ、カーテシーをした。 まだ不格好だけれど、精一杯の敬意を込めて。
「お願いします! 私を……『国一番の淑女』に叩き上げてください!」
「……フッ、大きく出ましたね。いいでしょう、その契約、乗りましょう」
こうして、私の「地獄の教養講座」が開幕した。
◇
それからの四日間は、記憶が曖昧になるほど過酷だった。
昼間は通常の雑用業務。 そして深夜二時までは、セバスチャンによるスパルタ教育。 睡眠時間は二時間。 限界なんてとっくに超えていた。
「アリア! 紅茶の注ぎ方がなっていません! 角度が一度ずれている!」
バシンッ! 杖が飛んでくる。
「もう一度!」
「はい!」
「歩き方! 足音がうるさい! 猫のように、空気のように歩きなさい! 頭に乗せた本を落としたら、最初からやり直しです!」
ドサッ。 重い本が頭から落ちる。 拾って、乗せて、歩く。 落ちる。 拾う。 歩く。
足の裏の皮が剥け、血が滲んで靴下を赤く染める。 それでも、私は止まらなかった。
「アリア、サザランド王国の主要輸出品目は?」
「羊毛、鉄鉱石、そしてガラス細工です!」
「正解。では、その関税率は?」
「羊毛が五パーセント、鉄鉱石が八パーセント、ガラス細工は……特例措置で免税です!」
「遅い! 即答しなさい!」
歩く練習をしながら、口頭試問が飛んでくる。 肉体と頭脳、両方を同時に極限まで追い込むトレーニングだ。
意識が朦朧とする。 目の前がチカチカする。
(もう、無理かも……)
弱音が頭をもたげる。 ふらり、と体が傾いた。
「おっと」
倒れそうになった私を、セバスチャンが杖で支えた。
「限界ですか? アリア。諦めますか?」
優しい声ではない。 試すような声だ。
「諦めたら、楽になれますよ。屋根裏部屋で朝までぐっすり眠れます。……その代わり、一週間後には妹さんと共に路頭に迷うことになりますが」
妹。 その言葉が、私の心臓に火をつけた。
「……やり、ます」
私は歯を食いしばり、体勢を立て直した。
「まだ、やれます。……今の歩き方、左足の重心が甘かったです。もう一度、指導をお願いします!」
私は血走った目でセバスチャンを睨みつけた。
セバスチャンは一瞬驚いたような顔をし、それから満足げに頷いた。
「……よろしい。その目です。その目が死なない限り、貴女は伸びる」
彼は懐中時計を取り出し、確認した。
「今夜はここまで。あと二時間で起床の鐘が鳴ります。少しでも休みなさい」
「……ありがとうございました」
私は深くお辞儀をした。 四日前とは見違えるほど、その角度は洗練され始めていた。
◇
そして、運命の七日目。 公爵との契約期間の最終日。
私は公爵の執務室に呼ばれた。 一週間前と同じ、重厚な扉の前。 けれど、私の心持ちは全く違っていた。
恐怖はない。 あるのは、静かな闘志だけ。
「入りなさい」
中から公爵の声がする。 私は深呼吸をし、扉を開けた。
「失礼いたします」
音もなく部屋に入り、完璧な角度でカーテシーを行う。 背筋は伸び、視線は伏せすぎず、真っ直ぐすぎず、公爵の喉元あたりを見据える。
公爵は机で書類を見ていたが、手を止めて顔を上げた。 そのアイスブルーの瞳が、私をじっと見つめる。
「……ほう」
公爵が小さく声を漏らした。
「見違えたな。ドブネズミかと思ったが、今は……少しは身ぎれいな猫くらいには見える」
彼なりの最上級の褒め言葉だろうか。 私は表情を崩さず、静かに答えた。
「恐縮です、閣下」
「一週間だ。生き残っただけでなく、セバスチャンを手懐けて教育まで受けたそうだな」
「手懐けたなど、滅相もございません。セバスチャン様の御慈悲にすがったまでです」
「フン。あの堅物が、見込みのない人間に時間を割くわけがない。お前には、それだけの価値があったということだ」
公爵は立ち上がり、窓際へと歩いた。 外には、美しいローズガーデンが広がっている。
「アリア。テストだ」
公爵は外を見ながら言った。
「今日、隣国から通商大使が来る。重要な会談だ。お前には、その席でお茶を淹れてもらう」
「……お茶、ですか?」
「そうだ。ただのお茶くみではない。大使は気難しい男だ。少しでも不手際があれば、交渉は決裂するかもしれん。……できるか?」
これは罠だ。 ただお茶を出すだけなら、ベテランのメイドに任せればいい。 私を指名したということは、そこで何かを「見極め」ようとしているのだ。
私の度胸か。 それとも、この一週間で身につけた所作か。
「……謹んで、お受けいたします」
私は即答した。 断る選択肢などない。
「よろしい。失敗すれば……分かっているな?」
「はい。私の眼球と、妹の心臓。でしたね」
私が平然と言うと、公爵は振り返り、ニヤリと笑った。
「記憶力も良いままだ。……期待しているぞ、アリア」
◇
午後二時。 応接室。
そこには、恰幅の良い中年男性――隣国の通商大使と、公爵が向かい合って座っていた。 空気は重い。 どうやら交渉は難航しているらしい。
「ですから、公爵。関税の引き下げは譲れませんな。我が国の特産品であるワインを、もっと安く卸したいのです」
「大使。貴国のワインは質が良いが、我が国のブドウ農家を守るためには、これ以上の引き下げは不可能です」
平行線だ。 大使はイライラして、貧乏ゆすりをしている。
「失礼いたします」
私はタイミングを見計らい、ワゴンを押して入室した。 音もなく近づき、テーブルの横に立つ。
緊張で手が震えそうになる。 でも、セバスチャンの言葉を思い出す。 『手元を見るな。相手の心を見ろ』
私は優雅な手つきでティーポットを持ち上げた。 熱い紅茶が、美しい弧を描いてカップに注がれる。 一滴も跳ねさせない。 完璧な所作。
カップを大使の前に置く。
「……どうぞ」
大使は一瞬、私を見た。 そして、カップに手を伸ばし、香りを嗅いだ。
「……ん? これは……」
大使の表情が変わった。
「これは、我が国の……『アルマン地方』の茶葉か?」
「はい、左様でございます」
私は微笑んで答えた。
「大使の故郷であるアルマン地方では、この時期、新茶の収穫を祝う祭りがあると伺いました。故郷を離れてお仕事に励む大使に、少しでも安らぎを感じていただければと思い、特別にご用意いたしました」
「おお……なんと」
大使の顔が、ほころんだ。
「よく知っているね。そうだ、今頃は村中が茶の香りに包まれる時期だ……懐かしいな」
ピリピリしていた空気が、一瞬で和らいだ。 大使は紅茶を一口飲み、満足げにため息をついた。
「うむ、美味い。淹れ方も完璧だ。……公爵、良い使用人をお持ちですな」
「ええ。自慢の部下です」
公爵が、さらりと答えた。 その言葉に、私の心臓が跳ねた。 自慢の、部下。 彼が、私を認めた。
「さて、公爵。先ほどの話だが……私も少々、頑固になりすぎていたかもしれん。お互いの妥協点を探りましょうか」
「賢明なご判断です、大使」
交渉が動き出した。 たった一杯の紅茶と、私の小さな知識が、国と国との歯車を回したのだ。
私は静かに一礼し、部屋の隅へと下がった。
公爵がチラリと私を見た。 その目は、もう「ゴミ」を見る目ではなかった。 「使える道具」を見る目。 いや、それ以上に……「共犯者」を見るような、微かな熱を帯びていた。
(やった……)
私は震える手を押さえ、心の中でガッツポーズをした。
第一関門突破。 そして、私は手に入れたのだ。 「国一番の淑女」への、最初の一歩となる武器を。
だが、これはまだ序章に過ぎない。 公爵の無理難題は、これからさらに加速していくのだから。
「アリア」
大使が帰った後、公爵が私を呼んだ。
「はい、閣下」
「合格だ。……ついてこい。お前に見せたいものがある」
公爵は執務室の奥にある、隠し扉を開けた。 そこには、地下へと続く暗い階段があった。
「ここから先は、この国の闇だ。お前が本当に『すべて』を私に捧げる覚悟があるなら……踏み込んでこい」
公爵が闇の中で手を差し伸べる。 私は迷わず、その手を取った。
「どこまでも、お供します。……私の主人(マスター)」
闇へと消えていく私たちの背中を、セバスチャンだけが静かに見送っていた。
75
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話
鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。
彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。
干渉しない。触れない。期待しない。
それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに――
静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。
越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。
壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。
これは、激情ではなく、
確かな意思で育つ夫婦の物語。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?
時
恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。
しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。
追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。
フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。
ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。
記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。
一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた──
※小説家になろうにも投稿しています
いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる