「何の取り柄もない姉より、妹をよこせ」と婚約破棄されましたが、妹を守るためなら私は「国一番の淑女」にでも這い上がってみせます

放浪人

文字の大きさ
20 / 20

第20話:新しい契約

しおりを挟む
春の陽光が、ラインハルト大公邸の広い執務室に降り注いでいます。

私は窓辺に立ち、眼下に広がる王都の街並みを見下ろしていました。 あの日、借金取りに追われ、泥だらけの靴で歩いた石畳。 絶望の中で見上げた、冷たく閉ざされた貴族たちの屋敷。

それらは今、暖かな光に包まれ、平和な活気に満ちていました。

「……アリア様。次のご予定のお時間です」

控えめなノックと共に、侍女頭に出世したエミリーが声をかけてきました。

「ええ、分かっているわ。すぐに」

私は振り返り、鏡の前で身だしなみを整えました。 身につけているのは、深い蒼色のドレス。 胸元には、あの日クラウス様から授かった銀色のバッジ――『秘書官』の証と、左手の薬指に輝く『王家の涙』の指輪。

私はもう、ただの没落令嬢アリアではありません。 救国の英雄ラインハルト大公の妻であり、この国の外交と内政を影で支える『氷の参謀』。 そして人々からは、敬愛を込めてこう呼ばれています。

『国一番の淑女』と。

          ◇

「本日の陳情は五件です。まずは東部開拓地の村長から、灌漑工事の礼状が届いております」

「礼状は後で読みます。それより、西部の港湾都市で起きている労働争議の件はどうなっていますか?」

私は廊下を歩きながら、後ろに続く文官たちに指示を飛ばしました。

「はっ。現地へ派遣した交渉団より、合意に至ったとの報告が。アリア様が考案された『利益配分システム』が功を奏したようです」

「結構です。では、次は王立孤児院への視察ですね」

「はい。院長先生も、子供たちも、アリア様にお会いできるのを楽しみに待っております」

分刻みのスケジュール。 息つく暇もない激務。 普通の貴婦人なら悲鳴を上げて逃げ出すような毎日ですが、私にとっては水を得た魚のようなものです。

「……精が出ますね、大公妃殿下」

廊下の角から、聞き慣れた、そして愛しい声がしました。

「あら、クラウス様。会議はお済みですか?」

そこには、相変わらず冷徹な美貌を湛えた私の夫、クラウス様が立っていました。 ただし、その瞳だけは、私を見た瞬間に春の湖のように柔らかく緩みます。

「ああ。貴族院の古狸どもを黙らせるのに、少々手間取ったがな。……お前の入れ知恵通り、『彼らの隠し資産リスト』をちらつかせたら、途端に大人しくなったよ」

「ふふ、それは良かったです。情報は使いようですね」

私たちは自然と並んで歩き出しました。 周囲の使用人や文官たちが、私たちを見て微笑ましそうに道を空けます。

「疲れていないか? アリア。……最近、働きすぎだ」

クラウス様が私の腰に手を回し、小声で囁きます。

「平気ですわ。これが私の生き甲斐ですから。……それに、貴方の隣に立つには、これくらい働かないと釣り合いが取れませんもの」

「釣り合いなど、とっくに取れている。……むしろ、私の方がお前の輝きに目が眩みそうだ」

「まあ、お上手になられましたこと」

「本心だ」

クラウス様は立ち止まり、私の額に軽くキスを落としました。 公衆の面前だろうと、彼はもう躊躇しません。 「見せつけて何が悪い」というスタンスです。

「……夜、話がある。執務室に来てくれ」

「夜、ですか?」

「ああ。……大事な話だ」

クラウス様は意味深な視線を残し、自分の執務室へと消えていきました。 私はその背中を見送りながら、少しだけ首を傾げました。

大事な話? 今さら何でしょう。 まさか、また帝国の父(皇帝)が「娘を返せ!」と襲来するのでしょうか。 それとも、どこかの国が宣戦布告を?

胸騒ぎというよりは、何かを予感させるような、静かな高鳴りを胸に、私は午後の公務へと向かいました。

          ◇

その日の午後、私は久しぶりにミラと再会しました。 王立学園の長期休暇を利用して、寮から帰ってきたのです。

「お姉ちゃん! 会いたかった!」

玄関ホールで、ミラが飛びついてきました。 背が伸びて、少し大人びた表情になった妹。 制服の着こなしも板につき、その立ち居振る舞いからは、かつての怯えていた少女の面影はありません。

「おかえり、ミラ。……元気そうで何よりだわ」

「うん! 学校、すごく楽しいよ。勉強も大変だけど、友達もたくさんできたし」

ミラは目を輝かせて報告してくれました。

「それにね、私、生徒会に入ったの!」

「生徒会? すごいじゃない」

「うん。書記係なんだけどね。……お姉ちゃんみたいに、誰かの役に立ちたくて」

「ミラ……」

「いつか私も、お姉ちゃんみたいにカッコいい女性になって、誰かを守れるようになりたいな」

ミラの言葉に、私は目頭が熱くなりました。 私が守ってきた小さな種は、しっかりと根を張り、自分の力で花を咲かせようとしているのです。

「なれるわよ、ミラなら。……いいえ、もう十分立派なレディよ」

「えへへ、そうかな?」

「そうよ。……あ、そうだ。学校で悪い虫はついてない? 変な男の子に言い寄られてない?」

私が姉バカを発揮して尋ねると、ミラは顔を赤くしてモジモジし始めました。

「え、えっと……その……」

「あら? その反応は……いるのね?」

「う、うん……。隣のクラスの男の子で、剣術が得意で、優しくて……」

「詳しく聞かせなさい。名前は? 家柄は? 性格は? 一度、お姉ちゃんとクラウス様に面接させるように伝えなさい」

「もう! お姉ちゃんったら! まだそんなんじゃないよ!」

ミラは恥ずかしそうに逃げていきました。 その後ろ姿を見ながら、私は幸せな溜め息をつきました。

平和だ。 本当に、平和になりました。

カミロは鉱山で真面目に働いているという噂を聞きました。 エレナ嬢は田舎で農業に目覚め、新しい野菜の品種改良に成功したとか。 ギリアード宰相は……まあ、冷たい牢獄の中で反省の日々を送っているでしょう。

すべてが収まるべき場所に収まり、時間は穏やかに流れています。

でも。 私の中で、一つだけ「終わっていないこと」がありました。

それは、クラウス様との『始まりの約束』です。

          ◇

夜十時。 屋敷が静寂に包まれた頃。

私はクラウス様の執務室の前に立っていました。 三年前、泥だらけのドレスで、震えながらこの扉の前に立った夜のことを思い出します。

コン、コン。

「入れ」

懐かしい、低い声。 私は深呼吸をして、扉を開けました。

「失礼いたします」

部屋の中は、あの夜と同じように薄暗く、月明かりだけが差し込んでいました。 クラウス様は窓際の椅子に座り、ワイングラスを傾けていました。

「……来たか」

彼はグラスを置き、私に向き直りました。

「座れ」

促され、私は彼の向かいのソファに腰を下ろしました。 テーブルの上には、一枚の古びた羊皮紙が置かれていました。

それは。

「……これは」

「覚えているか? 三年前、お前が私と交わした最初の契約書だ」

クラウス様が言いました。

『契約期間:一ヶ月(延長の可能性あり)』 『報酬:金貨二千枚(前払い)』 『条件:公爵家の利益となる行動をとること。裏切った場合は命で償うこと』

懐かしい文字。 必死だった私の、下手くそな署名。

「……ええ、覚えています。これが私の、すべての始まりでした」

私は指先で羊皮紙をなぞりました。

「アリア。今日で、あの日からちょうど三年だ」

クラウス様は静かに切り出しました。

「この契約書には、期限の定めがない。……だが、そろそろ『更新』が必要だと思わないか?」

「更新、ですか?」

「ああ。……お前はもう、借金を返すための道具ではない。私の妻であり、大公妃だ。この古い契約書は、今の私たちにはふさわしくない」

クラウス様は羊皮紙を手に取りました。

「だから、これは破棄する」

ビリッ。 乾いた音がして、契約書が真っ二つに破かれました。 さらに、ビリビリと細かく引き裂かれ、暖炉の火の中へと投じられました。 炎が紙を舐め、一瞬で灰に変えていきます。

「……あっ」

私は少しだけ、寂しいような気持ちになりました。 あれは私の勲章のようなものでしたから。

「これで、お前を縛るものはなくなった」

クラウス様は私を見つめました。 その瞳は、真剣そのものでした。

「アリア。お前は自由だ。……私の妻であることも、秘書官であることも、義務ではない。お前が望むなら、いつでもこの屋敷を出て、好きな人生を歩んでいい」

「……え?」

「お前の能力なら、どこの国に行っても引く手あまただろう。帝国へ行って皇女として生きるのもいい。あるいは、あの学校で子供たちと静かに暮らすのもいい」

クラウス様は何を言っているのでしょう。 私を、追い出すつもりですか?

「……それが、閣下の望みですか?」

私が問いかけると、クラウス様は苦しげに顔を歪めました。

「違う! 私の望みなど、決まっている!」

彼は立ち上がり、私の前に跪きました。 大公である彼が、床に膝をついて、私を見上げているのです。

「私はお前が欲しい。……昨日よりも今日、今日よりも明日、お前への愛が深まっていくのが怖いほどだ。お前なしの人生など、もう考えられない」

「なら、どうして……」

「だからこそだ。……契約や義務ではなく、お前自身の『意志』で、私を選んでほしいんだ」

クラウス様は、震える手で懐から新しい一枚の紙を取り出しました。 それは、真っ白な、何も書かれていない羊皮紙でした。

「アリア。……ここに、新しい契約を書いてくれ」

「私が、書くのですか?」

「ああ。お前が私に望むこと。お前が私と生きる条件。……なんでもいい。お前の望むままに」

彼は羽ペンを私に手渡しました。

これは、試されているのではありません。 託されているのです。 私たちの未来の形を、私自身の手で描けと。

私はペンを受け取りました。 迷いはありませんでした。 私の答えは、とっくの昔に決まっていたからです。

私はサラサラとペンを走らせました。

『契約書  甲:クラウス・フォン・ラインハルト  乙:アリア・フォン・ラインハルト

 第一条:乙は甲を、生涯をかけて愛し、支え、時に叱咤激励し、共に歩むことを誓う。  第二条:甲は乙を、世界で一番大切にし、守り抜き、その笑顔を絶やさないことを誓う。  第三条:……』

私はそこで筆を止め、少し悪戯っぽく微笑んでから、続きを書きました。

『第三条:ただし、乙が「退屈だ」と感じた時は、甲は直ちに面白い事件を持ってくるか、全力で乙を口説き落とすこと』

書き終えた羊皮紙を、私はクラウス様に差し出しました。

クラウス様はそれを受け取り、目を丸くして読み、そして……。

「……ぶっ、くくくっ!」

初めて、彼が声を上げて笑いました。 お腹を抱えて、子供のように無邪気に笑い転げています。

「ははは! 面白い事件を持って来いだと? そんな契約条件、聞いたことがない!」

「あら、重要ですわよ? 私はスリルとロマンがないと枯れてしまう花ですから」

「違いない! ……ああ、最高だ、アリア。お前は本当に、私の予想を遥かに超えてくる」

クラウス様は笑い涙を拭い、立ち上がりました。 そして、私を強く抱きしめました。

「謹んで、契約しよう。……退屈などさせない。毎日がお前への求婚だと思え」

「ふふ、期待していますわ、旦那様」

私たちは、三年前と同じ場所で、しかし全く違う心持ちで、キスを交わしました。 それは、主従の契約ではなく、魂の契約の成立を告げる口づけでした。

          ◇

数日後。

公爵邸のバルコニーに、私とクラウス様、そしてミラが並んで立っていました。 今日は、私の誕生日パーティーが開かれる日です。 庭園には、たくさんの招待客が集まっています。 セバスチャンが忙しそうに、でも嬉しそうに指揮を執っています。 遠くには、エリザベート王女殿下(今は女王陛下代理)の姿も見えます。

「すごい人だね、お姉ちゃん!」

ミラがはしゃいでいます。

「ええ。みんな、私たちのお祝いに来てくれたのよ」

私は眼下の光景を見つめました。 かつては敵だらけだったこの世界。 でも今は、愛と祝福に満ちています。

「アリア」

クラウス様が私の肩を抱きました。

「幸せか?」

「……ええ」

私は空を見上げました。 どこまでも青く、澄み渡った空。 父と母も、きっとそこから見ているでしょう。

「世界で一番、幸せです」

私は答えました。

「でも、もっと幸せになりたいです。……貴方と一緒に」

「強欲だな」

「ええ。国一番の悪女ですから」

「……訂正しろ。『国一番の淑女』だ」

クラウス様が笑い、私も笑いました。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話

鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。 彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。 干渉しない。触れない。期待しない。 それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに―― 静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。 越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。 壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。 これは、激情ではなく、 確かな意思で育つ夫婦の物語。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

答えられません、国家機密ですから

ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

処理中です...