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第1話:貧乏令嬢と呪われ王子
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「リナ! またそんな隅っこに突っ立って! 少しは殿方と踊ってきなさい!」
お母様の甲高い声が、きらびやかなシャンデリアの光に満ちたホールに響く。
私は壁の花。いや、壁のシミ。
それが、今の私――リナ・アシュリー男爵令嬢に相応しい言葉だろう。
周りを見渡せば、色とりどりのドレスに身を包んだ令嬢たちが、楽しそうに談笑したり、エスコート役の騎士様と優雅に踊ったりしている。
彼女たちのドレスは、最新のデザインで、シルクやレースがふんだんに使われている。
一方、私のドレスは姉が3年前に着古したお下がり。
流行遅れのデザインを隠すように、胸元につけたリボンだけが、唯一私の手作りだ。
アシュリー男爵家は、はっきり言って貧乏だ。
度重なる事業の失敗で、領地は荒れ放題。借金は雪だるま式に膨れ上がっている。
そんな我が家の起死回生の一手として、私がお金持ちの貴族に見初められること――それが、この王宮の夜会に参加した最大の目的だった。
「はぁ……」
思わず、ため息が漏れる。
誰が好き好んで、こんな場末の男爵令嬢に声をかけるというのだろう。
その時だった。
「……邪魔だ。そこをどけ」
低く、不機嫌そうな声がすぐそばで聞こえた。
振り向くと、そこに立っていたのは、この国の誰もが忌み嫌う存在。
第二王子、アレクシス・フォン・エルグランド。
漆黒の髪に、血のように赤い瞳。
そして、その顔の右半分を覆う、痛々しい火傷のような痣。
“呪われ王子”
彼がそう呼ばれていることを、私は知っていた。
生まれつきその痣があり、呪いの影響で性格も酷く歪んでいると噂されている。
彼に近づく者は誰もおらず、その周りだけぽっかりと空間が空いていた。
「……っ、も、申し訳ありません!」
慌てて道を開けると、彼は私を一瞥すらせずに通り過ぎていく。
その背中は、ひどく孤独に見えた。
周りの貴族たちが、ヒソヒソと噂話をしているのが聞こえる。
「またあの方、いらっしゃってるのね……」
「本当に気味が悪いわ。同じ空気を吸うのも嫌」
その言葉に、なんだか胸がチクリと痛んだ。
確かに、彼の態度は褒められたものではないかもしれない。
でも、あんな風に言われる筋合いはないはずだ。
「……何よ、みんなして」
ポツリと呟いた私の声は、華やかな音楽にかき消された。
これが、私と呪われ王子、アレクシス様との最悪な出会い。
そして、私の運命が、大きく動き出す始まりの夜だったなんて。
この時の私は、まだ知る由もなかった。
――この夜会が、私の人生のどん底であり、同時に最高の逆転劇の幕開けになることを。
お母様の甲高い声が、きらびやかなシャンデリアの光に満ちたホールに響く。
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「はぁ……」
思わず、ため息が漏れる。
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その時だった。
「……邪魔だ。そこをどけ」
低く、不機嫌そうな声がすぐそばで聞こえた。
振り向くと、そこに立っていたのは、この国の誰もが忌み嫌う存在。
第二王子、アレクシス・フォン・エルグランド。
漆黒の髪に、血のように赤い瞳。
そして、その顔の右半分を覆う、痛々しい火傷のような痣。
“呪われ王子”
彼がそう呼ばれていることを、私は知っていた。
生まれつきその痣があり、呪いの影響で性格も酷く歪んでいると噂されている。
彼に近づく者は誰もおらず、その周りだけぽっかりと空間が空いていた。
「……っ、も、申し訳ありません!」
慌てて道を開けると、彼は私を一瞥すらせずに通り過ぎていく。
その背中は、ひどく孤独に見えた。
周りの貴族たちが、ヒソヒソと噂話をしているのが聞こえる。
「またあの方、いらっしゃってるのね……」
「本当に気味が悪いわ。同じ空気を吸うのも嫌」
その言葉に、なんだか胸がチクリと痛んだ。
確かに、彼の態度は褒められたものではないかもしれない。
でも、あんな風に言われる筋合いはないはずだ。
「……何よ、みんなして」
ポツリと呟いた私の声は、華やかな音楽にかき消された。
これが、私と呪われ王子、アレクシス様との最悪な出会い。
そして、私の運命が、大きく動き出す始まりの夜だったなんて。
この時の私は、まだ知る由もなかった。
――この夜会が、私の人生のどん底であり、同時に最高の逆転劇の幕開けになることを。
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