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第16話:絶望の淵で見つけた新たな光
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「砂糖以外の、甘み……」
工房で、私は腕を組んで考え込んでいた。
蜂蜜は、独特の風味が強すぎて、ショートケーキの繊細な味を邪魔してしまう。
果物の甘みだけでは、クリームやスポンジに必要な糖度が足りない。
前世の記憶を、必死に手繰り寄せる。
歴史、化学、農業……あらゆるジャンルの知識を総動員する。
「……そうだ!」
不意に、一つの単語が脳裏に閃いた。
「『甜菜(てんさい)』……!」
そう、ビートシュガー。
サトウキビから作る砂糖だけでなく、甜菜というカブのような見た目の根菜からも、砂糖は精製できるのだ。
むしろ、前世の日本では、甜菜から作られる砂糖の方が一般的だったはず。
「ギルさん! 甜菜という植物を知っていますか!? 見た目は赤カブのようで、根っこに強い甘みがあるはずです!」
興奮して尋ねる私に、ギルさんは眉をひそめた。
「てんさい……? 聞いたことねぇな。そんな都合のいい植物が、本当にあるのかい?」
「あります! 絶対にあります! 問題は、この世界のどこに生えているか、ですけど……」
ギルさんは、すぐに行動を開始してくれた。
彼の持つ商人のネットワークを駆使して、王都中の薬草師や植物学者に聞き込みを行なってくれたのだ。
時間は、刻一刻と過ぎていく。
パーティーまで、あと二日。
私たちの心は、焦りで焼け付くようだった。
そして、その日の夜。
ギルさんが、一冊の古い植物図鑑を抱えて、工房に飛び込んできた。
「あったぞ、リナお嬢! これじゃねぇか!?」
彼が指差したページには、見慣れない植物の絵が描かれていた。
その見た目は、確かに私が説明した甜菜によく似ている。
『シュガービート』
図鑑には、そう記されていた。
『王都の北、グレンデル山脈の麓に自生する。根に強い甘みを持つが、アクが強く、食用には向かないとされる』
「これだ……! これです、ギルさん!」
私は、思わず叫んでいた。
アクが強い、という記述も、前世の知識と一致する。
甜菜から砂糖を精製するには、特殊な工程でアク抜きをする必要があるのだ。
この世界の人々は、その方法を知らないから、食用に向かないと思い込んでいるに違いない。
「グレンデル山脈の麓……」
ギルさんは、地図を広げた。
「ここから馬車を飛ばしても、片道半日はかかるな……」
パーティーは、明後日の午後。
時間がない。
今から行って、収穫して、戻ってきて、そこから砂糖を精製して、ケーキを作る。
どう考えても、ギリギリだ。いや、間に合わないかもしれない。
「……でも、行くしかありません」
私は、覚悟を決めた。
「俺も行くぜ、お嬢」
ギルさんが、力強く頷く。
「夜通し馬車を走らせりゃ、なんとかなるかもしれねぇ!」
準備は、すぐに整った。
最小限の荷物と、収穫用の道具を馬車に積み込む。
まさに、出発しようとした、その時だった。
「――どこへ行く気だ」
聞き覚えのある、低く不機嫌な声。
工房の前に立っていたのは、夜の闇に溶け込むような、漆黒の姿――アレクシス様だった。
「アレクシス様……!」
「……何か、困っているようだな」
彼は、私たちのただならぬ様子を見て、全てを察したようだった。
事情を説明すると、彼はフンと鼻を鳴らした。
「……くだらん嫌がらせを。あの女も、飽きないものだな」
そして、彼は、思いもよらないことを言った。
「俺も行く」
「えっ!?」
「グレンデル山脈の辺りは、盗賊が多い。お前たちだけでは危険だ」
「で、でも、王子であるあなたが、そのような……」
「これは命令だ。……それに、お前の作るあの妙な菓子の新作、食いっぱぐれるのは癪だからな」
ぶっきらぼうな口調。
でも、その言葉には、紛れもない優しさが滲んでいた。
彼は、私たちを心配してくれているのだ。
こうして、私たちの甜菜探しの旅に、最強の護衛が加わることになった。
貧乏令嬢と、落ちぶれ商人と、呪われ王子。
奇妙な三人組の、時間との戦いが始まった。
――夜の闇を切り裂いて、私たちの馬車は、北へ向かって走り出した。
希望の光を、その手に掴むために。
工房で、私は腕を組んで考え込んでいた。
蜂蜜は、独特の風味が強すぎて、ショートケーキの繊細な味を邪魔してしまう。
果物の甘みだけでは、クリームやスポンジに必要な糖度が足りない。
前世の記憶を、必死に手繰り寄せる。
歴史、化学、農業……あらゆるジャンルの知識を総動員する。
「……そうだ!」
不意に、一つの単語が脳裏に閃いた。
「『甜菜(てんさい)』……!」
そう、ビートシュガー。
サトウキビから作る砂糖だけでなく、甜菜というカブのような見た目の根菜からも、砂糖は精製できるのだ。
むしろ、前世の日本では、甜菜から作られる砂糖の方が一般的だったはず。
「ギルさん! 甜菜という植物を知っていますか!? 見た目は赤カブのようで、根っこに強い甘みがあるはずです!」
興奮して尋ねる私に、ギルさんは眉をひそめた。
「てんさい……? 聞いたことねぇな。そんな都合のいい植物が、本当にあるのかい?」
「あります! 絶対にあります! 問題は、この世界のどこに生えているか、ですけど……」
ギルさんは、すぐに行動を開始してくれた。
彼の持つ商人のネットワークを駆使して、王都中の薬草師や植物学者に聞き込みを行なってくれたのだ。
時間は、刻一刻と過ぎていく。
パーティーまで、あと二日。
私たちの心は、焦りで焼け付くようだった。
そして、その日の夜。
ギルさんが、一冊の古い植物図鑑を抱えて、工房に飛び込んできた。
「あったぞ、リナお嬢! これじゃねぇか!?」
彼が指差したページには、見慣れない植物の絵が描かれていた。
その見た目は、確かに私が説明した甜菜によく似ている。
『シュガービート』
図鑑には、そう記されていた。
『王都の北、グレンデル山脈の麓に自生する。根に強い甘みを持つが、アクが強く、食用には向かないとされる』
「これだ……! これです、ギルさん!」
私は、思わず叫んでいた。
アクが強い、という記述も、前世の知識と一致する。
甜菜から砂糖を精製するには、特殊な工程でアク抜きをする必要があるのだ。
この世界の人々は、その方法を知らないから、食用に向かないと思い込んでいるに違いない。
「グレンデル山脈の麓……」
ギルさんは、地図を広げた。
「ここから馬車を飛ばしても、片道半日はかかるな……」
パーティーは、明後日の午後。
時間がない。
今から行って、収穫して、戻ってきて、そこから砂糖を精製して、ケーキを作る。
どう考えても、ギリギリだ。いや、間に合わないかもしれない。
「……でも、行くしかありません」
私は、覚悟を決めた。
「俺も行くぜ、お嬢」
ギルさんが、力強く頷く。
「夜通し馬車を走らせりゃ、なんとかなるかもしれねぇ!」
準備は、すぐに整った。
最小限の荷物と、収穫用の道具を馬車に積み込む。
まさに、出発しようとした、その時だった。
「――どこへ行く気だ」
聞き覚えのある、低く不機嫌な声。
工房の前に立っていたのは、夜の闇に溶け込むような、漆黒の姿――アレクシス様だった。
「アレクシス様……!」
「……何か、困っているようだな」
彼は、私たちのただならぬ様子を見て、全てを察したようだった。
事情を説明すると、彼はフンと鼻を鳴らした。
「……くだらん嫌がらせを。あの女も、飽きないものだな」
そして、彼は、思いもよらないことを言った。
「俺も行く」
「えっ!?」
「グレンデル山脈の辺りは、盗賊が多い。お前たちだけでは危険だ」
「で、でも、王子であるあなたが、そのような……」
「これは命令だ。……それに、お前の作るあの妙な菓子の新作、食いっぱぐれるのは癪だからな」
ぶっきらぼうな口調。
でも、その言葉には、紛れもない優しさが滲んでいた。
彼は、私たちを心配してくれているのだ。
こうして、私たちの甜菜探しの旅に、最強の護衛が加わることになった。
貧乏令嬢と、落ちぶれ商人と、呪われ王子。
奇妙な三人組の、時間との戦いが始まった。
――夜の闇を切り裂いて、私たちの馬車は、北へ向かって走り出した。
希望の光を、その手に掴むために。
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