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第18話:夜の襲撃と王子の剣
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王都への帰り道。
夜の帳が下り、辺りは深い闇に包まれていた。
馬車は、森の中の街道をひた走る。
「このペースなら、明日の朝には王都に着けそうだ」
御者台にいるギルさんが、後ろを振り返って言った。
私とアレクシス様は、馬車の中で揺られていた。
疲労からか、私はいつの間にか、うとうとと船を漕ぎ始めていた。
私の頭が、こくりこくりと揺れ、アレクシス様の肩に寄りかかってしまう。
ハッとして飛び起きると、アレクシス様は何も言わず、窓の外を見つめていた。
その横顔は、相変わらず無表情だったけれど、私を突き放そうとはしなかった。
その、穏やかな時間を引き裂いたのは、甲高い馬のいななきだった。
「ヒヒーン!!」
馬車が、急停車する。
その衝撃で、私は前のめりになった。
「どうしたんですか、ギルさん!?」
「……っち、面倒なことになったぜ」
ギルさんの、緊張した声。
馬車の外から、複数の男たちの、下品な笑い声が聞こえてきた。
「ヒヒヒ、止まりな! 金目のものを、全部置いていきな!」
――盗賊だ!
この辺りは、盗賊が多いとアレクシス様が言っていた通りだった。
まさか、本当に遭遇してしまうなんて。
「リナ、下がっていろ」
アレクシス様が、低い声で言った。
その赤い瞳は、獲物を前にした獣のように、鋭く光っている。
彼は、腰に差していた剣を、静かに抜いた。
月明かりに照らされたその刃は、恐ろしいほどに美しかった。
「あ、アレクシス様……!」
「言ったはずだ。お前たちだけでは危険だと」
彼は、私の不安を見透かしたように、フッと笑った。
その笑顔は、不思議なほどに、私を安心させた。
アレクシス様は、馬車の扉を開け、外へと躍り出た。
そこには、松明を手にした十数人の盗賊たちが、私たちを取り囲んでいた。
「なんだぁ、てめぇ。王子様のお成りか?」
「ひょろっちい体しやがって! 痛い目見ねぇうちに、金と女を置いてきな!」
盗賊たちは、アレクシス様が一人だと見て、完全に油断していた。
それが、彼らの運の尽きだった。
次の瞬間。
アレクシス様の姿が、ふっと消えた。
そう見えた。
実際には、常人には捉えられないほどの速さで、盗賊たちの中へ突っ込んでいったのだ。
「ぐはっ!?」
「ぎゃああ!」
閃光が走る。
悲鳴が上がる。
アレクシス様の剣は、まるで舞うように、盗賊たちを薙ぎ払っていく。
その剣技は、荒々しいようでいて、どこまでも洗練されていた。
無駄な動きが、一切ない。
私は、馬車の窓から、その光景を呆然と見つめていた。
これが、呪われ王子?
これが、いつもぶっきらぼうで、不器用な優しさを見せる、あの人?
まるで、別人だった。
圧倒的な、強さ。
それは、ただの王族が持つ力ではない。
幾多の修羅場をくぐり抜けてきた、戦士のそれだった。
数分も経たないうちに、全ての盗賊は地に伏していた。
アレクシス様は、剣についた血を払い、静かに鞘に納める。
その漆黒の衣は、返り血一つ浴びていなかった。
「……終わったぞ」
彼は、何事もなかったかのように、馬車に戻ってきた。
その顔には、疲れた様子も見られない。
「……すごい」
私が、かろうじて絞り出した言葉は、それだけだった。
「たいしたことはない」
彼は、ぶっきらぼうにそう答える。
でも、私は知ってしまった。
彼の、隠された本当の姿を。
彼が、ただの呪われた王子などではないということを。
そして、同時に、新たな疑問が湧き上がってきた。
なぜ、これほどの力を持つ彼が、今までその力を隠し、甘んじて“呪われ王子”と呼ばれていたのだろうか?
彼の抱える闇は、私が想像するよりも、ずっと深いのかもしれない。
夜の帳が下り、辺りは深い闇に包まれていた。
馬車は、森の中の街道をひた走る。
「このペースなら、明日の朝には王都に着けそうだ」
御者台にいるギルさんが、後ろを振り返って言った。
私とアレクシス様は、馬車の中で揺られていた。
疲労からか、私はいつの間にか、うとうとと船を漕ぎ始めていた。
私の頭が、こくりこくりと揺れ、アレクシス様の肩に寄りかかってしまう。
ハッとして飛び起きると、アレクシス様は何も言わず、窓の外を見つめていた。
その横顔は、相変わらず無表情だったけれど、私を突き放そうとはしなかった。
その、穏やかな時間を引き裂いたのは、甲高い馬のいななきだった。
「ヒヒーン!!」
馬車が、急停車する。
その衝撃で、私は前のめりになった。
「どうしたんですか、ギルさん!?」
「……っち、面倒なことになったぜ」
ギルさんの、緊張した声。
馬車の外から、複数の男たちの、下品な笑い声が聞こえてきた。
「ヒヒヒ、止まりな! 金目のものを、全部置いていきな!」
――盗賊だ!
この辺りは、盗賊が多いとアレクシス様が言っていた通りだった。
まさか、本当に遭遇してしまうなんて。
「リナ、下がっていろ」
アレクシス様が、低い声で言った。
その赤い瞳は、獲物を前にした獣のように、鋭く光っている。
彼は、腰に差していた剣を、静かに抜いた。
月明かりに照らされたその刃は、恐ろしいほどに美しかった。
「あ、アレクシス様……!」
「言ったはずだ。お前たちだけでは危険だと」
彼は、私の不安を見透かしたように、フッと笑った。
その笑顔は、不思議なほどに、私を安心させた。
アレクシス様は、馬車の扉を開け、外へと躍り出た。
そこには、松明を手にした十数人の盗賊たちが、私たちを取り囲んでいた。
「なんだぁ、てめぇ。王子様のお成りか?」
「ひょろっちい体しやがって! 痛い目見ねぇうちに、金と女を置いてきな!」
盗賊たちは、アレクシス様が一人だと見て、完全に油断していた。
それが、彼らの運の尽きだった。
次の瞬間。
アレクシス様の姿が、ふっと消えた。
そう見えた。
実際には、常人には捉えられないほどの速さで、盗賊たちの中へ突っ込んでいったのだ。
「ぐはっ!?」
「ぎゃああ!」
閃光が走る。
悲鳴が上がる。
アレクシス様の剣は、まるで舞うように、盗賊たちを薙ぎ払っていく。
その剣技は、荒々しいようでいて、どこまでも洗練されていた。
無駄な動きが、一切ない。
私は、馬車の窓から、その光景を呆然と見つめていた。
これが、呪われ王子?
これが、いつもぶっきらぼうで、不器用な優しさを見せる、あの人?
まるで、別人だった。
圧倒的な、強さ。
それは、ただの王族が持つ力ではない。
幾多の修羅場をくぐり抜けてきた、戦士のそれだった。
数分も経たないうちに、全ての盗賊は地に伏していた。
アレクシス様は、剣についた血を払い、静かに鞘に納める。
その漆黒の衣は、返り血一つ浴びていなかった。
「……終わったぞ」
彼は、何事もなかったかのように、馬車に戻ってきた。
その顔には、疲れた様子も見られない。
「……すごい」
私が、かろうじて絞り出した言葉は、それだけだった。
「たいしたことはない」
彼は、ぶっきらぼうにそう答える。
でも、私は知ってしまった。
彼の、隠された本当の姿を。
彼が、ただの呪われた王子などではないということを。
そして、同時に、新たな疑問が湧き上がってきた。
なぜ、これほどの力を持つ彼が、今までその力を隠し、甘んじて“呪われ王子”と呼ばれていたのだろうか?
彼の抱える闇は、私が想像するよりも、ずっと深いのかもしれない。
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