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第20話:王都への帰還と反撃の誓い
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夜が明け、私たちの馬車はついに王都の城門をくぐった。
パーティー当日だ。残された時間は、もう半日もない。
「リナお嬢! アレクシス様! お帰りなさい!」
工房の前では、ギルさんが今か今かと待ち構えていた。
彼は、徹夜で砂糖の精製に必要な道具を準備してくれていたのだ。
「ギルさん、ありがとうございます! さあ、始めましょう!」
私たちは、休む間もなく工房に飛び込んだ。
ここからは、時間との勝負だ。
まず、大量の甜菜を洗い、細かく刻む。
それを大きな鍋で煮詰め、甘い汁を抽出する。
この世界の人間が「アク」と呼んでいた不純物を、前世の知識――石灰を少量加えることで沈殿させ、取り除く。
最後に、その汁をさらに煮詰めて、結晶化させる。
その工程は、まさに化学実験だった。
温度管理、材料の配分、そのどれか一つでも間違えれば、全てが台無しになる。
「リナお嬢、温度が上がりすぎだ!」
「ギルさん、そっちの攪拌、もっと速く!」
工房の中は、甘い香りと、私たちの怒号にも似た声で満ち満ちていた。
アレクシス様も、文句一つ言わず、力仕事を進んで手伝ってくれた。
薪を割り、重い鍋を運ぶ彼の姿は、とても王子とは思えなかったが、その背中は誰よりも頼もしかった。
そして、パーティーが始まるわずか一時間前。
ついに、私たちは純白の砂糖を、精製することに成功した。
「できた……! できました、ギルさん、アレクシス様!」
キラキラと輝く、美しい砂糖の結晶。
それは、私たちの汗と、涙と、そして希望の結晶だった。
「すげぇ……本当に、カブから砂糖が……」
ギルさんは、感動で声を震わせている。
アレクシス様も、その白い粉を指先につまみ、興味深そうに眺めていた。
「さあ、ここからが本番です! 史上最高のケーキを作りますよ!」
私は、新たに作り出した砂糖を使って、猛スピードでケーキ作りを開始した。
スポンジを焼き、クリームを泡立て、苺を飾る。
もう、何度も繰り返してきた作業だ。迷いはない。
私たちの手によって、次々と『宝石のショートケーキ』が完成していく。
その美しさと、芳醇な香りは、以前作ったものを遥かに凌駕していた。
「よし、完成だ! ギルさん、これを王妃様のパーティー会場へ!」
「おう、任せとけ!」
ギルさんが、出来上がったケーキを慎重に馬車に運び込む。
それを見送りながら、私は大きく息を吐いた。
「……間に合った」
隣に立つアレクシス様の方を見ると、彼は私の顔をじっと見つめていた。
その赤い瞳には、いつものような険しさはなく、どこまでも穏やかな光が宿っていた。
「……よくやったな、リナ」
不意に、彼が私の頭に、ぽん、と手を置いた。
大きな、ごつごつした手。でも、とても優しい手つきだった。
「……っ!」
顔が、カッと熱くなる。
心臓が、飛び出しそうなくらい、うるさく鳴っている。
「あ、ありがとうございます……」
そう言うのが、精一杯だった。
私たちの、ささやかな勝利。
しかし、これで終わりではない。
これは、イザベラ様たちへの、反撃の狼煙だ。
「アレクシス様」
私は、顔を上げて、彼をまっすぐに見つめた。
「パーティーが終わったら、次の計画を立てましょう。『真実の月の涙』を手に入れるための、計画を」
私の言葉に、アレクシス様は、力強く頷いた。
その瞳には、もはや諦めの色はない。
あるのは、運命に立ち向かう、強い決意だけだった。
ガーデンパーティーでの、私たちのケーキの評判は、言うまでもない。
砂糖を独占されたはずのアシュリー商会が、なぜか見たこともないような素晴らしいケーキを出してきた。
そのニュースは、パーティーの話題を独占し、イザベラ様の顔に泥を塗る結果となった。
ざまぁみろ、と心の中で快哉を叫ぶ。
しかし、本当の戦いは、これからだ。
――王家の禁書庫。そこに眠る秘宝を、私たちは必ず手に入れてみせる。
愛する人の、呪われた運命を、この手で変えるために。
パーティー当日だ。残された時間は、もう半日もない。
「リナお嬢! アレクシス様! お帰りなさい!」
工房の前では、ギルさんが今か今かと待ち構えていた。
彼は、徹夜で砂糖の精製に必要な道具を準備してくれていたのだ。
「ギルさん、ありがとうございます! さあ、始めましょう!」
私たちは、休む間もなく工房に飛び込んだ。
ここからは、時間との勝負だ。
まず、大量の甜菜を洗い、細かく刻む。
それを大きな鍋で煮詰め、甘い汁を抽出する。
この世界の人間が「アク」と呼んでいた不純物を、前世の知識――石灰を少量加えることで沈殿させ、取り除く。
最後に、その汁をさらに煮詰めて、結晶化させる。
その工程は、まさに化学実験だった。
温度管理、材料の配分、そのどれか一つでも間違えれば、全てが台無しになる。
「リナお嬢、温度が上がりすぎだ!」
「ギルさん、そっちの攪拌、もっと速く!」
工房の中は、甘い香りと、私たちの怒号にも似た声で満ち満ちていた。
アレクシス様も、文句一つ言わず、力仕事を進んで手伝ってくれた。
薪を割り、重い鍋を運ぶ彼の姿は、とても王子とは思えなかったが、その背中は誰よりも頼もしかった。
そして、パーティーが始まるわずか一時間前。
ついに、私たちは純白の砂糖を、精製することに成功した。
「できた……! できました、ギルさん、アレクシス様!」
キラキラと輝く、美しい砂糖の結晶。
それは、私たちの汗と、涙と、そして希望の結晶だった。
「すげぇ……本当に、カブから砂糖が……」
ギルさんは、感動で声を震わせている。
アレクシス様も、その白い粉を指先につまみ、興味深そうに眺めていた。
「さあ、ここからが本番です! 史上最高のケーキを作りますよ!」
私は、新たに作り出した砂糖を使って、猛スピードでケーキ作りを開始した。
スポンジを焼き、クリームを泡立て、苺を飾る。
もう、何度も繰り返してきた作業だ。迷いはない。
私たちの手によって、次々と『宝石のショートケーキ』が完成していく。
その美しさと、芳醇な香りは、以前作ったものを遥かに凌駕していた。
「よし、完成だ! ギルさん、これを王妃様のパーティー会場へ!」
「おう、任せとけ!」
ギルさんが、出来上がったケーキを慎重に馬車に運び込む。
それを見送りながら、私は大きく息を吐いた。
「……間に合った」
隣に立つアレクシス様の方を見ると、彼は私の顔をじっと見つめていた。
その赤い瞳には、いつものような険しさはなく、どこまでも穏やかな光が宿っていた。
「……よくやったな、リナ」
不意に、彼が私の頭に、ぽん、と手を置いた。
大きな、ごつごつした手。でも、とても優しい手つきだった。
「……っ!」
顔が、カッと熱くなる。
心臓が、飛び出しそうなくらい、うるさく鳴っている。
「あ、ありがとうございます……」
そう言うのが、精一杯だった。
私たちの、ささやかな勝利。
しかし、これで終わりではない。
これは、イザベラ様たちへの、反撃の狼煙だ。
「アレクシス様」
私は、顔を上げて、彼をまっすぐに見つめた。
「パーティーが終わったら、次の計画を立てましょう。『真実の月の涙』を手に入れるための、計画を」
私の言葉に、アレクシス様は、力強く頷いた。
その瞳には、もはや諦めの色はない。
あるのは、運命に立ち向かう、強い決意だけだった。
ガーデンパーティーでの、私たちのケーキの評判は、言うまでもない。
砂糖を独占されたはずのアシュリー商会が、なぜか見たこともないような素晴らしいケーキを出してきた。
そのニュースは、パーティーの話題を独占し、イザベラ様の顔に泥を塗る結果となった。
ざまぁみろ、と心の中で快哉を叫ぶ。
しかし、本当の戦いは、これからだ。
――王家の禁書庫。そこに眠る秘宝を、私たちは必ず手に入れてみせる。
愛する人の、呪われた運命を、この手で変えるために。
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