偽聖女と蔑まれた私、実は【魔力鑑定EX】の持ち主でした~追放先で出会った無愛想な公爵様に見初められ、今更帰ってきて言われてももう遅いです

放浪人

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第6話:初めての笑顔と、不穏な影

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カイ様の魔力制御訓練が始まって、一週間が過ぎた。
私たちの毎日は、地道なことの繰り返しだった。

朝、執務室で魔力制御の基礎訓練。
私が彼の魔力の流れを「視て」、問題点を指摘する。
カイ様は、私の指示に従って、血の滲むような練習を繰り返す。

最初はぎこちなかった彼の魔力操作も、日を追うごとに、驚くべき速度で上達していった。
暴れ狂う激流のようだった魔力は、次第に、雄大な大河のように、彼の意のままに流れるようになってきている。

「カイ様、素晴らしいですわ! 今の流れ、完璧でした!」

その日、カイ様はついに、訓練用の人形を傷つけることなく、その表面だけに、髪の毛一本ほどの薄さの、均一な氷の膜を張ることに成功した。
今までは、力が強すぎて、人形ごと粉々に凍らせてしまっていたのだ。

私の心からの称賛の言葉に、カイ様は一瞬、きょとんとした顔をした。
そして――。

ふ、と。

本当に、ほんのわずかに。
彼の、常に真一文字に結ばれていた口元が、綻んだ。

「……!」

私は、息を呑んだ。

笑った。

あの、氷の公爵様が。

それは、大輪の花が咲き誇るような、派手な笑顔ではなかった。
長く厳しい冬が終わり、固く閉ざされた大地から、ようやく顔を出した新芽のような。
雪解け水が、春の陽光を浴びて、きらりと輝いたような。
そんな、ささやかで、けれど、胸の奥がじんわりと温かくなるような、微笑みだった。

「……お前の、指導が良いからだ」

彼はすぐにいつもの無表情に戻ってしまったけれど、その声は、心なしか弾んでいるように聞こえた。
私の胸が、とくん、と大きく高鳴る。
嬉しい。心の底から、そう思った。
彼が、私を認めてくれた。彼の役に立てた。
その事実が、追放されて以来、ささくれ立っていた私の心を、優しく、優しく温めてくれるようだった。

「そ、そんなことは……カイ様の、血の滲むような努力の賜物ですわ」

照れくさくて俯くと、カイ様は私の頭に、ぽん、と大きな手を置いた。
その手は、もう以前のように冷たくはなかった。温かい、優しい手だった。

「……ありがとう、アリア」

初めて、名前を呼ばれた。
様も、付けずに。

顔が、熱い。
きっと、林檎のように真っ赤になっているに違いない。
彼に見られたくなくて、ますます顔を上げられないでいると、その時だった。

私たちの間に流れ始めた、少しだけ甘い空気を破ったのは、控えめなノックの音だった。

「公爵様、失礼いたします」

入ってきたのは、カイ様の側近であり、この城の執事を務める初老の男性、ゼバスさんだった。
彼はいつも穏やかな笑みを絶やさない、優しい人だ。

「おお、これはアリア様もご一緒に。訓練、順調そうで何よりですな」

「ゼバス。何か急用か?」

「は。南のミルン村から、早馬が。……どうやら、***ミルン大森林の魔物が、活発化している***ようでございます」

ゼバスさんの言葉に、カイ様の表情が、すっと険しいものに変わる。
ミルン大森林は、このヴォルフガント領の南に広がる、広大な魔の森。
通常でも、危険な魔物が多数生息している場所だ。

「……またか。被害は出ているのか?」

「今のところ、村への直接的な被害はございません。ですが、森へ薬草採りに入った猟師が、数名、戻ってきていないとのことで……」

「……分かった。すぐに向かう。出立の準備をさせろ」

カイ様は即座に決断を下す。
その横顔は、もう先ほどまでの穏やかな青年ではなく、領地と民を守る、孤高の領主の顔に戻っていた。

「アリア、お前は城で待っていろ。危険だ」

「いいえ、私も参ります」

私は、きっぱりと答えた。

「え……!? し、しかし、アリア様、森はあまりにも危険ですぞ!」

ゼバスさんが、慌てて私を止めようとする。

「私の力があれば、魔物の気配をより正確に察知できるはずです。森の中の、魔力の澱みや異常を、遠くからでも見つけられますわ。猟師の方々を探すのにも、必ず役立ちます」

私の【魔力鑑定EX】は、人の魔力だけでなく、自然界に存在する魔力の流れも視ることができる。
魔物が活発化しているのなら、森の魔力そのものに、何らかの異常が発生している可能性が高い。

「足手まといには、決してなりません。いえ、必ずやお役に立ってみせますわ」

私は、カイ様の青い瞳を、真っ直ぐに見つめた。
ただ守られるだけのか弱い存在ではないと、私の覚悟を、確かめてほしかった。

カイ様はしばらくの間、黙って私を見つめていた。
その瞳の奥で、様々な感情が揺れ動いているのが分かった。
心配、躊躇い、そして、私への信頼。

やがて、彼は小さく、けれど深く、息を吐いた。

「……分かった。だが、条件がある」

「はい」

「決して、俺の側から離れるな。一歩たりともだ」

それは、命令であり、そして、どこか懇願のようにも聞こえた。

「はい! お約束しますわ!」

「それと、これを着ていけ」

カイ様が私に差し出したのは、上質な革で作られた、動きやすい乗馬服と、体を守るための軽量なミスリル銀の胸当てだった。
それは、まるで最初から、私が同行することを見越していたかのような、完璧な準備だった。

この人は、いつもそうだ。
口ではぶっきらぼうなことを言うけれど、その行動は、いつも私を深く、深く気遣ってくれている。
その不器用な優しさが、少しだけ、くすぐったかった。

これから向かう、危険な魔の森。
そこに待ち受ける脅威への恐怖よりも、彼の隣に立ち、共に戦えるという高揚感の方が、私の心の中では、遥かに、遥かに勝っていた。
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