追放された悪役令嬢は、氷の辺境伯に何故か過保護に娶られました ~今更ですが、この温もりは手放せません!?~

放浪人

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第一幕:虚飾の檻、苦悩の日々

第2話: 過去の残響

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自室に軟禁されてから数日が過ぎた。窓の外からは、小鳥のさえずりや庭師たちの話し声が微かに聞こえてくるが、私の部屋は墓場のような静寂に包まれている。食事は日に三度、無言の侍女によって運ばれてくるだけ。かつては華やかだった部屋も、今は色褪せた牢獄のように感じられた。

(いつから、こうなってしまったのだろう……)

ぼんやりと天井を眺めながら、私は過去を反芻する。ヴァレリウス公爵家の一人娘として生まれた私は、幼い頃はそれなりに愛情を受けて育ったはずだった。しかし、実母が病で亡くなり、新たな母としてエラーラ様が、そしてその連れ子であるイゾルデが屋敷に来てから、全てが変わった。

エラーラ様は、表向きは私に優しく接したが、その瞳の奥には常に冷たい光が宿っていた。そしてイゾルデ。天使のような愛らしい容姿と、巧みな甘え上手で、あっという間に父や周囲の人々の心を掴んでいった。最初は、私も妹ができたことを素直に喜んでいた。だが、イゾルデは私のものを何でも欲しがり、手に入らないと泣き喚き、周囲の同情を買った。私が大切にしていた人形、母の形見の宝石、そして、いつしか婚約者であるアラリック王子の関心までも。

些細な出来事が積み重なり、いつの間にか私は「我儘で嫉妬深い姉」、イゾルデは「心優しく虐げられる妹」という構図が出来上がっていた。私が何か意見を言えば「イゾルデをいじめている」と曲解され、黙っていれば「反省していない」と責められた。アラリック王子も、最初は私の言葉を信じようとしてくれたこともあった。しかし、イゾルデの涙と巧みな嘘の前に、次第に私への不信感を募らせていったのだ。

「お嬢様、お加減はいかがですか?」

そっと部屋に入ってきたのは、侍女のアーニャだった。彼女だけは、昔から変わらず私に仕え、私の味方でいてくれる唯一の存在だ。

「アーニャ……ありがとう。私は大丈夫よ」

「大丈夫だなんて、そんな顔色で仰らないでくださいまし。何か、私にできることはございませんか?」

アーニャの優しい言葉に、張り詰めていたものが切れそうになる。だが、ここで泣き崩れるわけにはいかない。私は、ヴァレリウス公爵家の令嬢としての矜持を、まだ捨ててはいなかった。

「ううん、大丈夫。ただ、少し疲れただけよ」

「……旦那様は、お嬢様のことを見捨てたりはなさいませんよね?」

不安げに尋ねるアーニャに、私は曖昧に微笑むしかなかった。父ヴァレリウス公爵は、厳格で感情を表に出さない人だ。彼が私のことをどう思っているのか、私にはもう分からなかった。ただ、彼が公爵家の体面を何よりも重んじることだけは確かだった。そして、今の私は、その体面に泥を塗る存在でしかない。

(きっと、私はどこか遠くへ追いやられるのだろう)

それが、最も現実的な結末のように思えた。そして、その予感は、思ったよりも早く現実のものとなるのだった。
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