追放された悪役令嬢は、氷の辺境伯に何故か過保護に娶られました ~今更ですが、この温もりは手放せません!?~

放浪人

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第一幕:虚飾の檻、苦悩の日々

第1話:不正な断罪

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「セラフィナ・フォン・ヴァレリウス! 貴様との婚約を、今この場を以て破棄する!」

玉座の間に響き渡ったのは、かつて私の婚約者であったアラリック王子の、氷のように冷たい声だった。金色の髪を揺らし、青い瞳に怒りを湛えた彼が指さす先には、震える異母妹イゾルデの姿。ああ、またか。また、この茶番が繰り返されるのか。

「イゾルデに数々の嫌がらせを行い、あまつさえ毒を盛ろうとしたなど、万死に値する! 悪役令嬢め!」

悪役令嬢。その言葉が、まるで呪いのように私にまとわりつく。いつからだろうか。私が何をしても、何を言っても、全てが悪意に満ちたものとして解釈されるようになったのは。イゾルデが我が家に引き取られてから、私の人生は少しずつ、しかし確実に狂っていった。

「お待ちください、アラリック殿下。それは誤解ですわ。お姉様がそのようなことをなさるはずが……」

か弱い声で庇うように見せかけて、イゾルデは私を一瞥し、唇の端に微かな笑みを浮かべた。その瞬間、私は悟った。全ては彼女の筋書き通りなのだと。周囲の貴族たちは、憐れむような、あるいは軽蔑するような視線を私に投げかける。父ヴァレリウス公爵は苦虫を噛み潰したような顔で黙り込み、継母であるエラーラ様は扇で顔を隠し、イゾルデを心配する素振りを見せている。誰も、私の言葉に耳を貸そうとはしない。

「誤解だと? これだけの証拠が揃っているというのに!」

アラリック王子が突き出したのは、私の部屋から見つかったという小瓶と、イゾルデの侍女の震える証言だった。あまりにも出来すぎた証拠に、私はもはや反論する気力すら失っていた。私の侍女アーニャだけが、青ざめた顔で私を見つめ、小さく首を横に振っている。彼女だけは、私の無実を信じてくれているのだろう。

「セラフィナ嬢、何か申し開きはあるかな?」

国王陛下が重々しく口を開いたが、その声色には既に諦観が滲んでいた。私はゆっくりと首を横に振る。何を言っても無駄なのだ。この場は、私を断罪するために用意された舞台なのだから。

「……ございません」

絞り出した声は、自分でも驚くほどか細かった。悔しさよりも、深い疲労感が私を包んでいた。もう、疲れた。この虚飾に満ちた王宮で、悪役令嬢を演じ続けることに。

「よろしい。ヴァレリウス公爵、セラフィナ嬢の処遇については、追って沙汰する。それまで、自室にて謹慎させておけ」

「はっ」

父の短い返事と共に、私の断罪劇は幕を閉じた。衛兵に両脇を固められ、引きずられるように玉座の間を後にする。最後に見たアラリック王子の顔は、憎しみと軽蔑に歪んでいた。そして、イゾルデは、勝利を確信した笑みを浮かべていた。

(ああ、これでようやく、この息苦しい場所から解放されるのかもしれない)

皮肉にも、そんな考えが頭をよぎった。悪役令嬢セラフィナの物語は、こうして一つの区切りを迎えたのだ。もっとも、それは更なる不遇の始まりに過ぎなかったのだが。
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