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第一幕:虚飾の檻、苦悩の日々
第3話:裏切りの萌芽
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軟禁生活が始まって一週間が経った頃、父ヴァレリウス公爵が私の部屋を訪れた。いつものように厳しい表情を崩さず、彼は私に一枚の羊皮紙を突きつけた。
「これを読め」
低い声で命じられ、私は震える手でそれを受け取った。そこに書かれていたのは、国王陛下からの沙汰だった。
『セラフィナ・フォン・ヴァレリウスを、北方の辺境伯カシアン・グレイウォール卿に嫁がせるものとする』
カシアン・グレイウォール。その名を聞いた瞬間、私の背筋を冷たいものが走った。彼は「氷の辺境伯」と噂される人物で、冷酷無比、戦場では鬼神の如き強さを誇るが、その私生活は謎に包まれている。何よりも、彼の領地は王都から遠く離れた、一年中雪に閉ざされると言われる厳しい土地だ。これは、事実上の追放だった。
「……これが、陛下の決定ですか」
「そうだ。ヴァレリウス家の面目を保つためには、これしかない」
父の言葉には、一片の情も感じられなかった。彼はただ、厄介払いができることに安堵しているようにさえ見えた。
「イゾルデは……アラリック殿下との婚約が決まったそうですわね」
私の言葉に、父は僅かに眉をひそめた。
「それがどうした。お前にはもう関係のないことだ」
「……そう、ですわね」
やはり、全てはイゾルデの筋書き通りだったのだ。私を追い落とし、王子の婚約者の座を手に入れる。そのために、どれほどの嘘と策略を巡らせたのだろうか。そして、父も継母も、その茶番に加担した、あるいは見て見ぬふりをしたのだ。
「カシアン卿は、お前を正妻として迎えると言っている。これ以上の寛大な処置はないと思え。グレイウォール家は、古くから王家に仕える名門だ。辺境とはいえ、その力は侮れん」
父は、まるでそれが私にとってどれほど幸運なことであるかのように語った。だが、私には分かっていた。これは、私という「汚点」を、できるだけ遠くへ、そして影響力のある家の監視下に置くための措置なのだと。
「出発は三日後だ。それまでに、身の回りのものをまとめておけ」
それだけを言い残し、父は足早に部屋を去っていった。まるで、一刻も早く私と顔を合わせたくないというように。
一人残された部屋で、私は力なくベッドに座り込んだ。涙は出なかった。ただ、心の奥底から、冷たい怒りのようなものが湧き上がってくるのを感じた。家族からの裏切り。それは、どんな断罪よりも深く私を傷つけた。
(もう、誰にも期待しない)
そう、心に誓った。辺境の地で、氷の辺境伯の妻として生きる。それが、私に与えられた新たな運命。ならば、それを受け入れよう。そして、いつか必ず、私を陥れた者たちに、この屈辱を思い知らせてやるのだ。そんな、か細い復讐心が、絶望の淵にいた私の唯一の支えとなった。
「これを読め」
低い声で命じられ、私は震える手でそれを受け取った。そこに書かれていたのは、国王陛下からの沙汰だった。
『セラフィナ・フォン・ヴァレリウスを、北方の辺境伯カシアン・グレイウォール卿に嫁がせるものとする』
カシアン・グレイウォール。その名を聞いた瞬間、私の背筋を冷たいものが走った。彼は「氷の辺境伯」と噂される人物で、冷酷無比、戦場では鬼神の如き強さを誇るが、その私生活は謎に包まれている。何よりも、彼の領地は王都から遠く離れた、一年中雪に閉ざされると言われる厳しい土地だ。これは、事実上の追放だった。
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「イゾルデは……アラリック殿下との婚約が決まったそうですわね」
私の言葉に、父は僅かに眉をひそめた。
「それがどうした。お前にはもう関係のないことだ」
「……そう、ですわね」
やはり、全てはイゾルデの筋書き通りだったのだ。私を追い落とし、王子の婚約者の座を手に入れる。そのために、どれほどの嘘と策略を巡らせたのだろうか。そして、父も継母も、その茶番に加担した、あるいは見て見ぬふりをしたのだ。
「カシアン卿は、お前を正妻として迎えると言っている。これ以上の寛大な処置はないと思え。グレイウォール家は、古くから王家に仕える名門だ。辺境とはいえ、その力は侮れん」
父は、まるでそれが私にとってどれほど幸運なことであるかのように語った。だが、私には分かっていた。これは、私という「汚点」を、できるだけ遠くへ、そして影響力のある家の監視下に置くための措置なのだと。
「出発は三日後だ。それまでに、身の回りのものをまとめておけ」
それだけを言い残し、父は足早に部屋を去っていった。まるで、一刻も早く私と顔を合わせたくないというように。
一人残された部屋で、私は力なくベッドに座り込んだ。涙は出なかった。ただ、心の奥底から、冷たい怒りのようなものが湧き上がってくるのを感じた。家族からの裏切り。それは、どんな断罪よりも深く私を傷つけた。
(もう、誰にも期待しない)
そう、心に誓った。辺境の地で、氷の辺境伯の妻として生きる。それが、私に与えられた新たな運命。ならば、それを受け入れよう。そして、いつか必ず、私を陥れた者たちに、この屈辱を思い知らせてやるのだ。そんな、か細い復讐心が、絶望の淵にいた私の唯一の支えとなった。
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