追放された悪役令嬢は、氷の辺境伯に何故か過保護に娶られました ~今更ですが、この温もりは手放せません!?~

放浪人

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第一幕:虚飾の檻、苦悩の日々

第4話:偽りの重荷と孤立

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辺境への出発の日が近づくにつれ、屋敷の中での私の立場はますます孤立したものとなっていった。使用人たちは私を遠巻きにし、あからさまな軽蔑の視線を向ける者もいた。かつては親しく言葉を交わした侍女たちも、今は私を避けるように通り過ぎていく。まるで、私が何か汚らわしい病気にでもかかったかのように。

「お嬢様、お辛いでしょうが、どうか気を確かに……」

アーニャだけは変わらず私の世話を焼き、慰めの言葉をかけてくれた。彼女の存在がなければ、私はとっくに心の均衡を失っていたかもしれない。

「ありがとう、アーニャ。あなたがいるだけで、私は救われるわ」

「勿体ないお言葉です。私は、お嬢様が無実だと信じております。いつか必ず、真実が明らかになる日が参りますわ」

アーニャの言葉は心強かったが、今の私には、その「いつか」が永遠に訪れないように思えた。

出発の前日、私は荷物をまとめるために自室の整理をしていた。幼い頃からの思い出の品々。その一つ一つが、かつての幸せだった日々を蘇らせ、胸を締め付ける。母の形見のネックレス、初めて刺繍したハンカチ、アラリック王子から贈られた小さなオルゴール……。

(もう、これらも必要ないわね)

私は、それらを無造作に箱に詰めた。過去への未練を断ち切るように。

その時、部屋の扉がノックされ、入ってきたのは継母のエラーラ様だった。彼女はいつものように優雅な微笑みを浮かべていたが、その目には冷ややかな光が宿っていた。

「セラフィナ、準備は進んでいるかしら?」

「……はい、おかげさまで」

「そう。カシアン様は、それはそれはお優しい方だと聞いているわ。あなたも、新しい土地で幸せになれるといいわね」

その言葉は、あまりにも白々しく響いた。彼女が私の幸せなど願っているはずがない。むしろ、私の不幸を喜んでいるのだろう。

「……ありがとうございます、エラーラ様」

私は感情を押し殺し、型通りの返事をした。彼女とこれ以上言葉を交わしたくなかった。

「ああ、それから、イゾルデがあなたに会いたがっていたのだけれど……あの子は今、アラリック殿下との婚約の準備で忙しくて。残念だわ」

その言葉に、私は思わず顔を上げた。イゾルデが、私に? 何の冗談だろうか。

「……そうですか」

「ええ。あの子は本当に心優しい子だから、あなたのことを心配していたのよ。まあ、あなたがもう少し素直だったら、こんなことにはならなかったのかもしれないけれど」

エラーラ様は、まるで全てが私の責任であるかのように言い放ち、ため息をついた。その偽善的な態度に、私は吐き気すら覚えた。

「では、私はこれで。道中、気をつけてね」

優雅な仕草で部屋を後にするエラーラ様の後ろ姿を見送りながら、私は固く拳を握りしめた。この屈辱を、決して忘れない。いつか必ず、あなたたちの偽りの仮面を剥ぎ取ってみせる。

その夜、私はほとんど眠ることができなかった。明日からの新しい生活への不安と、過去への怒りが入り混じり、心をかき乱した。しかし、不思議と絶望感はなかった。むしろ、この偽りに満ちた屋敷から離れられることに、僅かな解放感すら覚えていた。
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