追放された悪役令嬢は、氷の辺境伯に何故か過保護に娶られました ~今更ですが、この温もりは手放せません!?~

放浪人

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第二幕:霜降る大地に咲く希望の蕾

第8話:氷の城の住人たち

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翌朝、私はエルザに案内され、城の大広間に集められた家臣たちの前に立った。広間には数十人の男女が整列しており、その誰もが私を興味深げな、あるいは敵意のこもった目で見つめている。まるで、珍しい獣でも見るかのように。

「皆の者、こちらがセラフィナ様だ。本日より、このグレイロック城の奥方となられる」

カシアン様が低い声で紹介すると、家臣たちは一斉に頭を下げた。しかし、その動作はどこかぎこちなく、心からの敬意が込められているようには感じられなかった。

「セラフィナ・フォン・ヴァレリウスです。至らぬ点も多いかと存じますが、どうぞよろしくお願いいたします」

私も貴族の令嬢としての務めとして、優雅に微笑み、挨拶を述べた。しかし、その言葉が彼らに届いているのかどうか、定かではなかった。

家臣たちの紹介が一通り終わると、カシアン様は私に城内を案内すると言った。エルザではなく、彼自身が、だ。少し意外に思ったが、断る理由もない。

「この城は古い。迷わぬよう、よく見ておくことだ」

ぶっきらぼうな口調だったが、その言葉には僅かな配慮が感じられたような気がした。

カシアン様に連れられて、私は城の様々な場所を見て回った。書庫、練兵場、厩舎、厨房、そして、城壁の上。どこもかしこも、王都の華やかな城とは全く異なり、実用性だけを追求したような造りだった。しかし、そこには確かな生活の匂いがあり、この厳しい土地で生きる人々の力強さが感じられた。

「……素晴らしい眺めですわね」

城壁の上から見渡す景色は、まさに絶景だった。雪を頂いた黒曜石のような峰々がどこまでも連なり、その麓には針葉樹の森が広がっている。空気は澄み渡り、深呼吸をすると肺が洗われるような気がした。

「冬は、全てが雪に閉ざされる」

隣に立つカシアン様が、ぽつりと言った。

「厳しい土地ですのね」

「ああ。だが、美しい」

彼の横顔を盗み見ると、その灰色の瞳が、遠くの山々をどこか愛おしげに見つめているように見えた。この冷酷と噂される男も、故郷を愛する心を持っているのだろうか。

城内を案内されながら、私はカシアン様の側近や主要な家臣たちとも言葉を交わした。騎士団長のライナス卿は、カシアン様と同じように無口で厳格な男だったが、その瞳の奥には忠誠心が宿っているのが分かった。宰相のアルマン老は、穏やかで知的な印象で、私に対しても比較的丁寧に接してくれた。

しかし、多くの家臣たちは、やはり私に対して警戒心を解いていないようだった。特に、女性の家臣たちの中には、私を敵視するような視線を向けてくる者もいた。おそらく、彼女たちの中には、カシアン様の寵愛を望んでいた者もいたのだろう。そんな中に、突然現れた王都育ちの公爵令嬢。邪魔者以外の何者でもないのかもしれない。

(前途多難、というわけね)

私は心の中でため息をついた。この氷の城で、私が受け入れられる日は来るのだろうか。そして、この氷の辺境伯の心を、少しでも溶かすことができるのだろうか。それは、あまりにも困難な道のりのように思えた。
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