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第14話:王都への道と、募る想い
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王都への道は、来た時とは比べ物にならないほど、長く、そして辛いものだった。
罪人用の、窓もない護送用の馬車に押し込められ、私はただ、揺れに耐えるしかなかった。
自由など、どこにもない。
護衛の騎士たちは、私を人間として扱わなかった。
食事は、日に一度、硬い黒パンと水だけが、無造作に放り込まれる。
彼らが交わす会話の端々から、「偽聖女」「公爵様を誑かした女狐」といった侮蔑の言葉が、容赦なく私の耳に突き刺さった。
そして、私の隣を馬で並走するイザベラは、ことあるごとに私に嫌味を言ってくる。
休憩のたびに、わざわざ馬車の小窓を開けて、私の顔を覗き込み、嘲笑を浮かべるのだ。
「あなたみたいな偽物が、アレクシス公爵のような気高い方を誑かすなんて、本当に万死に値するわ」
「その力は、アルフォンス王太子殿下と、この国のために捧げるものよ。勘違いしないでちょうだいね」
その言葉の数々を、私はただ、感情を殺して黙って聞き流していた。
反論する気力もなかったし、彼女の目的が私の力を利用することである以上、下手に刺激して、アレクシス様に更なる危害が及ぶのだけは、避けたかったからだ。
私の心は、ずっと、ずっと、辺境の地に残してきた彼のことでいっぱいだった。
(アレクシス様、今頃どうしているだろう……)
(ちゃんと、食事はとっているかな……)
私が去った後、あの荒れ果てた大地は、どうなってしまうのだろうか。
私がそばにいなければ、また元の、あの生命の気配のない、死んだ土地に戻ってしまうのではないだろうか。
そうなれば、彼の呪いの苦痛も、また酷くなってしまうかもしれない。
あの、地獄のような夜が、また彼を襲うのかもしれない。
そう思うと、胸が締め付けられるように痛んだ。
私が彼を守るために選んだこの道は、結果的に、彼をさらに苦しめることになっているのではないか。
その矛盾が、重い鎖のように、私を苛む。
でも、後悔はしていない。
あのまま抵抗していれば、もっと最悪の事態になっていたはずだ。
彼が王家と戦い、血を流す姿なんて、絶対に見たくない。
(私が、強くならなくちゃ)
今は耐える時だ。
イザベラの言う通り、私の力が必要だというのなら、それを逆手に取ってやればいい。
王都で力を示し、発言権を得て、そして必ず、彼の元へ帰るための道筋を、この手で作る。
「……何を考えているのか知らないけれど、無駄なことは考えない方が身のためよ」
私の考えを見透かしたように、イザベラの冷たい声が、再び小窓から投げかけられた。
「あなたは、私たちの言う通りに、大人しく力を提供していればいいの。そうすれば、辺境の公爵様の身の安全も、保証してあげなくもないわ」
それは、紛れもない脅迫だった。
アレクシス様の命を、彼の領民たちの命を、人質に取られているのと同じだ。
「……承知しています」
私は、全ての感情を心の奥底に沈めて、そう答えた。
数日後、見慣れた王都の高い城壁が、馬車の隙間から見えてきた。
活気に満ちた街並み。
ついこの間まで、私が絶望の中で彷徨っていた場所。
でも、今はもう、あの頃の私ではない。
私には、帰る場所がある。
待っていてくれる人がいる。
その想いだけが、私を支える、唯一の、か細い光だった。
(アレクシス様……)
心の中で、彼の名前を呼ぶ。
触れることさえ許されない、不器用で、孤独で、優しい人。
あなたのその孤独を、私が終わらせるんだ。
必ず。
馬車は王宮の門をくぐり、中庭で乱暴に止められた。
外に引きずり出された私を待っていたのは、勝ち誇ったような、歪んだ笑みを浮かべるアルフォンス王太子だった。
「よくやった、イザベラ。そして、ご苦労だったな、偽聖女リリアーナ」
王太子は、私を汚物でも見るかのような目で一瞥すると、騎士たちに顎でしゃくって命じた。
「この女を、地下の部屋へ連れて行け。逃げ出さぬよう、厳重に見張っておけよ」
「お待ちください、王太子殿下!」
イザベラが、慌てたように声を上げた。
「リリアーナは、客人としてもてなすべきです。彼女の力が必要なのでしょう?」
「フン、偽物に客人の資格などないわ。それに、少し灸を据えてやらねば、自分がどんな惨めな立場か忘れそうだからな。力の使い方は、その後で考えればいい」
王太子の冷酷な言葉に、イザベラの顔がわずかに引きつった。
彼女も、ここまでの仕打ちは予想していなかったのかもしれない。
彼女の計画が、彼女の思惑通りには進んでいない。
逆らうこともできず、私は騎士たちに腕を引かれ、冷たく暗い、城の奥深くへと連れて行かれた。
最後に見たイザベラの顔は、美しい顔に、焦りの色が浮かんでいるように見えた。
それが、これから始まる新たな戦いの、ほんの序章に過ぎないことを、私はまだ知らなかった。
本当の地獄は、ここから始まるのだ。
罪人用の、窓もない護送用の馬車に押し込められ、私はただ、揺れに耐えるしかなかった。
自由など、どこにもない。
護衛の騎士たちは、私を人間として扱わなかった。
食事は、日に一度、硬い黒パンと水だけが、無造作に放り込まれる。
彼らが交わす会話の端々から、「偽聖女」「公爵様を誑かした女狐」といった侮蔑の言葉が、容赦なく私の耳に突き刺さった。
そして、私の隣を馬で並走するイザベラは、ことあるごとに私に嫌味を言ってくる。
休憩のたびに、わざわざ馬車の小窓を開けて、私の顔を覗き込み、嘲笑を浮かべるのだ。
「あなたみたいな偽物が、アレクシス公爵のような気高い方を誑かすなんて、本当に万死に値するわ」
「その力は、アルフォンス王太子殿下と、この国のために捧げるものよ。勘違いしないでちょうだいね」
その言葉の数々を、私はただ、感情を殺して黙って聞き流していた。
反論する気力もなかったし、彼女の目的が私の力を利用することである以上、下手に刺激して、アレクシス様に更なる危害が及ぶのだけは、避けたかったからだ。
私の心は、ずっと、ずっと、辺境の地に残してきた彼のことでいっぱいだった。
(アレクシス様、今頃どうしているだろう……)
(ちゃんと、食事はとっているかな……)
私が去った後、あの荒れ果てた大地は、どうなってしまうのだろうか。
私がそばにいなければ、また元の、あの生命の気配のない、死んだ土地に戻ってしまうのではないだろうか。
そうなれば、彼の呪いの苦痛も、また酷くなってしまうかもしれない。
あの、地獄のような夜が、また彼を襲うのかもしれない。
そう思うと、胸が締め付けられるように痛んだ。
私が彼を守るために選んだこの道は、結果的に、彼をさらに苦しめることになっているのではないか。
その矛盾が、重い鎖のように、私を苛む。
でも、後悔はしていない。
あのまま抵抗していれば、もっと最悪の事態になっていたはずだ。
彼が王家と戦い、血を流す姿なんて、絶対に見たくない。
(私が、強くならなくちゃ)
今は耐える時だ。
イザベラの言う通り、私の力が必要だというのなら、それを逆手に取ってやればいい。
王都で力を示し、発言権を得て、そして必ず、彼の元へ帰るための道筋を、この手で作る。
「……何を考えているのか知らないけれど、無駄なことは考えない方が身のためよ」
私の考えを見透かしたように、イザベラの冷たい声が、再び小窓から投げかけられた。
「あなたは、私たちの言う通りに、大人しく力を提供していればいいの。そうすれば、辺境の公爵様の身の安全も、保証してあげなくもないわ」
それは、紛れもない脅迫だった。
アレクシス様の命を、彼の領民たちの命を、人質に取られているのと同じだ。
「……承知しています」
私は、全ての感情を心の奥底に沈めて、そう答えた。
数日後、見慣れた王都の高い城壁が、馬車の隙間から見えてきた。
活気に満ちた街並み。
ついこの間まで、私が絶望の中で彷徨っていた場所。
でも、今はもう、あの頃の私ではない。
私には、帰る場所がある。
待っていてくれる人がいる。
その想いだけが、私を支える、唯一の、か細い光だった。
(アレクシス様……)
心の中で、彼の名前を呼ぶ。
触れることさえ許されない、不器用で、孤独で、優しい人。
あなたのその孤独を、私が終わらせるんだ。
必ず。
馬車は王宮の門をくぐり、中庭で乱暴に止められた。
外に引きずり出された私を待っていたのは、勝ち誇ったような、歪んだ笑みを浮かべるアルフォンス王太子だった。
「よくやった、イザベラ。そして、ご苦労だったな、偽聖女リリアーナ」
王太子は、私を汚物でも見るかのような目で一瞥すると、騎士たちに顎でしゃくって命じた。
「この女を、地下の部屋へ連れて行け。逃げ出さぬよう、厳重に見張っておけよ」
「お待ちください、王太子殿下!」
イザベラが、慌てたように声を上げた。
「リリアーナは、客人としてもてなすべきです。彼女の力が必要なのでしょう?」
「フン、偽物に客人の資格などないわ。それに、少し灸を据えてやらねば、自分がどんな惨めな立場か忘れそうだからな。力の使い方は、その後で考えればいい」
王太子の冷酷な言葉に、イザベラの顔がわずかに引きつった。
彼女も、ここまでの仕打ちは予想していなかったのかもしれない。
彼女の計画が、彼女の思惑通りには進んでいない。
逆らうこともできず、私は騎士たちに腕を引かれ、冷たく暗い、城の奥深くへと連れて行かれた。
最後に見たイザベラの顔は、美しい顔に、焦りの色が浮かんでいるように見えた。
それが、これから始まる新たな戦いの、ほんの序章に過ぎないことを、私はまだ知らなかった。
本当の地獄は、ここから始まるのだ。
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