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第13話:断ち切られる絆と、涙の約束
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「……行きます」
私の口から漏れたのは、か細く、けれど、覚悟を決めた、はっきりとした決意の声だった。
その瞬間、私を掴んでいたアレクシス様の腕の力が、わずかに、本当にわずかに緩む。
彼は信じられないという顔で、私を見つめた。
その蒼い瞳が、絶望に大きく見開かれている。
「リリアーナ……? 今、何を……言っている……?」
「イザベラ様と、王都へ行きます」
私は彼の目から視線を逸らさずに、繰り返した。
今、私が揺らいでしまえば、全てが壊れてしまう。
だから、心を鬼にして、彼を見つめ返した。
「だから、もう剣を収めてください、アレクシス様」
「何を馬鹿なことを言っている! 行かせるわけがないだろう!」
彼の声が、荒くなる。
当然だ。彼は私を守ろうと、王家を敵に回してでも、命懸けで戦おうとしてくれていたのだから。
「嫌だ! 絶対に行かせん! 君がいなくなったら、私は……!」
「君までいなくなったら、俺は……っ!」
そこまで言って、彼は苦しげに口を噤んだ。
その瞳が、悲痛に、絶望に揺れている。
君がいなくなったら、私はまた一人で、あの光のない、凍てついた呪いの闇に沈むことになる——。
そう、彼の瞳が雄弁に物語っていた。
その瞳を見ると、鋼鉄の鎧で固めたはずの決意が、ぐにゃりと鈍りそうになる。
胸が、張り裂けそうに痛い。
今すぐ、行きたくないと、ずっとあなたのそばにいたいと、子供のように泣き叫んでしまいたい。
でも、ダメだ。
私がここで我儘を言えば、彼は、彼の全てを失ってしまうかもしれない。
この領地も、彼の立場も、何もかも。
「アレクシス様」
私は、無理やり、本当に無理やり、精一杯の笑顔を作って、彼を見上げた。
頬を伝う涙で、ぐしゃぐしゃの笑顔だったかもしれない。
「大丈夫です。私は、私の力で、ちゃんと自分の身を守ります」
「そして……必ず、あなたの元へ帰ってきますから」
それは、祈りにも似た、私なりの、魂を込めた約束だった。
「だから、私を信じて、待っていてください」
私の言葉に、アレクシス様は絶望したように、力なくかぶりを振った。
「信じられるものか……! イザベラが、お前を無事に帰すはずがない……! あいつは、そういう女だ……!」
「あら、賢明な判断ね、リリアーナ。話が早くて助かるわ」
私たちの悲痛なやり取りを、満足げに聞いていたイザベラが、騎士たちに目配せをする。
その冷酷な仕草に、吐き気がした。
二人の騎士が、私の方へと、無慈悲に歩み寄ってきた。
「やめろ! 彼女に触るな!」
アレクシス様が再び剣を構えようとするのを、私は彼の前に立ちはだかって、その身体で制した。
「お願いです、アレクシス様……。私の最後の我儘です……」
「私を、信じて……」
堪えていた涙が、堰を切ったように、次から次へと溢れ出す。
彼の前では、決して泣かないと決めていたのに。
もう、限界だった。
私の涙を見て、アレクシス様の手から、力が抜けていくのが分かった。
握りしめていた剣が、カラン、と力なく地面に落ちる。
彼は、私の決意が、もう覆らないことを、悟ってしまったのだろう。
その顔には、怒りでもなく、悲しみでもなく……ただ、全てを失ったかのような、深い、深い虚無の色が浮かんでいた。
騎士に両腕を荒々しく掴まれ、私はイザベラの方へと引き寄せられる。
「さあ、帰りましょうか、偽聖女様?」
イザベラが、私の耳元で、勝利を確信した声で囁く。
私は、最後にもう一度だけ、アレクシス様の方を振り返った。
彼は、ただ、そこに立ち尽くしていた。
月明かりの下、その姿はあまりにも孤独で、儚く、今にも消えてしまいそうで、私の胸を、ナイフで抉るように締め付けた。
(ごめんなさい……ごめんなさい、アレクシス様……)
(でも、必ず……必ず帰ってくるから……)
心の中で、何度も何度も謝る。
どんな手を使っても、必ずあなたの元へ。
それが、無情にも引き裂かれようとしている、私たちの唯一の絆だった。
馬に乗せられ、王都へと向かう道中、私は一度も後ろを振り返らなかった。
振り返ってしまえば、きっと、心が折れてしまいそうだったから。
ただ、彼の絶望に満ちた蒼い瞳だけが、瞼の裏に、熱い烙印のように焼き付いて、決して離れなかった。
私の口から漏れたのは、か細く、けれど、覚悟を決めた、はっきりとした決意の声だった。
その瞬間、私を掴んでいたアレクシス様の腕の力が、わずかに、本当にわずかに緩む。
彼は信じられないという顔で、私を見つめた。
その蒼い瞳が、絶望に大きく見開かれている。
「リリアーナ……? 今、何を……言っている……?」
「イザベラ様と、王都へ行きます」
私は彼の目から視線を逸らさずに、繰り返した。
今、私が揺らいでしまえば、全てが壊れてしまう。
だから、心を鬼にして、彼を見つめ返した。
「だから、もう剣を収めてください、アレクシス様」
「何を馬鹿なことを言っている! 行かせるわけがないだろう!」
彼の声が、荒くなる。
当然だ。彼は私を守ろうと、王家を敵に回してでも、命懸けで戦おうとしてくれていたのだから。
「嫌だ! 絶対に行かせん! 君がいなくなったら、私は……!」
「君までいなくなったら、俺は……っ!」
そこまで言って、彼は苦しげに口を噤んだ。
その瞳が、悲痛に、絶望に揺れている。
君がいなくなったら、私はまた一人で、あの光のない、凍てついた呪いの闇に沈むことになる——。
そう、彼の瞳が雄弁に物語っていた。
その瞳を見ると、鋼鉄の鎧で固めたはずの決意が、ぐにゃりと鈍りそうになる。
胸が、張り裂けそうに痛い。
今すぐ、行きたくないと、ずっとあなたのそばにいたいと、子供のように泣き叫んでしまいたい。
でも、ダメだ。
私がここで我儘を言えば、彼は、彼の全てを失ってしまうかもしれない。
この領地も、彼の立場も、何もかも。
「アレクシス様」
私は、無理やり、本当に無理やり、精一杯の笑顔を作って、彼を見上げた。
頬を伝う涙で、ぐしゃぐしゃの笑顔だったかもしれない。
「大丈夫です。私は、私の力で、ちゃんと自分の身を守ります」
「そして……必ず、あなたの元へ帰ってきますから」
それは、祈りにも似た、私なりの、魂を込めた約束だった。
「だから、私を信じて、待っていてください」
私の言葉に、アレクシス様は絶望したように、力なくかぶりを振った。
「信じられるものか……! イザベラが、お前を無事に帰すはずがない……! あいつは、そういう女だ……!」
「あら、賢明な判断ね、リリアーナ。話が早くて助かるわ」
私たちの悲痛なやり取りを、満足げに聞いていたイザベラが、騎士たちに目配せをする。
その冷酷な仕草に、吐き気がした。
二人の騎士が、私の方へと、無慈悲に歩み寄ってきた。
「やめろ! 彼女に触るな!」
アレクシス様が再び剣を構えようとするのを、私は彼の前に立ちはだかって、その身体で制した。
「お願いです、アレクシス様……。私の最後の我儘です……」
「私を、信じて……」
堪えていた涙が、堰を切ったように、次から次へと溢れ出す。
彼の前では、決して泣かないと決めていたのに。
もう、限界だった。
私の涙を見て、アレクシス様の手から、力が抜けていくのが分かった。
握りしめていた剣が、カラン、と力なく地面に落ちる。
彼は、私の決意が、もう覆らないことを、悟ってしまったのだろう。
その顔には、怒りでもなく、悲しみでもなく……ただ、全てを失ったかのような、深い、深い虚無の色が浮かんでいた。
騎士に両腕を荒々しく掴まれ、私はイザベラの方へと引き寄せられる。
「さあ、帰りましょうか、偽聖女様?」
イザベラが、私の耳元で、勝利を確信した声で囁く。
私は、最後にもう一度だけ、アレクシス様の方を振り返った。
彼は、ただ、そこに立ち尽くしていた。
月明かりの下、その姿はあまりにも孤独で、儚く、今にも消えてしまいそうで、私の胸を、ナイフで抉るように締め付けた。
(ごめんなさい……ごめんなさい、アレクシス様……)
(でも、必ず……必ず帰ってくるから……)
心の中で、何度も何度も謝る。
どんな手を使っても、必ずあなたの元へ。
それが、無情にも引き裂かれようとしている、私たちの唯一の絆だった。
馬に乗せられ、王都へと向かう道中、私は一度も後ろを振り返らなかった。
振り返ってしまえば、きっと、心が折れてしまいそうだったから。
ただ、彼の絶望に満ちた蒼い瞳だけが、瞼の裏に、熱い烙印のように焼き付いて、決して離れなかった。
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