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3章
第──48
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「俺は砂漠を迂回して、西北西に向かうよ」
そう言ってニキアスさんはまた旅立った。
俺たちも翌朝には再び来た道を戻って、依頼主の村へと引き返す。
その時、手ごろな石に転移の印を書き込んで、王都内にある公園の茂みに置いてきた。
行きと違い荷物のなくなった荷車を引く馬は元気よく駆け、6日目の夜には到着した。
「遅い時間になっちまっただな。けんど途中で野宿するほどでもなかったしなぁ」
「空くんたちは、よかったら家の宿に泊まっていくんしゃい。もちろん宿賃はいらんよ」
「おぉ、やった!」
お言葉に甘えて、タダ宿ゲット。
食後は桶のお湯で体をサっと拭くだけにして就寝。
『きゅっ』
「毛玉。あんまくっつくなよ。暑いからさ」
『きゅうきゅうきゅうぅぅ』
嫌だとでもいいたいのか、毛玉がぐいぐいくっついてくる。
可愛いんだけど、暑いんだよ。
「そうだ。砂漠に行くんだったら、毛玉の毛、少し刈った方がいいだろうか?」
村の宿は一部屋に二段ベッドが二つ置かれた四人部屋だ。
向かいのベッドにはリシェルたちが既に潜り込んでいる。
「そうですねぇ。魔獣化して、毛が伸びていますものねぇ」
「王都に行ったときに、散髪用の鋏を買いましょうか」
「そうだな」
「ついでに空の髪も切りましょうよ。こっちの世界に来たばかりの頃に比べると、だいぶん伸び放題よ」
「そうかなぁー」
前髪をくるくると弄りながら──うん、伸びすぎてるな。
もともと俺は前髪を伸ばす方だった。
少しでも花粉が目に入る面積を減らそうと、目にかかぐほど伸ばしていたんだ。
異世界に来てそろそろ三カ月になるか。
前に髪を切ったのはいつだったかなぁ。
「ふわぁぁ~。それじゃあおやすみ~」
「おやすみなさいませ」
『んきゅうぅ』
それじゃあ俺も寝ようかね。
ベッドの横の机に置かれたランタンの火を消そうと手を伸ばすが……と、届かない。
精一杯腕を伸ばしてぷるぷるしていると、その上を毛玉がのしのしと歩いて行く。
『んぎゅう……きゅっ』
手──ではなく、耳でランタンの摘みを器用に回す毛玉。
そしてドヤっと振り返るのだが。
「毛玉……重い」
腕一本に奴の全体重が乗って、もう耐えれません!
『きゅっ』
ぴょんと軽くはねてベッドへと戻ってくると、頭をすりすりと俺の腹にこすりつけてくる。
もういいよ。好きなだけくっついて寝やがれ。
「う……うぅ……」
朝。
胸が苦しくて目が覚めた。
そしたら顎のすぐ下にまりもがあった。
違う。
毛玉の尻尾だ。
つまりこいつは俺の顔に尻を向けて、俺の胸の上で寝ていたということ。
「毛玉……重い」
『ぷぃー……ぷぃー……ぷ……』
寝息か? それとも鼻提灯か?
急に音が止まって、毛の塊がもぞりと動く。
『んきゅう』
振り向きながら甘えた声を出して、ぐるりと反転して顔をこすりつけてくる。
「分かった。分かったから起きろ。いや降りろ。重い」
『きゅっきゅ』
ぽてりと胸から毛玉が下りると、全てから解放されたように軽くなった。
「んん~、おはようぉ。どうしたのぉ?」
俺と同じく二段ベッドの上の階で寝ていたシェリルが、寝ぼけ眼で挨拶をしてくる。
「毛玉が俺の上で寝ていたんだよ。息苦しくて目を覚ました」
「ふぅん。毛玉に愛されてるのねぇ」
「でもこれ雄だぞ」
「毛玉は動物じゃない。雄雌関係ないじゃないの? それとも毛玉が雄しか愛せない兎だと思ってる?」
……そんなこと、深く考えたことなかった。
いや考えたくねーよ。
リシェルを起こして食堂へ行くと、村の人が食事の用意をしてくれていた。
ゆっくりテーブルに腰を落ち着かせて食べる食事は美味かった。
「食後にデザートはいかがかい? 丁度食べごろのドリンがあってね」
『きゅい!! きゅっきゅう』
「あー……じ、じゃあ……お願いします」
真っ先に反応したのは毛玉だった。
その様子に村の人も笑い、毛玉のためにドリンを二つも出してくれた。
「いやぁ、空くんがいてくれると、臭いのがないからいいねぇ」
「栽培しているから臭いに慣れていると思ったけど、おじさんたちでも臭いの?」
「そりゃあ臭いさ、エルフのお嬢ちゃん。まぁ他の人に比べれば我慢できるようになっているだろうけどね」
「それでもアタシらは、美味しいことを知っているからねぇ。このぐらいの臭いなら我慢するさ」
『むっきゅむっきゅむっ──』
細切れにされたドリンが盛られた皿を見て、そして俺を見て、毛玉は首を傾げる。
しばらく見比べた後、皿を咥えて歩き始めた。
「おい毛玉。どこに持っていくんだ」
『ぎゅっ!』
追いかけようとすると、後ろ足で立ち上がった毛玉は「来るな」というジェスチャーを。
「空さん。もしかして毛玉は、ドリンの臭いを嗅ぎながら食べたいのでは?」
「うぇ、あんなくっさい臭いをか?」
「ドリンの臭いは魔物を寄せ付けるでしょ? 毛玉にとってはこの上なく美味しそうな臭いに感じるんじゃない?」
常時、空気清浄が発動しっぱなしの俺がいちゃあ、美味い飯も無臭になるってか。
くそぅ、寂しいじゃねーか。
そう言ってニキアスさんはまた旅立った。
俺たちも翌朝には再び来た道を戻って、依頼主の村へと引き返す。
その時、手ごろな石に転移の印を書き込んで、王都内にある公園の茂みに置いてきた。
行きと違い荷物のなくなった荷車を引く馬は元気よく駆け、6日目の夜には到着した。
「遅い時間になっちまっただな。けんど途中で野宿するほどでもなかったしなぁ」
「空くんたちは、よかったら家の宿に泊まっていくんしゃい。もちろん宿賃はいらんよ」
「おぉ、やった!」
お言葉に甘えて、タダ宿ゲット。
食後は桶のお湯で体をサっと拭くだけにして就寝。
『きゅっ』
「毛玉。あんまくっつくなよ。暑いからさ」
『きゅうきゅうきゅうぅぅ』
嫌だとでもいいたいのか、毛玉がぐいぐいくっついてくる。
可愛いんだけど、暑いんだよ。
「そうだ。砂漠に行くんだったら、毛玉の毛、少し刈った方がいいだろうか?」
村の宿は一部屋に二段ベッドが二つ置かれた四人部屋だ。
向かいのベッドにはリシェルたちが既に潜り込んでいる。
「そうですねぇ。魔獣化して、毛が伸びていますものねぇ」
「王都に行ったときに、散髪用の鋏を買いましょうか」
「そうだな」
「ついでに空の髪も切りましょうよ。こっちの世界に来たばかりの頃に比べると、だいぶん伸び放題よ」
「そうかなぁー」
前髪をくるくると弄りながら──うん、伸びすぎてるな。
もともと俺は前髪を伸ばす方だった。
少しでも花粉が目に入る面積を減らそうと、目にかかぐほど伸ばしていたんだ。
異世界に来てそろそろ三カ月になるか。
前に髪を切ったのはいつだったかなぁ。
「ふわぁぁ~。それじゃあおやすみ~」
「おやすみなさいませ」
『んきゅうぅ』
それじゃあ俺も寝ようかね。
ベッドの横の机に置かれたランタンの火を消そうと手を伸ばすが……と、届かない。
精一杯腕を伸ばしてぷるぷるしていると、その上を毛玉がのしのしと歩いて行く。
『んぎゅう……きゅっ』
手──ではなく、耳でランタンの摘みを器用に回す毛玉。
そしてドヤっと振り返るのだが。
「毛玉……重い」
腕一本に奴の全体重が乗って、もう耐えれません!
『きゅっ』
ぴょんと軽くはねてベッドへと戻ってくると、頭をすりすりと俺の腹にこすりつけてくる。
もういいよ。好きなだけくっついて寝やがれ。
「う……うぅ……」
朝。
胸が苦しくて目が覚めた。
そしたら顎のすぐ下にまりもがあった。
違う。
毛玉の尻尾だ。
つまりこいつは俺の顔に尻を向けて、俺の胸の上で寝ていたということ。
「毛玉……重い」
『ぷぃー……ぷぃー……ぷ……』
寝息か? それとも鼻提灯か?
急に音が止まって、毛の塊がもぞりと動く。
『んきゅう』
振り向きながら甘えた声を出して、ぐるりと反転して顔をこすりつけてくる。
「分かった。分かったから起きろ。いや降りろ。重い」
『きゅっきゅ』
ぽてりと胸から毛玉が下りると、全てから解放されたように軽くなった。
「んん~、おはようぉ。どうしたのぉ?」
俺と同じく二段ベッドの上の階で寝ていたシェリルが、寝ぼけ眼で挨拶をしてくる。
「毛玉が俺の上で寝ていたんだよ。息苦しくて目を覚ました」
「ふぅん。毛玉に愛されてるのねぇ」
「でもこれ雄だぞ」
「毛玉は動物じゃない。雄雌関係ないじゃないの? それとも毛玉が雄しか愛せない兎だと思ってる?」
……そんなこと、深く考えたことなかった。
いや考えたくねーよ。
リシェルを起こして食堂へ行くと、村の人が食事の用意をしてくれていた。
ゆっくりテーブルに腰を落ち着かせて食べる食事は美味かった。
「食後にデザートはいかがかい? 丁度食べごろのドリンがあってね」
『きゅい!! きゅっきゅう』
「あー……じ、じゃあ……お願いします」
真っ先に反応したのは毛玉だった。
その様子に村の人も笑い、毛玉のためにドリンを二つも出してくれた。
「いやぁ、空くんがいてくれると、臭いのがないからいいねぇ」
「栽培しているから臭いに慣れていると思ったけど、おじさんたちでも臭いの?」
「そりゃあ臭いさ、エルフのお嬢ちゃん。まぁ他の人に比べれば我慢できるようになっているだろうけどね」
「それでもアタシらは、美味しいことを知っているからねぇ。このぐらいの臭いなら我慢するさ」
『むっきゅむっきゅむっ──』
細切れにされたドリンが盛られた皿を見て、そして俺を見て、毛玉は首を傾げる。
しばらく見比べた後、皿を咥えて歩き始めた。
「おい毛玉。どこに持っていくんだ」
『ぎゅっ!』
追いかけようとすると、後ろ足で立ち上がった毛玉は「来るな」というジェスチャーを。
「空さん。もしかして毛玉は、ドリンの臭いを嗅ぎながら食べたいのでは?」
「うぇ、あんなくっさい臭いをか?」
「ドリンの臭いは魔物を寄せ付けるでしょ? 毛玉にとってはこの上なく美味しそうな臭いに感じるんじゃない?」
常時、空気清浄が発動しっぱなしの俺がいちゃあ、美味い飯も無臭になるってか。
くそぅ、寂しいじゃねーか。
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