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7話 グランとローザ その2
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「以前お借りしました推理小説でございますが、とても楽しく拝見できましたわ」
「そうでしたか、アイシャ嬢。よかったです」
「最後の犯人……と言いましょうか。結局、全員が死んでしまったようになり、推理が及びませんでしたが」
「最後の種明かしはボトルシップで明かされるというところが好きなのです」
「確かに……奥ゆかしさがありました」
私はチェスター様と一緒に推理小説の話題で盛り上がっていた。本日もとあるパーティーに参加しているのだけれど、以前に借りた本を彼に返したわけで。非常に面白い推理小説であり、チェスター様はこういった小説を好んで読んでいるみたい。私の趣味の本とは大分違うけれど、これを機に推理小説を好きになっても良いくらいに面白かった。
本日はパーティーに出席している為にシルファも護衛役として付いてくれている。チェスター様は挨拶回りは既に終えており、今は自由時間とのことだ。
「チェスター様はもう挨拶の方は大丈夫なんですか?」
「ええ、私の方は大丈夫ですよ。ええと……アイシャ嬢は……」
やや言いにくそうにしているチェスター様。気を遣ってくれているのが良く分かる。
「私はその今は挨拶を交わす相手がいませんので、大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」
「いえ、とんでもないことでございます。しかし……噂は少しずつではありますが、終息しているように感じませんか?」
「はい、そうですね。言われてみれば確かに……」
周囲の様子を見ても私に対する好奇な目線が減少しているように感じられた。チェスター様とは最初のパーティーで知り合ってから4度目のパーティーを一緒にしている。最初こそチェスター様に対する好奇な視線もあったけれど、今は完全になくなっているようだ。
「私がアイシャ嬢とこうして話すのが自然になり、周りもそれに慣れ始めたのかもしれませんね」
「なるほど、そういうことでしたか。確かにそれなら合点がいきますわ」
人間というのは環境に慣れてしまう生き物なのだ。それは貴族だって変わりはしない。このまま上手くいけば私に対する変な噂もなくなっていくかもしれない。そうすれば嬉しい限りだけど……。
「ねえ、シルファ」
「はい。なんでしょうかお嬢様」
私は隣に立っている冷静沈着なシルファに話し掛けた。彼女は人よりも耳が良い。
「私に対する変な噂はまだ話されているかしら?」
「いえ、何度か妙な視線は感じましたがこれといって話している者の気配は感じませんでした。チェスター様のおっしゃる通り、周りが現状に慣れて行っているのだと推測できます」
「なるほど、やっぱりそうなのね」
「よかったですね、アイシャ嬢。私としても不本意な噂話だったので、気にはなっていたのです。あまりに長く続くようでしたら、辺境伯の権力を通して黙らせようかとも考えていました」
「チェスター様……冗談ですよね?」
「ははは、どうでしょうか」
「ええ~……」
チェスター様と何度も話してわかったのだけれど、彼は見た目に反してお茶目な一面があったりする。一言で言えばギャグに対しても造詣が深い。ギャグを造形と称していいかは置いておいて。
「チェスター様の心拍数などから換算して……今の言葉は本気の可能性が高いです」
「ちょっとシルファ。何を計算しているのよ! チェスター様に失礼でしょ!」
シルファは基本的には真面目だけれど、こういう冷静にボケる時がある。本人は至って真面目みたいだけれど。
「流石は元冒険者のシルファ殿。私の心の中は見透かされていましたか」
「あははは、失礼致しました……」
会場内の一部の区画はこうして笑いに包まれていた。本来なら辺境伯のチェスター様に失礼な言動もあったけれど、彼は笑って許してくれている。シルファも固い表情ながら笑っていた。こんなささやかな日々がずっと続いて欲しい。今の私にはそれがはっきりと思えた。
噂話も次第に終息していって……あれ?
「ちょっ……あの二人って……」
シルファもすぐに真面目な顔に戻った。
「お嬢様少し隠れていただけますか? グラン様とローザ様に見つかってしまいます」
パーティー会場なのだから出会って当然なのかもしれない……私は忘れかけていた二人の存在を今さら思い出してしまった。なんでよりにもよって、こんな楽しい時に来るのよ……!
「そうでしたか、アイシャ嬢。よかったです」
「最後の犯人……と言いましょうか。結局、全員が死んでしまったようになり、推理が及びませんでしたが」
「最後の種明かしはボトルシップで明かされるというところが好きなのです」
「確かに……奥ゆかしさがありました」
私はチェスター様と一緒に推理小説の話題で盛り上がっていた。本日もとあるパーティーに参加しているのだけれど、以前に借りた本を彼に返したわけで。非常に面白い推理小説であり、チェスター様はこういった小説を好んで読んでいるみたい。私の趣味の本とは大分違うけれど、これを機に推理小説を好きになっても良いくらいに面白かった。
本日はパーティーに出席している為にシルファも護衛役として付いてくれている。チェスター様は挨拶回りは既に終えており、今は自由時間とのことだ。
「チェスター様はもう挨拶の方は大丈夫なんですか?」
「ええ、私の方は大丈夫ですよ。ええと……アイシャ嬢は……」
やや言いにくそうにしているチェスター様。気を遣ってくれているのが良く分かる。
「私はその今は挨拶を交わす相手がいませんので、大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」
「いえ、とんでもないことでございます。しかし……噂は少しずつではありますが、終息しているように感じませんか?」
「はい、そうですね。言われてみれば確かに……」
周囲の様子を見ても私に対する好奇な目線が減少しているように感じられた。チェスター様とは最初のパーティーで知り合ってから4度目のパーティーを一緒にしている。最初こそチェスター様に対する好奇な視線もあったけれど、今は完全になくなっているようだ。
「私がアイシャ嬢とこうして話すのが自然になり、周りもそれに慣れ始めたのかもしれませんね」
「なるほど、そういうことでしたか。確かにそれなら合点がいきますわ」
人間というのは環境に慣れてしまう生き物なのだ。それは貴族だって変わりはしない。このまま上手くいけば私に対する変な噂もなくなっていくかもしれない。そうすれば嬉しい限りだけど……。
「ねえ、シルファ」
「はい。なんでしょうかお嬢様」
私は隣に立っている冷静沈着なシルファに話し掛けた。彼女は人よりも耳が良い。
「私に対する変な噂はまだ話されているかしら?」
「いえ、何度か妙な視線は感じましたがこれといって話している者の気配は感じませんでした。チェスター様のおっしゃる通り、周りが現状に慣れて行っているのだと推測できます」
「なるほど、やっぱりそうなのね」
「よかったですね、アイシャ嬢。私としても不本意な噂話だったので、気にはなっていたのです。あまりに長く続くようでしたら、辺境伯の権力を通して黙らせようかとも考えていました」
「チェスター様……冗談ですよね?」
「ははは、どうでしょうか」
「ええ~……」
チェスター様と何度も話してわかったのだけれど、彼は見た目に反してお茶目な一面があったりする。一言で言えばギャグに対しても造詣が深い。ギャグを造形と称していいかは置いておいて。
「チェスター様の心拍数などから換算して……今の言葉は本気の可能性が高いです」
「ちょっとシルファ。何を計算しているのよ! チェスター様に失礼でしょ!」
シルファは基本的には真面目だけれど、こういう冷静にボケる時がある。本人は至って真面目みたいだけれど。
「流石は元冒険者のシルファ殿。私の心の中は見透かされていましたか」
「あははは、失礼致しました……」
会場内の一部の区画はこうして笑いに包まれていた。本来なら辺境伯のチェスター様に失礼な言動もあったけれど、彼は笑って許してくれている。シルファも固い表情ながら笑っていた。こんなささやかな日々がずっと続いて欲しい。今の私にはそれがはっきりと思えた。
噂話も次第に終息していって……あれ?
「ちょっ……あの二人って……」
シルファもすぐに真面目な顔に戻った。
「お嬢様少し隠れていただけますか? グラン様とローザ様に見つかってしまいます」
パーティー会場なのだから出会って当然なのかもしれない……私は忘れかけていた二人の存在を今さら思い出してしまった。なんでよりにもよって、こんな楽しい時に来るのよ……!
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