悪役令嬢になりましたので、自分好みのイケメン近衛騎士団を作ることにしました

時を操った少女

第383話-見たことのある光景-

　当てが外れた。もちろんここにいる精霊憑きは一つの手段でしかない。だけどそれなりに期待はしていた。
　今抱えている問題を解決できるかもしれないという希望は儚く消えていった。

「時間を戻せたら話は早かったのになぁ」

　愚痴ではない。ただの感想だ。
　だけど少し落胆の気持ちのこもった一言。
　外に出ると馬車の周りでは男連中が稽古をしていた。
　ヤンと言う男の剣の腕はそれなりだ。ただ、それでは足りない。今ここにいる人間では誰も彼もが事が起こった時には無力だ。
　魔法の力も戦う力も未熟、そうとしか言えなかった。

「お疲れさん」
「疲れてないよ」

　バレルと言う男は距離が近い。物理的距離も心的距離もだった。なにぶん声がでかい。
　ふと辺りを見渡す。風が気持ちいい。
　風に吹かれて花びらが飛んでいく。ピンクの花びらが空中を舞う様子は綺麗で心が休まる。
　ただ、既視感を覚えた。いや、肌感覚のようなものか。

「どうした？」
「静かに」

　バレルを制止してその場で辺りを見渡した。
　山に囲まれたこの場所、小さな湖、少し離れたところには木々が生い茂った林がある。
　特徴的なのは山に囲まれたこの場所だ。
　地面に手をついて大地の声を聞く。大地の声と言っても喋るわけじゃない。
　地面にも生命力がある。それを感じ取っているだけだ。集中すると手のひらに感覚が伝わってくる。鼓動のような感覚が波打ってくる。
　その中に知っている生命力を感じた。

「お、おい。どこいくんだよ」

　言葉は届いていたが反応することもなく走って林へと走り出す。

「ついてくるな！」

　理由は言わない。言っている時間さえもったいない。
　探し求めいた場所がこの先にあるかもしれないのだから。